日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版

第Ⅲ章 骨髄腫

(6)多発性骨髄腫における溶骨病変・合併症の治療

CQ1 骨病変を有する多発性骨髄腫の骨関連事象の予防にはどのような治療が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

骨病変を有する未治療骨髄腫患者に対し,化学療法開始時からデノスマブもしくはゾレドロン酸を投与することが推奨される。デノスマブは腎毒性が低いため,腎障害例ではデノスマブがより推奨されるが,低カルシウム血症には注意が必要である。

解説

ゾレドロン酸(ZOL)はこれまでに大規模臨床試験において,化学療法に加え3~4週間ごとのZOLの投与により,症候性骨髄腫における骨病変の進行を抑制させることが明らかにされている。MRC myeloma IX試験では,未治療骨髄腫患者1,960例を対象に,自家移植群と非自家移植群に分け,またそれぞれの群を骨病変の有無にかかわらず,初回治療時からZOL投与群と経口clodronate投与群とに分けてその効果を検討した。患者はZOL投与群981例とclodronate投与群979例とに割り付けられ,ZOL投与群では骨関連事象発症が少なく,OS,PFSの改善を認めた1)
 デノスマブ(Dmab)は,破骨細胞形成に必須の因子であるreceptor activator of nuclear factor-κ B ligand(RANKL)に特異的に結合し,その活性を阻害する完全ヒト型モノクローナルIgG2抗体である。ビスホスホネート製剤が,骨吸収を営む成熟した破骨細胞に作用するのに対し,DmabはRANKを発現する前破骨細胞やその前駆細胞にも作用し,破骨細胞の生存・機能を強力に阻害する2)。DmabとZOLの効果を比較する目的で,骨病変を有する未治療骨髄腫患者を対象とした国際共同大規模第Ⅲ相試験(Dmab群859例,ZOL群859例)が行われた。観察期間中央値はDmab群17.3カ月(8.9~28.5カ月),ZOL群17.6カ月(9.4~28.1カ月)であり,Dmab群とZOL群とで,骨関連事象の発症抑制効果は同等であった3)。有害事象として,腎障害の発症および腎機能の増悪はZOL群の方が多かった3)。一方で,低カルシウム血症はDmab群で多かったが(Dmab群17%,ZOL群12%),ほとんどはGrade 2までであった3)
 以上から,未治療骨髄腫患者に対するDmabは,ZOLと同等の骨病変の発症抑制効果を有することが示された。骨髄腫患者は腎障害を合併していることがしばしばあり,腎機能悪化が危惧される場合にはZOLよりもDmabの投与が優先される。一方で,Dmab投与後の副作用として低カルシウム血症が問題となるため,活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤の補充などの支持療法が必要である。

参考文献

1) Morgan GJ, et al. First-line treatment with zoledronic acid as compared with clodronic acid in multiple myeloma(MRC Myeloma IX): a randomized controlled trial. Lancet. 2010; 376(9757): 1989-99.(1iiA)

2) Lacey DL, et al. Bench to bedside: elucidation of the OPG-RANK-RANKL pathway and the development of denosumab. Nat Rev Drug Discov. 2012; 11(5): 401-19.(レビュー)

3) Raje N, et al. Denosumab versus zoledronic acid in bone disease treatment of newly diagnosed multiple myeloma: an international, double-blind, double-dummy, randomised, controlled, phase 3 study. Lancet Oncol. 2018; 19(3): 370-81.(1iDiv)

 

CQ2 多発性骨髄腫に対する骨吸収抑制薬による顎骨壊死の予防にはどのような処置が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

静脈注射用ビスホスホネート製剤やデノスマブなどの骨吸収抑制薬の投与前には,歯科医師による口腔内病巣の有無に関してチェックを受け,必要な歯科処置を行う。投与開始後は,口腔内ケアを行うと同時に侵襲的歯科処置を避けることで,顎骨壊死の発症が抑制できる。

