日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版

第Ⅲ章 骨髄腫

(3)未治療のMGUS・くすぶり型骨髄腫

CQ1 MGUSやくすぶり型骨髄腫(SMM)に対してどのようにモニタリングを行うか

推奨グレード
カテゴリー2A

MGUSでは最初の1〜2年は4〜6カ月ごとにM蛋白量を測定し,その後は6カ月〜2年ごとのフォローを行う。SMMでは診断後6〜12カ月間は診察および臨床検査を2〜3カ月ごとに行い,安定していれば2年目は4〜6カ月ごとに,その後は6〜12カ月ごとに行うが,進展リスクに基づいて個々に検討すべきである。

解説

意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)は50歳以上で3.2%,70歳以上で5.3%に認められる1)。MGUSから多発性骨髄腫(MM)に進展するリスクは,10年で10%,20年で18%,35年で36%,40年で36%であり,年に1%がMMに進展する。非IgM MGUSからMMに進展するリスク因子として血清M蛋白1.5g/dL以上および血清遊離軽鎖比の異常が挙げられる。MGUSのMMへの20年進展率は,リスク因子のない群で7%,1因子を有する群で20%,2因子を有する群で30%であった。MGUS診断後の適切な検査モニタリング頻度については明らかではないが,最初の1〜2年は4〜6カ月ごとにM蛋白量を測定する。その後は6カ月〜2年ごとのフォローを行う2)。高リスクの非IgM MGUS患者では,診断時にMMの鑑別のために全身CT検査が推奨される。経過中は骨痛などの症状や検査値の増悪がなければフォローアップの画像検査は推奨されない3)
 SMMは無症候性の形質細胞性疾患で,血清M蛋白≧3g/dL,骨髄中形質細胞割合10%以上,60%未満,CRAB症状やバイオマーカーであるSLiMで規定されるmyeloma defining eventsを認めないものと定義される4)。MMへの進展までの期間中央値は約5年であり,最初の5年では年10%,次の5年では年3%,その後は年1%の割合で進展する5)。しかし,進展速度には個人差があるため,モニタリングは個々の進展リスク因子に応じた配慮が必要である。診察や臨床検査のモニタリングは診断後6〜12カ月間は2〜3カ月ごとに行い,安定していれば2年目は4〜6カ月ごとに,その後は6〜12カ月ごとに行う6)。画像評価は,診断後最初の5年間は年に1回の全身MRI検査を行うことが望ましい。PET/CT検査は全身CT検査あるいはMRI検査が施行できない場合の代替評価法として用いる。また,症状や臨床検査モニタリングで進展が疑われた場合には低線量CT検査やMRI検査を考慮しても良い7)

参考文献

1) Kyle RA, et al. Prevalence of monoclonal gammopathy of undetermined significance. N Engl J Med. 2006; 354(13): 1362-69.(3iDiii)

2) Kyle RA, et al. Long-term follow-up of monoclonal gammopathy of undetermined significance. N Engl J Med. 2018; 378(3): 241-9.(3iDiii)

3) Hillengass J, et al. International Myeloma Working Group consensus recommendations on imaging in monoclonal plasma cell disorders. Lancet Oncol. 2019; 20(6): e302-12.(コンセンサスレポート)

4) Rajkumar SV, et al. International Myeloma Working Group updated criteria for the diagnosis of multiple myeloma. Lancet Oncol. 2014; 15(12): e538-48.(コンセンサスレポート)

5) Kyle RA, et al. Clinical course and prognosis of smolderimg(asymptomatic)multiple myeloma. N Engl J Med. 2007; 356(25): 2582-90.(3iDiii)

6) Kyle RA, et al. Monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)and smoldering(asymptomatic)multiple myeloma: IMWG consensus perspectives risk factors for progression and guidelines for monitoring and management. Leukemia. 2010; 24(6): 1121-27.(コンセンサスレポート)

7) Musto P, et al. 2021 European Myeloma Network review and consensus statement on smoldering multiple myeloma: how to distinguish(and manage)Dr. Jekyll and Mr. Hyde. Haematologica. 2021; 106(11): 2799-812.(コンセンサスレポート)

 

CQ2 くすぶり型骨髄腫の進行予測に有用な予後因子は何か

推奨グレード
カテゴリー2A

血清M蛋白濃度(2g/dL以上),血清遊離軽鎖比(20以上),骨髄中形質細胞比率(20%以上)に加えて,FISH解析によるt(4;14),t(14;16),+1q,del 13q/monosomy 13のいずれかの染色体異常,の4つの予後因子による進行モデルや,血清M蛋白濃度やヘモグロビン濃度の動態を指標とした進行予測モデルが有用とされるが,十分な検証は行われていない。

