日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版

第Ⅲ章 骨髄腫

2 多発性骨髄腫の類縁疾患

(3)POEMS症候群

総論

POEMS症候群は,多発神経障害(Polyneuropathy),臓器腫大(Organomegaly),内分泌障害(Endocrinopathy),M蛋白血症(M protein),皮膚症状(Skin change)などの多彩な兆候を呈する全身性疾患である。1980年にBardwickらが主要徴候の頭文字をとってPOEMS症候群と提唱1)し,本邦では1984年に中西らがクロウ・深瀬症候群として報告した。現在,本邦においてはクロウ・深瀬症候群,欧米ではPOEMS症候群と呼ばれることが多く,このほか高月病,PEP症候群などの名称で呼ばれるが,すべて同一の疾患である。
 欧米からの報告は少なく,日本においてより頻度の高い疾患である。疫学としては,深瀬らの報告以来,わが国において多くの報告がある。2012年4月~2015年3月に行われた全国調査2)にて国内患者数392名,罹患率は10万人に0.3人と報告されている。発症に地域差はなく,男性は女性に比して1.5倍の発症を認め,発症時年齢は20歳代~80歳代と広く分布し,平均年齢は約54歳と多発性骨髄腫より若年であった。多発神経炎により活動性が著しく障害され,末期には多臓器不全で死に至ることもあるため,早期の診断・治療介入が予後改善に重要である。2015年に厚生労働省指定難病(行政病名:クロウ・深瀬症候群)に認定されている。
 POEMS症候群の病態は十分に解明されていないが,1996年に,本症候群患者血清中の血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が異常高値となっていることが報告3)されて以来,VEGFが多彩な症状を惹起していることが推定されている。また,本症候群におけるM蛋白量は微量であるが,ほぼ全例でλ型である。このλ型再構成軽鎖はVλ1 subfamilyに属し,2種類のみの胚細胞遺伝子に由来することが示されており4),さらにその後の世界からの追試にて,人種を超えた普遍的な異常であることが報告されている。また,POEMS症候群の形質細胞における遺伝子変異や遺伝子発現プロファイルは,多発性骨髄腫や意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症とは異なっており,特異的なモノクローナル形質細胞が病態に関与している可能性が示唆されている5)
 本症候群の診断基準を表16)に示す。多発神経障害とモノクローナル形質細胞増殖(ほぼ全例でλ型軽鎖)が必須であり,さらにVEGF増加等の所見が必要である。治療効果判定基準としては,血液学的奏効に加え,VEGF奏効や臨床症状の改善などを加味した治療効果判定基準が提唱されている。多発神経障害は全例にみられる特徴的な徴候であるが,その他の主症状である臓器腫大,内分泌障害,M蛋白血症,皮膚症状は高頻度ながら必ずしも全例で認める徴候ではない点に注意を要する。

表1 POEMS症候群の診断基準

必須大基準
1 多発神経炎(脱髄性障害が典型的)
2 モノクローナル形質細胞増殖(ほぼ常にλ型M蛋白)
その他の大基準(1つ以上を満たす)
3 キャッスルマン病a
4 骨硬化性病変
5 VEGF上昇
小基準
6 臓器腫大(脾腫,肝腫,リンパ節腫脹)
7 血管外体液貯留(浮腫,胸水,腹水)
8 内分泌異常(副腎,甲状腺b,下垂体,性腺,副甲状腺,膵臓b
9 皮膚異常(色素沈着,多毛,糸球体様血管腫,先端チアノーゼ,顔面紅潮,爪床蒼白)
10 乳頭浮腫
11 血小板増多/多血症c
その他の症状・徴候
ばち指,体重減少,多汗,肺高血圧/拘束性肺疾患,血栓性素因,下痢,ビタミンB12低値

注)POEMS症候群の診断には,必須大基準の両者に加え,その他の大基準1つ以上,かつ小基準1つ以上を満たす必要がある。

a モノクローナル形質細胞増殖が明らかではないキャッスルマン病バリアントが存在する。

b 糖尿病と甲状腺機能異常は有病率が高いため,単独では小基準を満たさない。

c 通常キャッスルマン病の合併がなければ,貧血や血小板減少は伴わないことが多い。

(文献6)より引用)

