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2014 Highlights of ASH in Asia in Singapore 派遣レポート 角南 義孝(順天堂大学医学部内科学血液学講座)

更新日時:2017年1月5日

角南 義孝

このたび3月29日から30日にかけてシンガポールで行われた、2014 Highlights of ASH in Asiaに日本血液学会からの派遣医師として参加してまいりましたので、ここにご報告させていただきます。

成田から約6時間のフライトで到着したシンガポールは、冬の寒さが残る日本と異なり、真夏のような高温多湿の気候で、日本では重宝していた薄手のコートも、すぐに無用の長物となりました。学会はシンガポールの中心部にあるSuntec Singapore Convention Centerで行われ、13カ国から400人程度の血液内科医や研究者が参加していました。講演はセミナーとパネルディスカッションの形式で行われ、まずその分野のエキスパートが臨床で遭遇する治療方針決定に悩むような症例を提示し、その解答となるような昨年のASHの発表を解説するという形で進行していきました。全体を通して、膨大な量のASHの発表が、分野ごとにコンパクトにまとまっており、非常にわかりやすく勉強になる内容でした。各分野の発表前に、その分野のreviewをアジアの状況を踏まえながら簡単に説明してくれるのですが、これが非常に興味深く、例えばインドでは病院へのアクセスが十分に整備されていない背景があり、CML患者のほとんどが移行期で発見されるといったことが述べられており、日本と他国の医療の違いを垣間見たように感じました。また講演とは別にポスターセッションの時間があり、昨年のASHにAsiaから発表されたポスターをみることができました。なかでも日本人のポスター数が比較的多く、日本の研究レベルの高さを感じるとともに、自分自身にとっては大きな刺激になりました。

発表の内容で印象的だったのは、日本で適応となっていない新規薬剤の臨床試験についてでした。AMLに対するFLT3阻害薬(#624)、ALLに対するCD19-CAR療法(#69)、NHLに対するPI3K阻害剤(#85, #371)など、日本ではまだ未認可の薬剤による良好な治療成績が報告されており、特に急性白血病の分野において、ブレークスルーを期待させるような発表が多かったのが印象的でした。また次世代シークエンサーの台頭により、遺伝子解析を主眼とした報告が多かったようで、Highlights of ASHでもGenomics in Hematologyというセッションが設けられているほどでした。これらの研究の最も大きな成果と考えられるのが、MPNにおけるCALR変異の報告でした(#LBA-01, -2, N Eng J Med. 2013; 369: 2391-405)。これはJAK2/MPL変異のないETやMF患者において70-84%と効率にCALR遺伝子の欠失・挿入変異が認められるという報告で、今後、WHOの診断基準に組み込まれる可能性の高い大発見です。しかし、CALR変異が腫瘍を引き起すメカニズムは、まだ解明されておらず、今後の研究による、MPN発症メカニズムのさらなる解明に期待が持たれます。今後、CALR変異にJAK2V617Fのような意義付けがなされた場合には、MPNの診断に大きなインパクトを与えることが予想され、今回も大きな話題となっていました。

最後に、短いシンガポールでの滞在でしたが、シンガポールで活躍されている日本人の先生や、日本から発表のために参加されている先生など、大きな学会では、直接、お会いする機会がなかなか持てない先生方とお話できたことも、非常に良い経験になりました。このような貴重な機会を与えてくださった日本血液学会の皆様、そして小松則夫先生に、この場を借りて、心から感謝申し上げます。

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