解説

くすぶり型骨髄腫から多発性骨髄腫あるいは全身性アミロイドーシスへの進行は,診断後5年間は年10%,次の5年間は3%,10年を超えると年1%に認められる1)。進行のリスク因子として①骨髄中形質細胞比率10%以上,②血清M蛋白濃度3g/dL以上,③血清遊離軽鎖の大きな異常(κ/λ比で0.125以下もしくは8.0以上)の3つが挙げられ,3因子を用いた予測モデルが提唱されている1)。最近,IMWGから1,996例のくすぶり型骨髄腫患者を対象に進行予測に有用な予後因子と予測モデルが提唱された2)。フォローアップ期間中央値3年で815例(41%)の患者が骨髄腫あるいは関連疾患に進行した。TTP中央値は6.4年で,2年,5年,10年の進行リスクは22%,42%,64%であった。診断から2年以内の進行リスク因子として,①血清M蛋白濃度2g/dL以上,②血清遊離軽鎖比20以上,③骨髄中形質細胞比率20%以上,の3因子(2/20/20)が抽出された。多発性骨髄腫への2年進行率は,いずれのリスク因子もない低リスク群で6%,1因子を有する中間リスク群で18%,2つ以上の因子を有する高リスク群で44%であった。さらに,FISH解析によるt(4;14),t(14;16),+1q,del 13q/monosomy 13のいずれかの染色体異常をリスク因子として加えた4因子で検討した2年進行率は,リスク因子のない低リスク群では6%,1つのリスク因子を有する低中間リスク群では23%,2つのリスク因子を有する中間リスク群では46%,3つ以上のリスク因子を有する高リスク群では63%であった。また,これら4因子をスコア化した予測モデルでの2年進行率は,1〜4点で3.8%,5〜8点で26%,9〜12点で51%,13点以上で73%であり,有用な進行予測モデルと考えられる2)
 血清M蛋白濃度やヘモグロビン濃度の経時的変化を指標とした進行予測モデルが提唱されている3)。診断から2年以内の進行リスク因子として,①診断から6カ月以内で10%以上,あるいは,12カ月以内で25%以上の血清M蛋白濃度あるいは疾患関連免疫グロブリン値の増加(eMP),②診断から12カ月以内で0.5g/dL以上のヘモグロビン濃度の低下(eHb),③骨髄中形質細胞割合20%以上,の3因子が示された。多発性骨髄腫への2年進行率は,eMPのみで63.8%,eHbのみで64.6%,eMPおよびeHbを有する群では81.5%,3因子を有する群では90.5%であった。本邦でも同様の検討が行われ,血清M蛋白の増加率が2mg/dL/日以上の患者では5年以内に全例が多発性骨髄腫に進行したことが報告されている4)
 以上の進行予測モデル研究から高リスク群を同定できると考えられるが,検証は十分ではないため注意を要する。

参考文献

1) Kyle RA, et al. Monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)and smoldering(asymptomatic)multiple myeloma: IMWG consensus perspectives risk factors for progression and guidelines for monitoring and management. Leukemia. 2010; 24(6): 1121-7.(コンセンサスレポート)

2) Mateos MV, et al. International Myeloma Working Group risk stratification model for smoldering multiple myeloma(SMM). Blood Cancer J. 2020; 10(10): 102.(3iDiii)

3) Ravi P, et al. Evolving changes in disease biomarkers and risk of early progression in smoldering multiple myeloma. Blood Cancer J. 2016; 6: e454.(3iDiii)

4) 高松 泰ほか.日本におけるくすぶり型骨髄腫の後方視的研究−症候性骨髄腫へのリスク因子を中心に−.臨床血液.2015; 56(8): 1005-9.(3iDiii)

 

CQ3 高リスクのくすぶり型骨髄腫に対する治療介入は推奨されるか

推奨グレード
カテゴリー4

高・中間リスクのくすぶり型骨髄腫に対する早期治療介入の研究では,多発性骨髄腫への進展抑止や生存期間延長が示されており,今後推奨される可能性はある。一方で,治療により有害事象を伴うこと,至適な治療法が定まっていないこと,高リスクであっても進展しない例もあることなどから,実臨床での治療介入を推奨することは時期尚早である。