POEMS症候群の治療として,副腎皮質ステロイド療法が主に行われていた1980年代までは平均生存期間は33カ月と不良であり,1990年代以降にはMP療法(MEL,PSL)が導入され,平均生存期間は5~10年と改善がみられたが,治療効果は不十分であった7)。部分奏効が得られたとしても早期に再燃し,長期使用による二次性骨髄異形成症候群の発症頻度も高かった。近年,多発性骨髄腫に準じた形質細胞を治療標的とする自家造血幹細胞移植やサリドマイドなどの新規薬剤の有効性が報告され,治療成績や予後が著しく改善している。特に自家移植可能症例における予後の改善が示されている8)。限局性の形質細胞腫が存在する場合は,放射線照射もしくは外科的切除の有効性が報告されている9)。また,POEMS症候群では血小板数増多や血小板の活性化を認め,初発時から脳血管障害などの血栓事象が懸念されるため,アスピリンなどの抗血小板薬の併用が推奨される。
 また,診断,治療効果のモニタリングに有用なVEGFは血漿と血清で測定可能であるが,血漿VEGFよりも血清VEGFで,より正確に病勢を反映することが示されており,血清VEGFの測定が推奨される。2021年6月より保険適用にて検査可能である。
 POEMS症候群の患者は末梢神経障害の進行によりPS不良となるが,治療が奏効すると末梢神経障害の改善に伴ってPSも改善する。治療適応や治療方針の決定の際には,その点も考慮する必要がある。

参考文献

1) Bardwick PA, et al. Plasma cell dyscrasia with polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M protein, and skin changes: the POEMS syndrome. Report on two cases and a review of the literature. Medicine(Baltimore). 1980; 59(4): 311-22.

2) Suichi T, et al. Prevalence, clinical profiles, and prognosis of POEMS syndrome in Japanese nationwide survey. Neurology. 2019; 93(10): e975-83.(3iiiA)

3) Watanabe O, et al. Greatly raised vascular endothelial growth factor(VEGF)in POEMS syndrome. Lancet. 1996; 347(902): 702.

4) Abe D, et al. Restrictive usage of monoclonal immunoglobulin lambda light chain germline in POEMS syndrome. Blood. 2008; 112(3): 836-9.

5) Nagao Y, et al. Genetic and transcriptional landscape of plasma cells in POEMS syndrome. Leukemia. 2019; 33(7): 1723-35.

6) Dispenzieri A. POEMS syndrome: 2021 Update on diagnosis, risk-stratification, and management. Am J Hematol. 2021; 96(7): 872-88.(レビュー)

7) Kuwabara S, et al. Long term melphalan-prednisolone chemotherapy for POEMS syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997; 63(3): 385-7.(3iiA)

8) Kourelis TV, et al. Long-term outcome of patients with POEMS syndrome: An update of the Mayo Clinic experience. Am J Hematol. 2016; 91(6): 585-9.(3iiiDiv)

9) Humeniuk MS, et al. Outcomes of patients with POEMS syndrome treated initially with radiation. Blood. 2013; 122(1): 68-73.(3iiiDiv)

 


CQ1 POEMS症候群に対する自家造血幹細胞移植の適応基準は何か

推奨グレード
該当なし

多発性骨髄腫に準じた移植適応基準を用いて選択を行うが,本疾患に特徴的な末梢神経障害によって移植前のPSが不良であっても,移植後の神経症状改善によりPSの改善が期待される場合には不適格とせず,慎重に判断することが必要である。新規薬剤等による寛解導入療法を行い,全身状態の改善,血清VEGF値の低下の後に,自家末梢血幹細胞採取・移植を行うことが望ましい。

