第Ⅱ章 リンパ腫
Ⅱ リンパ腫
4 マントル細胞リンパ腫
(mantle cell lymphoma:MCL)
総論
リンパ節濾胞のマントル層(暗殻)を構成するB細胞と同じ細胞表面形質を有する腫瘍である。免疫組織学的にはCD5とcyclin D1およびSOX11が陽性で,分子遺伝学的には染色体転座t(11;14)(q13;q32)に伴うBCL-1(CCND1)遺伝子再構成を有する独立した疾患単位である1)。わが国での発症頻度は,全悪性リンパ腫の3%程度である2)。発症年齢中央値は60歳代半ばで男性に多い1, 3)。約90%は初発時に病期Ⅲ,Ⅳの進行期で,表在リンパ節腫大以外に70%程度は節外病変を有し,骨髄浸潤は半数以上,脾腫は30%以上,消化管浸潤も30%以上に認められる3)。免疫組織化学染色ではcyclin D1陰性例が15%程度存在し,cyclin D1陽性例に比べ予後良好と報告されている4)。SOX11はcyclin D1陰性例も大半は陽性となり診断に有用である5)。WHO分類(2017)では,分子亜型として新たにMCL,leukemic,non-nodal typeが記載された。脾辺縁帯リンパ腫に類似した病態と比較的インドレントな臨床経過を特徴とする1)。また,従来in situ MCLと記載された初期病変は,in situ mantle-cell“neoplasia”として治療適応外病変と位置づけられた1)。MCLの病期分類には,他の非ホジキンリンパ腫と同様にAnn Arbor分類が用いられる。予後予測モデルとして,International Prognostic Index(IPI)とは別に,年齢,Performance status(PS),血清LD,末梢血白血球数の4因子について配点を規定し,総点数により予後をlow,intermediate,highの3群に層別するsimplified MCL International Prognostic Index(MIPI)が提唱され,IPIより予後予測能が高いことが示されている6)。さらに,Ki-67免疫染色陽性率(MIB-1 index)はMIPIの4因子とは異なる独立した予後因子であり,Ki-67免疫染色陽性率を加えたMIPIbも提唱されている6, 7)。また,リツキシマブ導入以降では年齢,PS,骨髄浸潤,末梢血白血球数,血清LD,血清アルブミンの6因子を用い,予後をlow,low-intermediate,high-intermediate,highの4群に層別するrevised MIPIも新たに提案されている3)。これらは一般臨床にはあまり用いられていないが,臨床研究の解析には広く導入されている。なお,MCLにおいても中枢神経系(CNS)再発が少なからず認められる。Ki-67免疫染色高陽性率やblastoid variantなどCNS浸潤リスク8, 9)を有する例ではCNS再発予防に留意する必要があるが,推奨されるCNS予防治療法は確立していない。
参考文献
1)Swerdlow SH, et al. Mantle cell lymphoma. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2017 : pp285-90. (テキストブック)
2)Lymphoma Study Group of Japanese Pathologist. The World Health Organization classification of malignant lymphomas in Japan. Incidence of recently recognized entities. Pathol Int. 2000 ; 50 (9) : 696-702.
3)Chihara D, et al. Prognostic model for mantle cell lymphoma in the rituximab era : a nationwide study in Japan. Br J Haematol. 2015 ; 170 (5) : 657-68.
4)Yatabe Y, et al. Significance of cyclin D1 overexpression for the diagnosis of mantle cell lymphoma : a clinicopathologic comparison of cyclin D1-positive MCL and cyclin D1-negative MCL-like B-cell lymphoma. Blood. 2000 ; 95 (7) : 2253-61. (3iiiA)
5)Mozos A, et al. SOX11 expression in highly specific for mantle cell lymphoma and identifies cyclin D1-negative subtpe. Haematologica. 2009 ; 94 (11) : 1555-62.