解説

ビスホスホネート製剤およびデノスマブ(Dmab)投与に起因する顎骨壊死を骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(anti-resorptive agents-related osteonecrosis of the Jaw:ARONJ)と呼ぶ。顎骨壊死検討委員会が提唱しているポジションペーパーによるとARONJは定義として,①ビスホスホネート製剤およびDmabの投与歴がある,②顎骨への放射線照射歴がない,また骨病変が顎骨へのがん転移ではないことが確認できる,③8週間以上持続して口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める,または口腔内あるいは口腔外の瘻孔から触知できる骨を8週間以上認める,これらの3項目を満たした場合に診断する1)。また,骨病変を有する未治療骨髄腫患者に対するゾレドロン酸(ZOL)とDmabの国際共同第Ⅲ相試験では,両群間でのARONJの発症率は同等であった2)
 口腔内予防処置がARONJを予防するかどうかについて,ZOLを投与予定の骨髄腫患者128例を対象に行われた前方視的検討では,口腔内予防処置が,ZOL投与後のARONJの発症を有意に減少させたと報告している(ARONJ発症率:口腔内予防処置ありvs. なし,6.7% vs. 26.3%)3)。3,491例の骨転移を有する悪性腫瘍患者(骨髄腫580例含む)においてZOL投与後3年間のARONJ発症率を追跡した前方視的検討では,骨髄腫は他のがん種と比較してARONJ発症率は高かった(3年累積発症率4.3%)。また,本研究においてARONJ発症のリスク因子として,残歯数の少なさ,義歯の使用,喫煙歴などを抽出しており,口腔内病巣の評価の重要性が示された4)
 これらの結果から,ポジションペーパーでは骨吸収抑制薬投与前に主治医が患者に歯科受診により口腔内衛生状態を改善するように依頼し,またすべての歯科治療は骨吸収抑制薬治療開始の2週間前までに終えておくことを推奨している1)。骨吸収抑制薬治療中は歯科医師による定期的な口腔内診察を患者に対して推奨し,歯科医師は口腔内衛生状態を主治医に連絡することで,ARONJ発症の減少に努めるべきである。

参考文献

1) 米田俊之ほか. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016.(レビュー)

2) Raje N, et al. Denosumab versus zoledronic acid in bone disease treatment of newly diagnosed multiple myeloma: an international, double-blind, double-dummy, randomised, controlled, phase 3 study. Lancet Oncol. 2018; 19(3): 370-81.(1iDiv)

3) Dimopoulos MA, et al. Reduction of osteonecrosis of the jaw(ONJ)after implementation of preventive measures in patients with multiple myeloma treated with zoledronic acid. Ann Oncol. 2009; 20(1): 117-20.(3iiiC)

4) Van Poznak CH, et al. Association of Osteonecrosis of the Jaw With Zoledronic Acid Treatment for Bone Metastases in Patients With Cancer. JAMA Oncol. 2021; 7(2): 246-54.(3iDiv)

 

CQ3 多発性骨髄腫に対する骨吸収抑制薬の投与は生存期間の延長に有用か

推奨グレード
カテゴリー2A

未治療骨髄腫患者に対して,骨吸収抑制薬の投与は,骨関連事象を減少させるとともにPFSを改善させた。また,骨病変を有する未治療骨髄腫症例に対するデノスマブ投与は,自家移植併用大量化学療法の適応例やプロテアソーム阻害薬を含む3剤併用化学療法を受けた症例に関しては,ゾレドロン酸投与よりPFSを改善させたため,デノスマブの投与が勧められる。