解説

2000年頃より65歳未満の症例において自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン(MEL)療法の有用性が報告されるようになり,2004年にMayoクリニックより16例の報告がなされた1)。評価可能14例全例に神経学的改善を認め,移植前に車椅子を必要とした9例全例が自力歩行可能となるなど著明なPSの改善を認めたが,治療経過中に1例が移植関連死亡,6例がICU管理を要した。症状出現時から診断までの期間中央値42カ月,さらに診断から移植までの期間中央値5カ月と,移植までの期間がいずれも長期に及んでおり早期診断,早期治療介入が重要と考えられた。その後2012年にMayoクリニックより59例の自家造血幹細胞移植症例の長期成績が報告され2),5年OS 94%,5年PFS 75%と良好な結果が示された。EBMTにおける1997~2010年の127例の移植例の後方視的解析3)においても,年齢中央値は50歳(26~69歳),3年PFSとOSは84%と94%と良好な結果であったが,移植関連有害事象として生着症候群の発現が23%と高いことが報告された。
 日本造血細胞移植学会データベースを用いた後方視的解析では4),2000~2011年に95例で自家移植が施行されており,年齢中央値は53歳(28~72歳),3年PFSとOSはそれぞれ78.3%と88.8%であり,移植前にPS不良であっても,移植後の神経学的所見の改善によりPSは有意に改善していた。生着症候群は11例(15.7%)に認め,欧米からの報告と比して低い傾向にあった。
 以上のように,自家移植による生命予後,PSの改善は明らかであり,推奨される治療といえる。しかし,移植後合併症として生着症候群に注意が必要である。発症時には,より早期からの積極的なステロイド治療による介入を検討する5)
 Zhaoらは,単一施設の347例を対象として,自家造血幹細胞移植(165例),MD療法(MEL,DEX)(79例),Ld療法(LEN,低用量DEX)(103例)の3種類の初回治療を行った初発POEMS患者を後方視的に解析した6)。血液学的寛解率,VEGF寛解率ともに自家移植群が最も優れる結果であり,3年PFSは移植群で87.6%,Ld群で64.9%と移植群で有意に良好であったが,神経学的改善,3年OSについては3群間で有意差は認めなかった。年齢50歳以上,肺高血圧,胸水貯留,およびeGFR<30 mL/min/1.73m2の1項目以上を満たす症例においては,自家移植が他の治療法よりも治療効果,PFSともに優れており,このようなリスク因子を有する症例に対する自家移植の有用性が示された。
 また,導入療法にて血清VEGF奏効を認めた症例では,移植後の合併症の発症頻度が少ない傾向が示されている7)。治療効果としても,血液学的奏効と血清VEGF奏効の両者の達成例では,良好なPFSと相関していた。多変量解析により,年齢50歳以上,症状出現から移植までの期間が5年以上,胸水貯留がリスク因子として抽出された。さらに,単一施設における後方視的検討8)においても同様に,移植前の血清VEGF値が1,000 pg/mL未満に制御されていた群では,制御されていなかった群に比して移植後PFSは有意に良好であり,OSも同様の傾向を認めたことから,移植前の病勢制御の重要性が示されている。
 末梢血幹細胞採取はシクロホスファミドもしくはG-CSF単独レジメンが用いられることが多いが,同様に採取時の体液貯留に関連した合併症の出現も報告されており,血清VEGF奏効,全身状態の改善後の採取処置が望ましい9)
 以上より,より安全かつ治療効果が期待される移植適格基準としては,既報の多発性骨髄腫患者と同様の適格性がほぼ踏襲されるものの,移植前にPS不良であっても移植後に改善が期待できるため,PS不良のみにて移植の可能性を排除せず,寛解導入療法を行い,全身状態の改善・血清VEGF値の低下を達成したタイミングでの幹細胞採取,移植治療を行うことが望ましい。移植時年齢50歳以上,体液貯留傾向の強い高リスク患者では,自家造血幹細胞移植が他治療よりも有用である可能性がある。

参考文献

1) Dispenzieri A, et al. Peripheral blood stem cell transplantation in 16 patients with POEMS syndrome, and a review of the literature. Blood. 2004; 104(10): 3400-7.(3iiDiv)

2) D’Souza A, et al. Long-term outcomes after autologous stem cell transplantation for patients with POEMS syndrome(osteosclerotic myeloma): a single-center experience. Blood. 2012; 120(1): 56-62.(3iiA)

3) Cook G, et al. High-dose therapy and autologous stem cell transplantation in patients with POEMS syndrome: a retrospective study of the Plasma Cell Disorder sub-committee of the Chronic Malignancy Working Party of the European Society for Blood & Marrow Transplantation. Haematologica. 2017; 102(1): 160-7.(3iiA)

4) Kawajiri-Manako C, et al. Efficacy and Long-Term Outcomes of Autologous Stem Cell Transplantation in POEMS Syndrome: A Nationwide Survey in Japan. Biol Blood Marrow Transplant. 2018; 24(6): 1180-6.(3iiiA)

5) Dispenzieri A, et al. Peripheral blood stem cell transplant for POEMS syndrome is associated with high rates of engraftment syndrome. Eur J Haematol. 2008; 80(5): 397-406.(3iiDiv)

6) Zhao H, et al. What is the best first-line treatment for POEMS syndrome: autologous transplantation, melphalan and dexamethasone, or lenalidomide and dexamethasone? Leukemia. 2019; 33(4): 1023-9.(3iiiA)

