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2024 HOA 派遣レポート 寺尾俊紀

更新日時:2024年3月22日

 

この度は2024年2月15日から17日までシドニーで開催されたHighlights of ASH in Asia-Pacific 2024に日本血液学会より派遣の元, 参加させていただき, 誠にありがとうございます. 簡単ではございますが, ご報告させていただきます. 

“海外の先生ときちんとコミュニケーションがとれるであろうか”. これが渡豪する前に私が抱いていた大きな不安でした. 論文執筆の過程で英語を読んだり書いたりすることはありましたが, 聞いたり話したりすることは全くなれておらず, 渡豪1ヶ月前にAI英会話を慌てて始めた程度の英語力で向かいました. 

初日は, The Clinical Research Trainee Dayとして, 各国のtraineeが集合し, 臨床研究の立て方, registry dataの作り方, publication tipsといった研究を行う上で必要なスキルの講義をいただきました. 驚いたこととして, すべてのjournalで当てはまるものではないと思いますが, “reference list の中からpeer-reviewerを選ぶこともある” といわれ, 今までそのような考え方でreferenceを作っていなかったことを反省しました. また, 様々な臨床研究を行う上で, 今まで疑問に思っていたが聞けなかったこと “後方視的研究に症例数の設定は必要か?” という問いを聞くことができ, discussionは十分にできなかったものの, expertの先生からの考えを知ることができました. 

また, 昼食後に2時間のsmall group discussionが開かれました. 司会の先生をはじめとして, 各国のtraineeが集まり, 自分の研究について発表, 議論を行うものでした. ここでは自分の発表に対する議論よりも, 他国の医療事情や問題となっている点を知ること自体が新鮮でした. 例えば, ある国ではAMLの治療の7+3で死亡率が (CR達成症例でも) 30%にも上ること, CTが少ない国においては多発性骨髄腫患者のサルコペニアを測定するのにDEXA scanを使っていること, サラセミア患者を多数扱う施設では, 600例ほどのサラセミア症例のうち, 約300例に脾摘が行われ, そのうち10%に血栓が見つかることなどでした. 逆に, この脾摘が多すぎるから, どうやって減らしたらいいか? という臨床的な疑問を提示していました.

日本にいるとほとんど考えたことのない問題の議論が目の前で白熱し, 英語力云々の前に, 内容に圧倒されました. 私も, 自分が今行っている研究について議論し, いかに研究として成立させるか, どのような点をエンドポイントとすることが適切かなどを議論することができました. そして, パキスタンやマレーシアの移植センターに友人を作ることができました.
 16日, 17日は2023 ASHの振り返りを講義いただきました. 自分がよく見聞きする分野以外にも多くの講義があり, その中でも一番印象に残っていることが, transgenderの症例に対する血液学についてでした. 例えば, 性転換後に男性になった症例で多血症になったとき, testosteroneを減量すべきか? などでした. 非常にコンパクトにまとめられ, ASH総会に参加する以上に勉強することができた印象です. 

また, 昼食では“meet the expert”として, 各分野のexpertと昼ご飯を食べながら議論を交わしました. 私はお願いして2日間とも参加させていただき, 多発性骨髄腫や造血幹細胞移植のexpertとご一緒しました. 食事中の雑談を英語でするという, 生粋の日本人にとってはハイレベルな内容でしたが, 1時間のうち, 5分ほどは喋れた気がします. 話すことに必死で, 食事の味は覚えておりません.

今回の会でご一緒させていただいた大屋先生, 柳谷先生, 前垣先生, 戒能先生, 高橋先生と, 昼夜を問わず多く議論させていただき, 自分の刺激となりました. 感謝申し上げます. 同年代にもかかわらず, 多くの先生方が自分のしたいことを明確にしており, 私も自分のしたいことを明確にする必要があると実感しました. 

最後に, 今回のdiscussionに参加して最も心に残っていることとして “日本はhigh income countryだから, 何でもできていいよね!” と各国より認識されていることでした. 昨今, 日本の研究力が低下しているといわれ, 日本にいると研究できなくなるのではという気持ちだったのですが, 十分に恵まれた環境であることを再認識し, 自分の研究への気持ちを再確認できたことが大きな収穫でした. 

野生のペンギン, コアラ, カンガルーに会えず, 帰国時の検疫検査でお土産ジャーキーを没収されたことが心残りですが, 今回のHOA 2024への参加の提案してくださった友人, 日本血液学会, 事務局の天野真美様, アメリカ血液学会, 岡山大学 血液腫瘍内科の先生方, そして快く送り出してくれた妻にこの場をお借りして心より御礼申し上げます. 誠にありがとうございました.
 

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