解説

MRC myeloma IX試験では,未治療骨髄腫患者1,960例を対象に,骨病変の有無にかかわらず初回治療時からゾレドロン酸(ZOL)投与群と経口のclodronate投与群とに分けその効果を検討した。ZOL投与群では,骨関連事象発症が少ないだけでなく,OS・PFSなどの改善も認めた1)。骨関連事象の発症を補正した解析によりZOLの生存率の改善効果は,骨関連事象の発症抑制に加え,ZOLの抗骨髄腫効果を反映していると考えられる。
 骨病変を有する未治療骨髄腫患者を対象とした国際共同大規模第Ⅲ相試験では,観察期間中央値はデノスマブ(Dmab)群17.3カ月(8.9~28.5カ月),ZOL群17.6カ月(9.4~28.1カ月)であり,Dmab群とZOL群とで,OSは2群間で有意差はなかったが,PFSは,Dmab群の方が優れていた(中央値:Dmab群 vs. ZOL群,46.1カ月vs. 35.4カ月,p=0.036)2)。また,本研究のサブグループ解析結果が2021年に報告され,自家移植併用大量化学療法の適応群やプロテアソーム阻害薬を含む3剤併用レジメンを投与された症例群で,PFSが延長していた3)。本研究では骨髄腫治療に関しては規定がないため治療レジメンごとの比較は困難だが,大半の症例で初回治療にプロテアソーム阻害薬(主にボルテゾミブ)が使用されており3),骨芽細胞分化誘導機能を持つプロテアソーム阻害薬と破骨細胞やその前駆細胞の活性化を強力に抑制するDmabとの併用が抗骨髄腫効果を増強させた可能性が示唆された。
 近年,新規抗骨髄腫薬が次々と臨床応用されており,これらとの併用下でのZOLやDmabの有用性や生存率への影響を前方視的に検討すべきであり,特に再発・難治性骨髄腫を対象とした臨床試験が今後望まれる。

参考文献

1) Morgan GJ, et al. First-line treatment with zoledronic acid as compared with clodronic acid in multiple myeloma(MRC Myeloma IX): a randomized controlled trial. Lancet. 2010; 376(9757): 1989-99.(1iiA)

2) Raje N, et al. Denosumab versus zoledronic acid in bone disease treatment of newly diagnosed multiple myeloma: an international, double-blind, double-dummy, randomised, controlled, phase 3 study. Lancet Oncol. 2018; 19(3): 370-81.(1iDiv)

3) Terpos E, et al. Denosumab compared with zoledronic acid on PFS in multiple myeloma: exploratory results of an international phase 3 study. Blood Adv. 2021; 5(3): 725-36.(1iDiii)

 

CQ4 プロテアソーム阻害薬を投与中の多発性骨髄腫における帯状疱疹の予防にはどのような治療が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

プロテアソーム阻害薬投与中の患者に対するアシクロビル予防内服は帯状疱疹の予防に有効であり,推奨される。

解説

ボルテゾミブ(BOR)投与中の患者では,帯状疱疹の発症が多いことが指摘されている。再発・難治性骨髄腫を対象としたAPEX試験では,BOR投与群では331例中42例(12.7%)に帯状疱疹が発症したのに対し,デキサメタゾン(DEX)単独群では,332例中15例(4.5%)とBOR投与群で帯状疱疹の発症率が有意に高かった1)。また,帯状疱疹の発症時期(中央値)は,BOR投与群31日に対しDEX単独群51日とBOR投与群では早期に出現した1)。未治療骨髄腫を対象としたVISTA試験において,BORにMP療法(MEL,PSL)を追加した群では,MP療法群と比較して帯状疱疹の発症率が有意に高かった(13.2% vs. 4.2%)2)。また,BOR投与群のうちアシクロビル(ACV)の予防投与を行った90例においては帯状疱疹の発症は3例(3.3%)のみであり,ACVの予防内服の有効性が示された2)。これらの結果も踏まえ,カルフィルゾミブ(CFZ)やイキサゾミブ(IXA)などの臨床試験でもACVの予防内服が行われている。本邦では前方視的試験はないものの,ACV 200mg/日やバラシクロビル500mg/日の予防内服が帯状疱疹の発症を減少させたという報告があり3,4),公知申請されているACVの予防内服が頻用されている。しかし,抗ウイルス薬の長期投与による腎障害には注意が必要であり,投与期間に定まったエビデンスがなく,今後の課題である。

参考文献

1) Chanan-Khan A, et al. Analysis of herpes zoster events among bortezomib-treated patients in the phase III APEX study. J Clin Oncol. 2008; 26(29): 4784-90.(1iiA)

2) San Miguel JF, et al. Bortezomib plus melphalan and prednisone for initial treatment of multiple myeloma. N Engl J Med. 2008; 359(9): 906-17.(1iiDiii/1iiA

3) Aoki T, et al. Efficacy of continuous, daily, oral, ultra-low-dose 200mg acyclovir to prevent herpes zoster events among bortezomib-treated patients: a report from retrospective study. Jpn J Clin Oncol. 2011; 41(7): 876-81.(3iiiC)