7) Li J, et al. Impact of pretransplant induction therapy on autologous stem cell transplantation for patients with newly diagnosed POEMS syndrome. Leukemia. 2017; 31(6): 1375-81.(3iiDiv)

8) Ohwada C, et al. Long-term evaluation of physical improvement and survival of autologous stem cell transplantation in POEMS syndrome. Blood. 2018; 131(19): 2173-6.(3iiA)

9) Muto T, et al. Safety and Efficacy of Granulocyte Colony-Stimulating Factor Monotherapy for Peripheral Blood Stem Cell Collection in POEMS Syndrome. Biol Blood Marrow Transplant. 2017; 23(2): 361-3.(3iiDiv)

 

CQ2 移植適応のPOEMS症候群に対する寛解導入療法は何が推奨されるか

推奨グレード
カテゴリー2B

TD療法,LD療法,BD療法が推奨される。
(サリドマイド以外の薬剤は保険適用外)

解説

POEMS症候群の診断時には,末梢神経障害によりPS不良,体液貯留傾向を認めることが多い。血清VEGF値は治療効果に対する有効なバイオマーカーであり1),移植前の血清VEGF値が高値のままで移植を行った際には,移植合併症のみならず再発も多いと報告されている2)。したがって,多発性骨髄腫と同様に診断後に寛解導入療法を行い,全身状態の改善・血清VEGF値の低下後に幹細胞採取,移植治療を設定することが望ましい。
 これまで移植非適応・再発難治例に対するサリドマイド(THAL)等の新規薬剤を用いた寛解導入療法の有効性が報告されており3),移植適応例においても同様の治療が用いられることが多い。
 TD療法(THAL,DEX)では,THALは100mg/日から開始し,効果・副作用により投与量を調節する。有害事象としての感覚性末梢神経障害の発現は軽度にとどまることが多いが,一方で洞性徐脈の発症頻度は高く注意が必要である。CQ3に後述するように,2021年2月にTHALは本邦でPOEMS症候群に適用を取得した。
 レナリドミド(LEN)については,低用量LEN(10mg/day,day 1~21,経口投与)+デキサメタゾン(DEX)療法の有用性が報告4)されており,治療中の重篤な有害事象,治療関連毒性の発現を認めず,安全に治療可能であった。3年の推定OS 90%,PFS 75%であった。ただし,幹細胞採取効率を低下させないように3~4コースの短期間の治療にとどめる必要がある。
 BD療法(BOR,DEX)の有用性についても,上海のグループから報告されている5)。ボルテゾミブ(BOR)は有害事象としての末梢神経障害の発現頻度が高く,神経症状の悪化が懸念されたが,低用量(1.0mg/m2,day 1,4,8,11)を用いることで有害事象よりも神経学的有効性が上回る結果であった。BORは腎機能障害時にも投与可能であり,体液貯留傾向が急速に進行して腎障害を伴うような症例にも良い選択肢となる。
 現時点では,THALを除き,これらの新規薬剤はPOEMS症候群に対し国内保険適用外である。

参考文献

1) Misawa S, et al. Vascular endothelial growth factor as a predictive marker for POEMS syndrome treatment response: retrospective cohort study. BMJ Open. 2015; 5(11): e009157.(3iiDiv)

2) Ohwada C, et al. Long-term evaluation of physical improvement and survival of autologous stem cell transplantation in POEMS syndrome. Blood. 2018; 131(19): 2173-6.(3iiA)

3) Kuwabara S, et al. Thalidomide reduces serum VEGF levels and improves peripheral neuropathy in POEMS syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008; 79(11): 1255-7.(3iiDiv)

4) Li J, et al. A prospective phase II study of low dose lenalidomide plus dexamethasone in patients with newly diagnosed polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, monoclonal gammopathy, and skin changes(POEMS)syndrome. Am J Hematol. 2018; 93(6): 803-9.(2Div)

5) He H, et al. Successful treatment of newly diagnosed POEMS syndrome with reduced-dose bortezomib based regimen. Br J Haematol. 2018; 181(1): 126-8.(3iiiDiv)

 

