日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版

第Ⅱ章 リンパ腫

Ⅱ リンパ腫

7 末梢性T細胞リンパ腫
(peripheral T-cell lymphoma:PTCL)

総論

 WHO分類(2017)では約30のPTCLおよびNK細胞腫瘍の疾患単位が掲載されている1)。成熟T/NK細胞腫瘍では,世界の各地域間で病型相対頻度が異なることが知られている。International T-Cell Lymphoma Projectとして約1,300例を対象として行われた多国間共同後方視的研究によると,欧米で頻度の高いPTCL病型は頻度が高いものから順に,PTCL,非特定型(PTCL,not otherwise specified:PTCL-NOS),血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma:AITL),未分化大細胞リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL),ALK陽性とALCL,ALK陰性である2)。本項では上述の4病型について取り扱い,わが国で頻度の高い成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)と節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma,nasal type:ENKL)については別項で取り扱う。皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)に関しては独自のガイドライン(科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版)3)が作成されている。
 PTCLにおける病期分類は,ほかの非ホジキンリンパ腫と同様にLugano分類(2014)が用いられる4)。予後予測モデルとしては国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)が有用であり2),PTCL-NOSに関してはイタリアの研究グループから提唱された病型特異的予後予測モデルであるPIT(Prognostic Index for PTCL-U)がある。PITでは,年齢>60歳,performance status(PS)>1,血清LDH値>施設基準値上限,骨髄浸潤陽性の4つが予後不良因子として規定されている5)
 PTCLに対する効果判定としては,positron emission tomography(PET)を組み込んだ規準がLugano分類(2014)に含まれている4)

 補足:International T-Cell Lymphoma Projectにおいて全T/NK細胞腫瘍に占める頻度が5%未満と報告された稀なPTCL病型として,腸管症関連T細胞リンパ腫(enteropathy-associated T-cell lymphoma:EATL),肝脾T細胞リンパ腫(hepatosplenic T-cell lymphoma:HSTL),原発性皮膚ALCL,皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫が挙げられる2)。EATLはCeliac病の頻度の高い欧州では全悪性リンパ腫の9.1%を占め,北米でも5.8%を占めるもののアジアでは1.9%と頻度が低い6)。WHO分類(2017)では,Celiac病との関連がなく従来type Ⅱとされていたものがmonomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma(MEITL)として分離された1)。HSTLは細胞傷害性T細胞,通常はγδ型T細胞に由来する腫瘍で,若年男性に多く,著明な肝脾腫を特徴とする1)。EATL,HSTLともにCHOP(類似)療法による予後は不良であり,病型特異的治療は未確立である。その他の2病型は皮膚/皮下組織を主な病変部位とするリンパ腫である。

参考文献

1)Swerdlow SH, et al. eds. Mature T- and NK-cell neoplasms. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2017 : pp345-422. (テキストブック)
2)Vose J, et al. International peripheral T-cell and natural killer/T-cell lymphoma study : pathology findings and clinical outcomes. J Clin Oncol. 2008 ; 26 (25) : 4124-30. (3iiA)
3)科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版.日本皮膚科学会/日本皮膚悪性腫瘍学会編,金原出版,東京,2015. (ガイドライン)
4)Cheson BD, et al. Recommendations for initial evaluation, staging, and response assessment of Hodgkin and non-Hodgkin lymphoma : the Lugano classification. J Clin Oncol. 2014 ; 32 (27) : 3059-68.
5)Gallamini A, et al. Peripheral T-cell lymphoma unspecified (PTCL-U) : a new prognostic model from a retrospective multicentric clinical study. Blood. 2004 ; 103 (7) : 2474-9. (3iiA)
6)Delabie J, et al. Enteropathy-associated T-cell lymphoma : clinical and histological findings from the International Peripheral T-Cell Lymphoma Project. Blood. 2011 ; 118 (1) : 148-55.

 

