2025年2月21日~23日にかけて開催されたHighlight of ASH (HOA) in Asia-Pacificに日本血液学会からの派遣生として参加させて頂きました。
私は医師7年目で、これまでは主に病棟の臨床業務に携わり、来年度から大学院進学を予定しています。これまでHOAについて興味はあったものの、英語に対する不安が勝ってしまい一歩踏み出せずにいました。偶然2024年HOAに参加された先輩にお話をお聞きすることができ、その魅力的な内容からぜひ参加したいと思うようになり、この度応募を決めました。HOAの3日間はたくさんの学び、経験、出会いが溢れており、これらを軸にご報告をさせて頂きます。
全体の構成は例年と同様で、2月21日がClinical Research Trainee Day (CRTD), 2月22日から23日がHOA (ASHで発表された演題の振り返り) でした。
CRTDではリサーチクエスチョンの設定・臨床研究の組み立て方, data management, mentorshipなどについての講義、少人数でのグループディスカッションなどがありました。普段病院で臨床をしていると系統立て教わる機会が少ない分野であり、大学院で活かせそうな内容も多く勉強になりました。特に印象的だったのは、クリニカルクエスチョンの設定、臨床研究の組み立てに方に関する講義です。午前に行われた講義をもとに、午後のグループディスカッションで臨床の疑問をリサーチクエスチョンに落とし込むという一連の流れを体験しました。研究や医学論文においては曖昧さが許されないと、これまで指導医から教わってきましたが、まさにその通りで、研究対象やコントロールの設定、評価方法や時期などの各項目について、抽象的な表現を分解し、具体的に定義することの重要性を再認識しました。また研究の意義や質の評価についてのお話もあり、背景知識の習得や新規性、妥当性の検証など、研究開始前の準備が極めて重要であるということも学びました。研究の質はリサーチクエスチョンの設定にかかっているという話も聞いたことがあり、今後自身で研究を行っていく上で意識しなければと思いました。
2月22日から23日のHOA全体を通して印象に残ったのは、分子標的薬や細胞遺伝子療法といったtarget therapyの目覚ましい進歩と微小残存病変 (MRD) を基本とした治療効果判定の重要性です。悪性リンパ腫における二重特異性抗体のearly phaseでの使用や、分子標的薬とのcombination therapy, また様々な疾患において作用機序の異なる分子標的薬を複数組み合わせることで奏功率上昇やMRDの早期陰性化の達成、予後不良因子のovercomeに繋がることを知りました。ここ数年で使用できるようになった薬剤がさらに予後を改善させるかもしれないという, target therapyの持つ可能性を感じました。
また同種移植のセッションでは、同種移植を行ったあとに、患者血球に特異的なminor histocompatibility antigenを認識する受容体を発現したドナーT細胞を輸注することで再発率低下, relapse free survival延長に寄与するという報告がありました。同種移植, CAR-T療法, ドナーリンパ球輸注 (DLI) の融合のような発想に強い衝撃を受けました。
世界の第一線で活躍される先生方の高い熱量を持ったプレゼンテーションに、会場は活気に溢れていました。また演者の先生方皆さんが、全ての質問に大変丁寧に答えてくださっていたのも印象的でした。英語での質疑は手が震えるほど緊張しましたが、各分野のトップランナーの先生方に直接質問ができる機会は滅多になく大変勉強になったとともにいい経験になりました。
今回のHOAでは国内外の血液内科医とのたくさんの出会いがありました。英語の壁と知っている人が誰もいない環境に不安を抱えながら横浜に向かいましたが、日本血液学会からの派遣生の皆さんは気さくな方ばかりで、初対面とは思えないくらいすぐに打ち解けることができました。とても楽しく濃い時間を過ごすことができたのは皆さんのおかげです。お互いの診療や研究、将来、プライベートの話をする中で、皆さんのパッションに良い刺激を受け、私も頑張ろうと思いました。また初日のCRTD後に開かれたレセプションにて、日本血液学会を牽引する先生方とお話をさせて頂く機会がありました。研究において重要な心構えや姿勢などを直にお聞きすることができたのは本当に貴重な体験であり、この場をお借りして改めてお礼を申し上げます。
各国の医療や経済状況は様々ですが、会場にいる皆が血液疾患の患者さんをよくしたいという共通の想いがあり、世界中に仲間がいるのだと感じました。英語については実力不足を痛感しましたが、英語学習に対するモチベーションが高まりました。HOA参加にあたり英語に対する不安をお持ちの方は少なくないと思います。しかし実際に参加してみて、英語を理由に諦めるのは非常にもったいないと思いました。今回のHOA参加を通して言葉では語り尽くせない多くの学びと繋がりを得ることができ、大きく世界が広がりました。私が先輩方に背中を押してもらったように、参加を考えられている先生の参考になりましたら幸いです。
今回3日間を一緒に過ごしてくださった大島先生、長谷川先生、岡田先生、寺本先生、山内先生、改めまして本当にありがとうございました。
最後になりますが、日本血液学会、ASHをはじめHOAに携わってくださった全ての皆様、多忙な中で参加を快諾してくださった佐賀大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科のスタッフの皆様に心よりお礼を申し上げます。