4) Fukushima T, et al. Daily 500mg valacyclovir is effective for prevention of Varicella zoster virus reactivation in patients with multiple myeloma treated with bortezomib. Anticancer Res. 2012; 32(12): 5437-40.(3iiiC)

 

CQ5 免疫調節薬を投与中の多発性骨髄腫における深部静脈血栓症の予防にはどのような治療が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

免疫調整薬を含む化学療法では,低用量アスピリン(81~100mg/日)の予防内服が深部静脈血栓症(DVT)の発症の予防に推奨される。DVTの既往やそのリスク因子を有する症例ではその予防策が必要である。

解説

サリドマイド(THAL)やレナリドミド(LEN)などの免疫調節薬を投与中の骨髄腫患者では静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)をきたしやすく,特に大量デキサメタゾン(DEX)との併用でその発症リスクは上昇する。また,VTE発症のリスク因子としては,高齢,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の既往,中心静脈カテーテルの使用,併存疾患(糖尿病,感染症,心臓疾患)なども挙げられる1)。未治療骨髄腫症例に対するTD療法(THAL,DEX)とDEX単独投与療法とを比較した臨床第Ⅲ相試験において,VTE発症率はTD療法群17%に対してDEX単独群3%と前者が有意に高かった2)。再発・難治性骨髄腫に対するLD療法(LEN,DEX)とDEX単独療法を比較したMM010試験では,DVTの発症率はLD療法群11.4%,DEX単独療法群4.6%と前者が有意に高かった3)。また,未治療骨髄腫を対象としたTHALを含む寛解導入療法を行った前方視的検討において,アスピリン予防内服(100mg/日)が最初の6カ月間におけるDVT,心血管イベント,突然死などの発症率を6.4%にまで低下させた4)。再発・難治性骨髄腫に対するPD療法(POM,DEX)とDEX単独療法とを比較したMM003試験では,血栓リスクのない場合にはポマリドミド(POM)投与期間中に低用量アスピリンの予防内服を,血栓リスクの高い場合には低分子ヘパリンの予防投与を行い,DVTの発症率はいずれも低下している5)。これらの結果から,本邦でも免疫調節薬投与患者では血栓予防が行われており,利便性からアスピリンが頻用されている。
 また,免疫調節薬投与中の骨髄腫患者におけるアピキサバン(APX)のVTE予防に関して検討した前方視的試験が報告されている6)。LENもしくはPOMを投与されている骨髄腫患者50例を対象にAPX 5mg/日を投与したところ,開始6カ月以内に症候性および無症候性のVTEを発症した患者はなく,軽微な出血を3例認めたのみであった6)。本邦においてAPXはVTEやDVTの既往のない患者には保険適応はないが,低用量アスピリンとの比較も踏まえて,その有効性・安全性についてエビデンスの確立が望まれる。

参考文献

1) Palumbo A, et al. Prevention of thalidomide- and lenalidomide-associated thrombosis in myeloma. Leukemia. 2008; 22(2): 414-23.(レビュー)

2) Rajkumar SV, et al. Phase III Clinical Trial of Thalidomide Plus Dexamethasone Compared With Dexamethasone Alone in Newly Diagnosed Multiple Myeloma: A Clinical Trial Coordinated by the Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin. Oncol. 2006; 24(3): 431-6.(1iiA)

3) Dimopoulous M, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for relapsed or refractory multiple myeloma. N Engl J Med. 2007; 357(21): 2123-32.(1iA)

4) Palumbo A, et al. Aspirin, warfarin, or enoxaparin thromboprophylaxis in patients with multiple myeloma treated with thalidomide: a phase III, open-label, randomized trial. J Clin Oncol. 2011; 29(8): 986-93.(1iiA)

5) San Miguel J, et al. Pomalidomide plus low-dose dexamethasone versus high-dose dexamethasone alone for patients with relapsed and refractory multiple myeloma(MM-003): a randomized, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2013; 14(11): 1055-66.(1iiDiii)

6) Cornell RF, et al. Primary prevention of venous thromboembolism with apixaban for multiple myeloma patients receiving immunomodulatory agents. Br J Haematol. 2020; 190(4): 555-61.(2C)

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