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7)Gressin R, et al. Evaluation of the (R) VAD+C regimen for the treatment of newly diagnosed mantle cell lymphoma. Combined results of two prospective phase II trials from the French GOELAMS group. Haematologica. 2010 ; 95 (8) : 1350-57. (3iiiDiv)
8)Chihara D, et al. Ki-67 is a strong predictor of central nervous system relapse in patients with mantle cell lymphoma (MCL). Ann Oncol 2015 ; 26 (5) : 966-73. (3iiiDiv)
9)Cheah CY, et al. Central nervous system involvement in mantle cell lymphoma : clinical features, prognostic factors and outcomes from the European Mantle Cell Lymphoma Network. Ann Oncol 2013 ; 24 (8) : 2119-23. (3iiiDiv)
アルゴリズム
MCLは標準治療が確立しておらず,現在も精力的に臨床試験が進められている。本項では日常診療として実施可能な治療をもとにアルゴリズムを作成した。
限局期ではinvolved-field radiotherapy(*IFRT)±化学療法群と,化学療法単独または経過観察群との治療成績の比較から,IFRT単独もしくはIFRTと化学療法との併用が推奨される(CQ1)。進行期の治療の原則は多剤併用化学療法とリツキシマブ(R)との併用療法である。限られた症例ではあるが,極めてインドレントな臨床経過を示す群がある。これらはindolent MCLとして,濾胞性リンパ腫などの低悪性度B細胞リンパ腫と同様に無治療で経過観察することが可能であるが,診断時にこのよう症例を見出す方法は確立していない(CQ2)。進行期MCLに対しアグレッシブリンパ腫の標準的化学療法であるCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)またはその類似療法単独での長期治療成績は不良である。これらにRを併用することで完全奏効割合が改善し良好な分子生物学的奏効も得られるが,長期無増悪生存割合の改善は十分ではない(CQ3, CQ4)。このため,65歳以下の症例にはRと高用量シタラビンを組み込んだ強化型化学療法を実施し,奏効例には可能であれば第一奏効期に地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)を行うことが推奨される(CQ5, CQ6)。一方,66歳以上あるいは強化型化学療法の適用が困難な場合は,RとCHOP療法との併用および奏効例にはその後のR維持療法,Rとベンダムスチンとの併用(BR)療法,VR-CAP療法(BOR,R,CPA,DXR,PSL)などが推奨される(CQ7)。初回治療に際しては臨床病態,病理組織学所見などを詳細に検討し,患者個々に最も有用性が高いと考えられる治療法を選択する必要がある。再発・初回治療抵抗例にはベンダムスチン,ボルテゾミブ,フルダラビンに加え,新たにイブルチニブが導入され良好な治療成績が報告されている(CQ8)。また,これら以外にも新規治療薬の臨床試験も展開されている。標準治療が確立していないMCLでは,新規治療薬の臨床試験への登録も望まれる。これら救援療法が不応・不適応の場合は,緩和的なIFRTの適用も考慮される(CQ8)。
*IFRT:リンパ腫病変が確認されたリンパ節の所属リンパ節領域および,リンパ腫病変が確認された節外病変に一定のマージンを設定した部位に対して行われる放射線療法。
CQ1 限局期MCLの初回治療として推奨される治療法は何か
- 推奨グレード
- カテゴリー2A
化学療法単独での治療効果は不良で,一方,放射線療法の感受性が高いことから,限局期の初回治療としてはIFRT単独(30~36Gy),またはIFRTと化学療法との併用が推奨される。
解説
巨大腫瘤のない初発ⅠA,ⅡA期のMCLにおいて,IFRT±化学療法(アルキル化薬単独またはCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)など)群と,化学療法単独または経過観察群とを比較検討した比較的少数例の後方視的解析の結果,無増悪生存(PFS)割合には年齢とIFRT実施が有意な予後因子であった。5年PFS割合は,年齢60歳以上に比べ60歳未満は有意に優れていた。同様にIFRT実施群のPFS割合はIFRT未実施群に比べ有意に優れる結果であり,照射野内には再発を認めていない。一方,5年全生存(OS)割合は,IFRT実施群と非実施群との間に有意な差はなかった1)。また,初発限局期および再発・治療抵抗例の後方視的解析でも,IFRTは15~20Gyの比較的低線量で完全奏効割合64%を含む100%の局所奏効割合と,無増悪生存期間の中央値は10カ月との良好な局所コントロールが報告されている2)。MCLは化学療法単独での治療成績が不良であることから,初発限局期の治療としてIFRT単独(30~36Gy),またはIFRTと多剤併用化学療法との併用が推奨される。しかし,限局期MCLの長期観察では,治癒指向性IFRTによる治療例にしばしば遠隔再発を認めている3)。多くは診断時に標準的病期診断法で検出できなかった病変と考えられ,限局期MCLのIFRT単独療法の治療効果には限界がある。
