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2024 HOA 派遣レポート 栁谷 稜

更新日時:2024年3月22日

2024年2月16~17日にシドニーで開催されたHighlights of ASH (HOA) in Asia-Pacificに、日本血液学会より派遣医師として推挙いただき参加する機会を頂くことが出来ました。採択の通知を学会事務局より頂いた時はとても光栄に思いました。私は血液専門医を2021年に取得後、ほとんどの時間をベンチワーク (=基礎研究) に費やしてきたため、今回参加するにあたり、「臨床血液学の最新のトピックの吸収」および、「臨床還元を目指す医学研究者としての思考法の取得」を自らにテーマとして課しました。

会期前日に開催されたCRTD (Clinical Research Trainee’s Day) では、臨床研究を遂行するにあたって必要となる知識や心構えを講師との対話形式 (interactive style lecture) で学ぶという企画で、非常にライブ感のある刺激的な時間を過ごせました。CRTDの開幕はDr. Quachによる”Developing the Research Question”、ずばり「どのように研究仮説を構築するか?」という根源的な内容でしたが、私は全ての企画の中で最もこのテーマが印象に残りました。以前、私の血液専攻医時代のメンターである石澤賢一先生が「芳しくない結果に至る臨床試験の多くは、不適切な研究デザインによる」とおっしゃっていたことを記憶の片隅にとどめておりましたが、まさにDr. Quachによる講義では、「研究仮説 (と、それにつながる研究デザイン) としてあるべき姿とは何ぞや」を、「鉄欠乏性貧血における鉄材補充の適切な投与経路」という極めて実践的なテーマを例にとってクリアに示してくださいました。その他、観察研究のデザイン、データレジストリ、研究倫理と利益相反といった臨床研究のコアとなるテーマに関する講義や、独特なものとしては「良いメンターシップとは?」や「論文投稿のTips」といったテーマでもinteractiveな講義および議論を行うことが出来ました。特にメンターシップについては、今後自分が中堅、責任的立場となっていくにあたって心掛けるべきスタンスを考えるいい機会となりました。

CRTDのランチタイム後には、2時間程度のスモールグループディスカッションの時間がありましたが、私たちのグループではおもにキャリアシップ、特に「研究と臨床の両立」というテーマで議論が白熱しました。参加者の出自は日本やオーストラリアの他、バングラデシュ、台湾、香港、シンガポール、マレーシア・・・と多くの国や地域に広がっておりましたが、どの国でも共通の悩みなんだなあ、としみじみ感じました。勿論特定の結論に至るようなテーマではありませんでしたが、自分が目標としている「臨床的背景を持った基礎研究者」のニーズは今後も間違いなくある、と実感することが出来たのは大きな収穫だったように思います。

HOAの本番では、私が行くことのできなかった本年度のASHのKey Notesを、分野ごとに30分~1時間ずつスペシャリストが講義してくださり、最新の血液臨床を知る濃密な時間を過ごすことが出来ました。特に私が心に残ったのは、サラセミアにおけるレンチウイルスベクターを用いた遺伝子編集治療が極めて良好な血栓イベントの抑制効果を示したという報告でした。研究室レベルでは日常となった遺伝子編集技術がついに臨床の場へ本格的に進出したのだということを実感したとともに、”Bench to Bedside”を合言葉に研究を続けていくことの重要性を再確認することが出来ました。

濃厚な勉学の時間の合間には、一緒に日本から参加した他の先生方とのお食事やシドニー観光 (といっても夜の時間帯だけでしたのでそこまで多くは行けませんでしたが) を楽しむことが出来ました。今回参加された先生は卒後5~10年目と比較的若手が中心であったこともあり、所属の垣根を越えて仕事やプライベートの話で盛り上がり、学生時代に戻ったような楽しい時間を過ごすことが出来ました。それぞれの施設で苦労していることや得意としていること、大学院での研究内容などについて有意義な情報交換を行うことが出来、自身の仕事に対して大きなモチベーションを得ることが出来ました。来年のHOAは横浜で実施とのことですので、特に若手の先生は積極的に参加してみてください。CRTDは間違いなくためになりますし、ASHと違って参加者が多くないので国内・国外問わず色々な方と近い距離でコミュニケーションをとれるとても有意義な機会だと思います。

最後になりましたが、私にこのような素晴らしい機会をくださった日本血液学会の皆様、また多忙の中快く送り出してくださった東海大学医学部血液腫瘍内科学講座および先端医療科学、特に幸谷愛教授に厚く御礼申し上げます。そしてシドニーの地で、いや、シドニーに経つ前の空港から飲んべえの私に付き合ってくださった2024 HOA参加メンバーの先生方にも御礼申し上げます。
 

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