CQ3 移植適応のないPOEMS症候群に対する治療は何が推奨されるか

推奨グレード
カテゴリー2B

サリドマイド,レナリドミド,ボルテゾミブ等の新規薬剤とデキサメタゾンの併用療法, MD療法が試みられる。

解説

65歳以上または臓器障害を有する移植非適応患者や再発・難治例に対する標準治療は確立していない。多発性骨髄腫に準じて化学療法や新規薬剤が試みられている。
 古典的化学療法として,低用量または高用量のアルキル化剤を用いた治療の有用性が報告されている。Liらはメルファラン(MEL)(10mg/m2,day 1~4,経口投与)+デキサメタゾン(DEX)
 (MD)療法が初発患者に有効であると報告した1)。31例中25例(80.6%)に血液学的奏効を認め,全例で神経学的改善と血清VEGF値の低下を認めた。観察期間中央値21カ月の段階では,全例が神経学的再発なく生存していたが,長期的な効果については明らかではない。
 新規薬剤については,わが国を中心にサリドマイド(THAL)の有効性が検証され,その後レナリドミド(LEN),ボルテゾミブ(BOR)の有効性も報告されている。
 THALは強力なVEGF産生抑制作用を有し,本症候群の治療に理論的に適する薬剤である。Kuwabaraらは移植非適応患者に対し,Td療法(THAL,低用量DEX)を行い,血清VEGF値の低下,末梢神経障害(PN)の改善などの良好な成績を得た2)。その後,本邦におけるTHALの適応拡大を目指した医師主導多施設共同プラセボ対照ランダム化比較試験(J-POST試験)が行われた。25例の自家移植非適応のPOEMS症候群患者を24週間のTHAL(100~300mg/day,連日内服)+DEX 12mg/m2(day 1~4,28日ごと)(Td)療法群とプラセボ+DEX群に割り付け,主要評価項目である24週後の血清VEGF減少率を検証した。途中,プラセボ群における増悪例はTd療法群に移行した。24週後の血清VEGF減少率は,Td療法群で有意に良好であり(95%CI 0.02-0.80,p=0.04),血清VEGF値の改善が示された3)。神経伝導速度の評価においては24週時点では有意な変化を認めなかったが,オープンラベルとなった72週時点で改善を認めた。有害事象として,23%に感覚性PNを認めたが軽度にとどまった。また,Td療法群にて高率に洞性徐脈を認めており,注意が必要である。これらの研究成果により,2021年2月にTHALは世界に先駆けて本邦でPOEMS症候群に適用を取得した。
 LENはTHALよりもPNの発現頻度は低く,VEGFやIL-6等のサイトカインの産生調整作用や血管新生作用を有することからPOEMS症候群に対する有効性が報告されている。RoyerらはLd療法を受けた初発例4例を含む20例について後方視的に解析した4)。VGPR以上の奏効は68%の患者に認められ,評価可能17例全例において,血清VEGFの有意な減少が認められた。また,NozzaらはLd療法単群の前方視的臨床試験を行い,18例中13例(72%)に神経学的または臨床的改善を認め,3年PFSは59%であったと報告した5)。再発・難治症例に対しても,同様の低用量LENの有用性が示されている6)
 BORはPNの頻度が高く,POEMS症候群におけるPNを増悪させることが懸念されるが,有効性も報告されている。その他の抗CD38抗体薬を含む新規薬剤の有用性は現時点ではわずかな症例報告にとどまり,有用性,安全性は不明な点が多い。

参考文献

1) Li J, et al. Combination of melphalan and dexamethasone for patients with newly diagnosed POEMS syndrome. Blood. 2011; 117(24): 6445-9.(2Div)

2) Misawa S, et al. Safety and efficacy of thalidomide in patients with POEMS syndrome: a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet Neurol. 2016; 15(11): 1129-37.(1iDiv)

3) Kuwabara S, et al. Thalidomide reduces serum VEGF levels and improves peripheral neuropathy in POEMS syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008; 79(11): 1255-7.(3iiDiv)

4) Royer B, et al. Efficacy of lenalidomide in POEMS syndrome: a retrospective study of 20 patients. Am J Hematol. 2013; 88(3): 207-12.(3iiiDiv)

5) Nozza A, et al. Lenalidomide and dexamethasone in patients with POEMS syndrome: results of a prospective, open-label trial. Br J Haematol. 2017; 179(5): 748-55.(2Div)

6) Cai QQ, et al. Efficacy and safety of low-dose lenalidomide plus dexamethasone in patients with relapsed or refractory POEMS syndrome. Eur J Haematol. 2015; 95(4): 325-30.(3iA)

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