参考文献
1)Leitch HA, et al. Limited-stage mantle-cell lymphoma. Ann Oncol. 2003 ; 14 (10) : 1555-61. (3iiiDiii)
2)Rosenbluth BD, et al. Highly effective local control and palliation of mantle cell lymphoma with involved-field radiation therapy (IFRT). Int J Radiation Oncology Biol Phys. 2006 ; 65 (4) : 1185-91. (3iiDiv)
3)Barzenje DA, et al. Long-term outcome for patients with early stage marginal zone lymphoma and mantle cell lymphoma. Leuk Lymphoma. 2017 ; 58 (3) : 623-632. (3iiiA)
CQ2 MCLの初回治療として無治療経過観察は適切か
- 推奨グレード
- カテゴリー2B
MCLの一部はインドレントな臨床経過を呈する。このような症例を診断時に同定するのは困難であるが,特に高齢でインドレントな臨床経過を呈する症例には,無治療経過観察も考慮すべき治療として推奨される。
解説
MCLの一部はインドレントな臨床経過を呈することが知られている。臨床情報が明らかな97例の後方視的解析では,31例は無治療経過観察が可能であった。その期間は6カ月以上が71%,1年以上が14%,5年以上は10%で,この群の全生存期間は診断後早期にCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)を開始した群より良好であった1)。この研究ではインドレントな経過を呈する群(indolent MCL)を診断時に抽出する有意なマーカーは検出されていないが,一般に限局期,組織学的にはマントル層型,small cell型,Ki-67免疫染色陽性率(MIB-1 index)低値の例はインドレントな経過を呈しやすく,比較的長期間の無治療経過観察が可能である2)。また,indolent MCLはSOX11の発現強度が低く3),染色体異常も付加異常が少なく極めて単純4)との報告もある。一方,免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子の再構成頻度の解析から,通常のMCLとは異なるsubtypeの存在が報告されている。これらは節外病変主体(節病変はないか,あってもわずか),脾腫,白血化など脾辺縁帯リンパ腫に類似したインドレントな病態を呈し4),WHO分類(2017)では「leukemic,non-nodal MCL」と記載された5)。特に高齢でインドレントな臨床経過を呈する症例は無治療経過観察の適応と考えられるが,indolent MCLを診断時に正しく鑑別する方法は未だ確立しておらず,無治療経過観察の適用には慎重な配慮が必要である6)。
参考文献
1)Martin P, et al. Outcome of differed initial therapy in mantle-cell lymphoma. J Clin Oncol. 2009 ; 27 (8) : 1209-13. (3iiiA)
2)Kimura Y, et al. Small cell variant of mantle cell lymphoma is an indolent lymphoma characterized by bone marrow involvement, splenomegaly, and a low Ki-67 index. Cancer Sci. 2011 ; 102 (9) : 1734-41. (3iiiA)
3)Wang X, et al. The subcellular Sox11 distribution pattern identifies subsets of mantle cell lymphoma : correlation to overall survival. Br J haematol. 2008 ; 143 (2) : 248-53. (3iiiA)
4)Navarro A, et al. Molecular pathogenesis of mantle cell lymphoma : new perspectives and challenges with clinical implications. Semin Hematol. 2011 ; 48 (3) : 155-65. (レビュー)
5)Swerdlow SH, et al. Mantle cell lymphoma. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2017 : pp285-90. (テキストブック)
6)Martin P, et al. Is there a role of “watch and wait” in patients with mantle cell lymphoma. Semin Hematol. 2011 ; 48 (3) : 189-93. (レビュー)
CQ3 初発進行期MCLの治療としてリツキシマブ単独療法は有用か
- 推奨グレード
- カテゴリー3
初回治療としてリツキシマブ単独療法は適切ではなく,多剤併用化学療法の適用が困難と判断される一部の例を除けば推奨されない。
解説