アルゴリズム

 PTCL(本項では総論で指定した4病型について取り扱う)は無治療で月単位の病勢進行を示すアグレッシブ リンパ腫(中悪性度リンパ腫)に分類され,リツキシマブ(R)導入以前は,アグレッシブ リンパ腫の約80%を占めるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)とともに病態研究と治療開発がなされ,PTCLの標準治療は他のアグレッシブ リンパ腫と同様とみなされてきた。
 R導入以前にREAL分類の臨床的有用性の評価を試みた国際共同後方視的研究において,ALCLを除く全PTCLの予後がDLBCLより不良であることが指摘された1)。また,主にCHOP(類似)療法が実施された患者集団におけるPTCL病型間の予後比較において,PTCL-NOSとAITLの予後はほぼ同様であり,ALCLのうちALK陽性例の予後が良好であることが判明した2)。以上の背景から,現在では,ALK陽性ALCLとそれ以外のPTCLとの2群に分けて治療方針が決定されている。
 ALK陽性ALCLでは,DLBCLに匹敵する治療成績が得られているCHOP療法[限局期ではinvolved-field radiotherapy(IFRT)を追加]が推奨される(CQ1)。PTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCLにおいても,治療実績が最も多く報告されているCHOP療法などの多剤併用化学療法が推奨される(CQ2)。ただしその治療効果は不十分であり,標準治療レジメンは確定しておらず,臨床試験への参加が推奨される(CQ2)。初発進行期PTCLの初回完全奏効(CR)例における自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)追加の意義は不明であり,一般診療として行うことは推奨されず,臨床試験として実施することが望ましい(CQ3)。初回治療後部分奏効(PR)以下の場合の治療選択に関するエビデンスは乏しく,現在新規化学療法レジメン,新規治療薬,HDC/AHSCT,同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation:allo-HSCT)の臨床試験が進行中である。
 再発・難治性PTCLの救援療法としては他のアグレッシブ リンパ腫に対するものと同様の多剤併用救援化学療法のほか,再発または難治性のCD30陽性ALCLでは抗CD30抗体薬物複合体であるブレンツキシマブ ベドチンも選択肢として挙げられる3)

参考文献

1)A clinical evaluation of the International Lymphoma Study Group classification of non-Hodgkin’s lymphoma. The Non-Hodgkin’s Lymphoma Classification Project. Blood. 1997 ; 89 (11) : 3909-18. (3iiA)
2)Savage KJ, et al. ALK- anaplastic large-cell lymphoma is clinically and immunophenotypically different from both ALK+ALCL and peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified : report from the International Peripheral T-Cell Lymphoma Project. Blood. 2008 ; 111 (12) : 5496-504. (3iiA)
3)Pro B, et al. Five-year results of brentuximab vedotin in patients with relapsed or refractory systemic anaplastic large cell lymphoma. Blood. 2017 ; 130 (25) : 2709-17. (3iiA)

 

CQ1 初発ALK陽性ALCLに対して最も勧められる治療は何か

推奨グレード
カテゴリー2A

CHOP療法が推奨される。限局期ではCHOP短期コース後にIFRTを追加する治療法も選択肢となりうる。

解説

 ALK陽性ALCLは,ALK陰性ALCLより若年者に多く,節外病変数2以上の患者割合が低い1)。1999年に報告された北米2施設共同の後方視的研究により,ALK陽性ALCLでは従来のアグレッシブ リンパ腫に対する標準治療であるCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)あるいはその類似療法による良好な治療成績が報告されている1)。全PTCLの中でCHOP療法あるいはその類似療法により良好な治療効果が得られることがその後の複数の後方視的解析の結果から示されており2, 3),初回治療として推奨される。限局期の場合はほかのアグレッシブ リンパ腫に準じて,CHOP短期コース後にinvolved-field radiotherapy(IFRT)を追加する治療法も選択肢となりうる。

参考文献

1)Gascoyne RD, et al. Prognostic significance of anaplastic lymphoma kinase (ALK) protein expression in adults with anaplastic large cell lymphoma. Blood. 1999 ; 93 (11) : 3913-21. (3iiA)
2)Vose J, et al. International peripheral T-cell and natural killer/T-cell lymphoma study : pathology findings and clinical outcomes. J Clin Oncol. 2008 ; 26 (25) : 4124-30. (3iiA)
3)Savage KJ, et al. ALK- anaplastic large-cell lymphoma is clinically and immunophenotypically different from both ALK+ALCL and peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified : report from the International Peripheral T-Cell Lymphoma Project. Blood. 2008 ; 111 (12) : 5496-504. (3iiA)

 

CQ2 初発PTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCLに対して最も勧められる治療は何か

推奨グレード
カテゴリー2A

CHOP療法などの多剤併用化学療法による治療実績が最も多く,推奨される。ただし,標準治療レジメンは確定しておらず,臨床試験参加が推奨される。

解説

 PTCLはアグレッシブ リンパ腫の10~15%を占める。米国での大規模ランダム化比較試験1)においてCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)がアグレッシブ リンパ腫に対する標準治療に位置づけられたことを受けて,PTCLの標準治療もCHOP療法であるとみなされ,国内外の日常診療で広く行われてきた。
 その後,国内外での複数の後方視的研究により,PTCLはDLBCLを代表とするアグレッシブB細胞リンパ腫と比較して,CHOPまたはその類似療法による治療成績が有意に不良であることが明らかにされた2-4)。さらに,PTCLの中でもALK陽性ALCLはCHOP(類似)療法で良好な治療成績が得られることが明らかにされた(CQ1)。
 PTCL,あるいはALK陰性を除くPTCL初発例を対象としたランダム化比較試験は少なく,これまでにCHOP療法を凌駕する試験治療は報告されていない。国内ではDA-EPOCH療法(ETP,PSL,VCR,CPA,DXR)が第Ⅱ相試験で検討され,日本人患者での安全性が確認されているが5),有効性に関してCHOP療法との優劣は不明である。
 以上より,初発PTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCLにおける標準治療は未確立であり,CHOP療法などの多剤併用化学療法がこれまでの治療実績から推奨される。初回化学療法後に部分奏効であった患者で,病変が限局している場合に他のアグレッシブ リンパ腫に準じてIFRTを追加することがあるが,その適応に関する明確なエビデンスはない。新規治療薬単独あるいは併用化学療法の臨床試験が国内外で進行中であり,標準治療が未確立であることから,臨床試験への参加が推奨される。

