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2016 Highlights of ASH in Asia-Pacific in Brisbane 派遣レポート 長尾 梓(荻窪病院血液科)

更新日時:2017年1月5日

長尾 梓

このたび日本血液学会からの推薦を得て、オーストラリア ブリスベンで行われたHighlight of ASHに参加してきましたので報告します。まず、最初にこの様なすばらしい機会を下さった日本血液学会およびASHの先生方、スタッフの皆さん、忙しい時期の出張でご迷惑をかけた外来看護師さんに深謝申し上げます。本当に有難うございました。
私は血友病(および類縁疾患、血栓症、ITP、TTP、LA、HIV感染症など)の診療に携わっており、いわゆるHematologistとは少し専門が違うため心配でしたが、日本血液学会の先生方の寛大なご配考本当にありがとうございます。
HOAは土日の二日間で行われましたが、我々派遣医師は前日のトレーニングコースに参加することを要請されます。アジア各国からの派遣医師が総勢30名程度でしょうか参加していました。論文の書き方や英語での口頭発表の要点などについての講義を受けますが、とにかく休憩が多くその間に他国の派遣医師と話をします(させられます、のほうが正しいか)。例えば同じテーブルのスリランカの医師からスリランカの医師は全員が必ず外国(主にUK)での臨床経験が必要と聞いてうらやましく思いました。その後、エキスパートの先生方とランチをします。様々な分野のエキスパートの先生が参加してくださり事前にテーブルを予約するのですが、私はもちろんbleeding disorderの先生とのランチをお願いしました。各国の血友病を診療している先生方がテーブルに集まり難しい症例や新しい研究について話しました。印象的だったのはフィリピンには遺伝子組み換え製剤はおろか血漿由来凝固因子製剤も他国からの寄付のもので期限は2-3年切れており、ほとんどの人がクリオを使っているため定期補充療法のことはもちろん知っているが実際はできない。しかもクリオはインヒビター発生率が高いがバイパス製剤はないのでたくさんのクリオを使って(中和療法)止血しているのが現状だとのこと。ミャンマーではAPCCはあるがrFVIIaは使えないので血友病Bインヒビターの手術はどうしたらいいか、その他にも後天性血友病の心疾患に対する抗凝固薬をどうすればいいかなど話題は多岐にわたり非常に有意義な時間でした。

HOAは一つの会場で行われ、様々な疾患についてのHighlight of Abstractを代表の先生が発表してくださるという流れで行われます。1日目に行われたThrombosis and AnticoagulationのセッションではVTE及びPEに対するDOACの使用などについての発表があり、私が興味を持ったのは術後などの契機が明確でBackgroundのないVTEに対してはDOACが第一選択でしかも3か月以上は継続してはいけないと明言していたことでした。3か月以上DOACを継続しても3か月で中止した場合と再発率は変わらないが、出血のリスクが高まるという論文が紹介されました。(Boutitie F,et al.(2011) BMJ 342:d3036.)2日目のBleeding disorderのセッションでは、まだPublishされていないが非常に重要な臨床研究の発表がありました。RODIN試験は血漿由来製剤と遺伝子組み換え製剤のインヒビター発生率は変わらないとした後ろ向き研究で非常に有名ですが、SIPPET Studyという前向き試験で血漿由来製剤の方がインヒビター発生率が低いことが示されました。理由は不明です。このStudyには凝固因子延長型製剤やヒト細胞由来遺伝子組み換え製剤は含まれていませんので今後の情報の蓄積が必要ですし、現在ほぼ全員が遺伝子組み換え製剤で輸注を開始する時代ですので、どのような患者に血漿由来製剤を勧めるのかなど難しい問題があります。Barbara先生はこの研究に関連して黒人と白人ではFVIIIのNonsynonymous single-nucleotide polymorphisms が違うので白人タイプの遺伝子組み換え製剤を使っている黒人でインヒビターが多いとされてきましたが、最近否定されたことに言及されていました(Blood. 2015 Aug 13;126(7):895-904.)。

ブリスベンは川を挟んで街が栄えているとても綺麗でこじんまりした町でした。ちょうど夏の終わりごろで素晴らしい気候でした。人も優しく日本人に人気なのがよくわかりました。航空券、ホテルなど全てASHから提供され最新の血液学を勉強できる非常に素晴らしい企画なのでぜひ皆さん応募してみてください。

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