低悪性度B細胞リンパ腫およびMCLに対するリツキシマブ(R)単独療法(375mg/m2,週1回,4週間連続投与)の第Ⅱ相試験では,初発MCLの完全奏効(CR)割合は14%,部分奏効(PR)割合は37%であり,一方,既治療MCLのCR割合は16%,PR割合は38%で,R単独療法はアルキル化薬単独療法に比べCR割合,全奏効割合(ORR)とも改善していない1)。治療成功生存(FFS)期間の中央値は1.2年で,未治療例と既治療例,CR例とPR例との間に有意な差を認めていない1)。また,Rを標準投与(週1回,4週連続)した後,さらに8週間隔でRの標準投与を3回追加してもORR,FFS期間,無イベント生存期間のいずれにも改善は得られていない2)。R単独療法では十分な長期治療効果は期待できず,初発例の治療として適切ではない。多剤併用化学療法の適用が困難な一部の症例を除けば,R単独療法は推奨されない。
参考文献
1)Foran JM, et al. European phase II study of Rituximab (chimeric anti-CD20 monoclonal antibody) for patients with newly diagnosed mantle-cell lymphoma and previously treated mantle-cell lymphoma, immunocytoma, and small B-cell lymphocytic lymphoma. J Clin Oncol. 2000 ; 18 (2) : 317-24. (3iiiDiv)
2)Ghielmini M, et al. Effect of single-agent rituximab given at the standard schedule or prolonged treatment in patients with mantle cell lymphoma : A study of the Swiss Group for Clinical Cancer Research (SAKK). J Clin Oncol. 2005 ; 23 (4) : 705-11. (3iiDi)
CQ4 初発進行期MCLの化学療法にはリツキシマブを併用すべきか
- 推奨グレード
- カテゴリー1
初発進行期MCLの治療として,化学療法とリツキシマブとの併用は治療効果を改善するので,リツキシマブを併用することが推奨される。
解説
初発,Ⅱ~Ⅳ期(80%は骨髄浸潤あり)を対象としたリツキシマブ(R)-CHOP療法(R,CPA,DXR,VCR,PSL)の第Ⅱ相試験1)では,完全奏効(CR,CRu)割合は48%,全奏効割合(ORR)は96%で,48%には分子生物学的奏効が得られた。しかし,分子生物学的奏効例の無増悪生存(PFS)期間の中央値は16.6カ月と改善が得られていない。R併用化学療法は末梢血や骨髄の腫瘍細胞を消失させ良好な分子生物学的効果が得られるが,奏効持続期間は短い。また,R-CHOP療法とCHOP療法との第Ⅲ相試験においても,ORR,CR割合,治療成功生存(FFS)期間は前者が有意に優れたが,全生存(OS)割合には有意な差はなかった2)。しかし,メタアナリシスの結果,Rと化学療法との併用はORR,OS期間を有意に改善することが示されている3)。高齢者(66歳以上)を対象としたメタアナリシスでも,OS期間と2年OS割合に関わる多変量解析の結果,Rと化学療法との併用が最も強い予後良好因子であった[HR 0.58(95%CI:0.41-0.82),p<0.01]4)。初発MCLでは,Rと化学療法との併用は初期治療効果を有意に改善することから,両者の併用は強く推奨される。
参考文献
1)Howard OM, et al. Rituximab and CHOP induction therapy for newly diagnosed mantle-cell lymphoma : Molecular complete responses are not predictive of progression-free survival. J Clin Oncol. 2002 ; 20 (5) : 1288-94. (3iiiDiv)
2)Lenz G, et al. Immunochemotherapy with rituximab and cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisone significantly improves response and time to treatment failure, but not long-term outcome in patients with previously untreated mantle cell lymphoma : results of a prospective randomized trial of the German Low Grade Lymphoma Study Group (GLSG). J Clin Oncol. 2005 ; 23 (9) : 1984-92. (1iiDiv)
3)Schulz H, et al. Immunochemotherapy with rituximab and overall survival in patients with indolent or mantle cell lymphoma : a systematic review and meta-analysis. J Natl Cancer Inst. 2007 ; 99 (9) : 706-14. (1iiA)