参考文献

1) Fisher RI, et al. Comparison of a standard regimen (CHOP) with three intensive chemotherapy regimens for advanced non-Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med. 1993 ; 328 (14) : 1002-6. (1iiA)
2) A clinical evaluation of the International Lymphoma Study Group classification of non-Hodgkin’s lymphoma. The Non-Hodgkin’s Lymphoma Classification Project. Blood. 1997 ; 89 (11) : 3909-18. (3iiA)
3) Gisselbrecht C, et al. Prognostic significance of T-cell phenotype in aggressive non-Hodgkin’s lymphomas. Groupe d’Etudes des Lymphomes de l’Adulte (GELA). Blood. 1998 ; 92 (1) : 76-82. (3iiA)
4) Watanabe T, et al. Pretreatment serum total protein is a significant prognostic factor to predict outcome of peripheral T/NK-cell lymphoma patients. Leuk Lymphoma. 2010 ; 51 (5) : 813-21. (3iiA)
5) Maeda Y, et al. Dose-adjusted EPOCH chemotherapy for untreated peripheral T-cell lymphomas : A multicenter phase II trial of West-JHOG PTCL0707. Haematologica. 2017 ; 102 (12) : 2097-103. (3iiDiv)

 

CQ3 初発進行期PTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCLの化学療法後CR例において地固め療法としての自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は必要か

推奨グレード
カテゴリー2A

初発進行期PTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCLの初回CR例における自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は,一般診療として行うことは勧められない。実施する場合は臨床試験として実施することが望ましい。

解説

 初発進行期PTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCLの予後は不良であり,5年全生存割合(OS)はいずれも50%未満である1)。初回完全奏効(complete response:CR)での自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)が検討されており,良好な治療成績を報告している後方視的研究が複数存在する。これを受けて,欧米でいくつかの第Ⅱ相試験が行われた。スペインから3年OS 73%2)と良好な治療効果が報告された一方で,他の試験での3~5年OSは50%程度であり3, 4),化学療法単独と比較して改善が示されたとは結論されていない。ランダム化比較試験の結果報告はないため,現時点での評価は困難である。以上より初発進行期PTCLの初回CR例でのHDC/AHSCTは,一般診療として行うことは推奨されず,臨床試験として実施することが望ましい。しかしながら,T細胞リンパ腫のような稀少病型に対する臨床試験は実施されていないのが現状である。このような比較試験のない状況下で,米国造血細胞移植学会(ASBMT)から推奨ガイドが参考として出版されている5)。このガイドではPTCL-NOS,AITL,ALK陰性ALCL進行期例の初回CR後HDC/AHSCTは推奨とされているが,比較試験のエビデンスがない状況に変わりはない。優越性をもって推奨できる選択肢ではない点を注意して判断すべきである。

参考文献

1) Vose J, et al. International peripheral T-cell and natural killer/T-cell lymphoma study : pathology findings and clinical outcomes. J Clin Oncol. 2008 ; 26 (25) : 4124-30. (3iiA)
2) Rodriguez J, et al. Frontline autologous stem cell transplantation in high-risk peripheral T-cell lymphoma : a prospective study from The Gel-Tamo Study Group. Eur J Haematol. 2007 ; 79 (1) : 32-8. (3iiiA)
3) Reimer P, et al. Autologous stem-cell transplantation as first-line therapy in peripheral T-cell lymphomas : results of a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2009 ; 27 (1) : 106-13. (3iiiA)
4) d’Amore F, et al. Up-front autologous stem-cell transplantation in peripheral T-cell lymphoma : NLG-T-01. J Clin Oncol. 2012 ; 30 (25) : 3093-9. (3iiiA)
5) Kharfan-Dabaja MA, at al. Clinical practice recommendations on indication and timing of hematopoietic cell transplantation in mature T-cell and NK/T-cell lymphomas : an international collaborative effort on behalf of the Guidelines Committee of the American Society for Blood and Marrow Transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2017 ; 23 (11) : 1826-38. (ガイドライン)

このページの先頭へ