解説

現在のくすぶり型骨髄腫(SMM)に対する標準治療は多発性骨髄腫(MM)進展までの注意深い経過観察である。しかしながら,高・中間リスクのSMM患者の多くはMMに進展するため,早期治療介入の妥当性の検証が行われている。QuiRedex試験は経過観察群に対するLd療法(LEN,低用量DEX)の有効性と安全性を検証したランダム化比較試験である1)。Ld群ではLd療法を9コース施行後2年間のレナリドミド(LEN)維持療法を受けた。観察期間中央値40カ月の時点で主要評価項目のMM進展までの期間(TTP)の中央値はLd群未到達,経過観察群21カ月であり,有意にMM進展を抑制した(HR 0.18,95%CI 0.09-0.32,p<0.001)。観察期間中央値75カ月時点の解析では,Ld療法によりMMへ進展する患者割合は有意に減少(Ld群39% vs. 経過観察群86%)し,OSの有意な延長を示した。また,二次治療開始からの生存期間も両群間で差を認めなかったことから,Ld療法は治療抵抗性クローンの選択を誘導しないことが示唆された。一方,Ld群に認められた主なGrade 3以上の有害事象は,感染症6%,無力症6%,好中球減少5%,皮疹3%であり,1例が呼吸器感染症により死亡した2)。高リスクのSMMに対してLd療法による早期治療介入によりMMへの進展抑制のみならず生存期間延長をもたらしたことは注目に値する。一方で,この試験は現在のSMM診断基準の改訂前に診断された患者が対象となっていたため解釈には注意を要する。また,高・中間リスクのSMMを対象としたLEN単剤によるランダム化比較試験も行われた3)。LENは疾患進行あるいは許容できない毒性出現まで投与された。観察期間中央値35カ月の時点で,主要評価項目のPFSはLEN群で有意に延長していた(HR 0.28,95%CI 0.12-0.62,p=0.002)。LEN群ではGrade 3/4の非血液毒性が28%に認められた。その他に,KLd療法(CFZ,LEN,低用量DEX)やダラツムマブ(DARA)単剤による第Ⅱ相試験が行われ,いずれもMM進展を遅延させることが示唆されている4,5)
 高・中間リスクのSMMに対する早期治療介入によりMMへの進行を遅らせることが示されているが,治療により有害事象を伴うこと,高リスクSMMの中でもMMに進展しない例もあること,そもそも高リスクの定義が報告により異なること,至適な治療法が定まっていないことなどから,現時点では実臨床での治療介入を推奨するのは時期尚早である。

参考文献

1) Mateos MV, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for high-risk smoldering multiple myeloma. N Engl J Med. 2013; 369(5): 438-47.(1iiDiii)

2) Mateos MV, et al. Lenalidomide plus dexamethasone versus observation in patients with high-risk smouldering multiple myeloma(QuiRedex): long-term follow-up of a randomized, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016; 17(8): 1127-36.(1iiDiii)

3) Lonial S, et al. Randomized trial of lenalidomide versus observation in smoldering multiple myeloma. J Clin Oncol. 2019; 38(11): 1126-37.(1iiDiii)

4) Kazandjian D, et al. Carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone followed by lenalidomide maintenance for prevention of symptomatic multiple myeloma in patients with high-risk smoldering myeloma. A phase 2 nonrandomized controlled trial. JAMA Oncol. 2021; 7(11): 1678-85.(2Diii)

5) Landgren CO, et al. Daratumumab monotherapy for patients with intermediate-risk or high-risk smoldering multiple myeloma: a randomized, open-label, multicenter, phase 2 study(CENTAURUS). Leukemia. 2020; 34(7): 1840-52.(2Div)

 

CQ4 MGUSやくすぶり型骨髄腫に対するビスホスホネート製剤やデノスマブの投与は推奨されるか

推奨グレード
カテゴリー4

MGUSやくすぶり型骨髄腫に対するビスホスホネート製剤やデノスマブの投与は,多発性骨髄腫への進展時の骨関連事象の合併頻度を減少させるが,多発性骨髄腫に至るまでの期間や生存期間を延長させる効果は認められず,投与は推奨されない。

解説

くすぶり型骨髄腫患者を対象としたゾレドロン酸(ZOL)4mgを月1回で1年間投与する群と経過観察する群のランダム化第Ⅲ相比較試験と,パミドロネート60〜90mgを月1回で1年間投与する群と経過観察する群のランダム化第Ⅲ相比較試験が行われた1,2)。主要評価項目の多発性骨髄腫への進展までの期間(TTP)やOSは両群間で有意差は認められなかったが,多発性骨髄腫への進展時の骨関連事象の発現率はビスホスホネート製剤投与により有意に減少することが示された(ZOL投与群55.5% vs. 経過観察群78.8%;p=0.041,パミドロネート投与群39.2% vs. 経過観察群72.7%;p=0.009)。
 骨粗鬆症や骨量が減少したMGUS患者を対象に,ZOL投与による骨密度の改善を検証する第Ⅱ相試験が行われた。ZOL 4mgを0,6,12カ月目に投与し,13カ月目に骨密度の評価を行ったところ,有意な骨密度の増加が認められた3)。このようなMGUS患者に対するZOL投与が骨折防止に有効な可能性はあるが,単アームであるため比較試験での検証が必要である。
 また,ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤デノスマブによるくすぶり型骨髄腫の多発性骨髄腫への進展抑制効果は現時点では明らかではないためビスホスホネート製剤と同様に推奨されない。

参考文献

1) Musto P, et al. A multicenter, randomized clinical trial comparing zoledronic acid versus observation in patients with asymptomatic myeloma. Cancer. 2008; 113(7): 1588-95.(1Diii)

2) D’Arena G, et al. Pamidronate versus observation in asymptomatic myeloma: final results with long-term follow-up of a randomized study. Leuk & Lymphoma. 2011; 52(5): 771-5.(1Diii)

3) Berenson JR, et al. Zoledronic acid markedly improves bone mineral density for patients with monoclonal gammopathy of undetermined significance and bone loss. Clin Cancer Res. 2008; 14(19): 6289-95.(2Div)

このページの先頭へ