4)Griffiths R, et al. Addition of rituximab to chemotherapy alone as first-line therapy improves over-all survival in elderly patients with mantle cell lymphoma. Blood. 2011 ; 118 (18) : 4808-16. (3iA)
CQ5 65歳以下の初発進行期MCLに推奨される化学療法は何か
- 推奨グレード
- カテゴリー2A
初発進行期MCLに対するR-CHOP療法は,初期治療効果を有意に改善し奏効割合を改善するが,奏効期間は比較的短く長期の治療成績は必ずしも改善していない。一方,リツキシマブと特に高用量シタラビンを含む治療強度(dose intensity)を高めた強化型化学療法との併用では長期治療成績の改善が得られる。65歳以下の比較的若年者では,リツキシマブと高用量シタラビンとを併用した強化型化学療法が推奨される。
解説
初発進行期MCLのCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)の成績は,完全奏効(CR)割合30%未満,10年生存(OS)割合は8%1)で,リツキシマブ(R)-CHOP療法でも長期治療成績は必ずしも改善していない2, 3)。M.D. Anderson Cancer Centerでは,治療強度を高めたhyper-CVAD/MA療法(CPA,VCR,DXR,DEX /高用量MTX,高用量AraC)の奏効例に自家または同種造血幹細胞移植を追加することで優れた治療成績を報告したが,適応は限られていた4)。また,R-hyper-CVAD/MA療法は造血幹細胞移植なしで3年無増悪生存(PFS)割合64%が得られたが,PFS曲線は平坦化していない5)。Nordic Lymphoma Groupが実施した65歳以下を対象に地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation;HDC/AHSCT)を用いた2つの第Ⅱ相試験(一方は寛解導入治療にRと高用量シタラビン(AraC)は用いておらず,他方はRと高用量AraCを組み込んでいる)の比較では,寛解導入治療にRと高用量AraCとを組み込んだ治療の方が6年OS割合,無イベント生存(EFS)割合,PFS割合,分子生物学的奏効期間が有意に優れていた6)。同様にthe Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(GELA)の第Ⅱ相試験 [CHOP療法に続くR-DHAP療法(R,DEX,高用量AraC,CDDP)の奏効例にHDC/AHSCT実施]や,わが国の第Ⅱ相試験[JCOG0406試験:R-highCHOP/CHASER(CPA,高用量AraC,PSL,ETP,R)療法の奏効例にHDC/AHSCT実施]でも高用量AraCの導入は良好なEFS割合,OS割合を示した7, 8)。また,European MCL Networkの第Ⅲ相試験では,R-CHOP療法(6コース)に続くHDC(AraCを含まない)/AHSCT群に比べ,R-CHOP/R-DHAP交替療法(各3コース)に続くHDC(高用量AraCを含む)/AHSCT群の方が5年治療成功期間,5年PFS期間が有意に優れた(5年OS期間には有意差なし)9)。Rと高用量AraCとを含む強化型化学療法は,R-CHOP療法に比べ優れた治療成績が得られるので,65歳以下の初発進行期例に推奨され,その奏効例には引き続きHDC/AHSCTを実施することが推奨される。なお,最近HDC/AHSCT実施を前提とする寛解導入治療として,Rとベンダムスチン併用[RB(またはBR)]療法とR-hyper CVAD/MA療法とを比較したSouthwest Oncology Group(SWOG)の第Ⅱ相試験では,RB療法はR-hyper-CVAD/MA療法と比べ血液学的有害事象が軽度で造血幹細胞採取効率に優れ,PFS期間とOS期間には有意差がなかったと報告された10)。今後の検証が望まれる。
参考文献
1)Fisher RI, et al. A clinical analysis of two indolent lymphoma entities : mantle cell lymphoma and marginal zone lymphoma (including the mucosa-associated lymphoid tissue and monocytoid B-cell lymphoma) : a Southwest Oncology Group study. Blood. 1995 ; 85 (4) : 1075-82. (3iiiA)
2)Howard OM, et al. Rituximab and CHOP induction therapy for newly diagnosed mantle-cell lymphoma : Molecular complete responses are not predictive of progression-free survival. J Clin Oncol. 2002 ; 20 (5) : 1288-94. (3iiiDiv)
3)Lenz G, et al. Immunochemotherapy with rituximab and cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisone significantly improves response and time to treatment failure, but not long-term outcome in patients with previously untreated mantle cell lymphoma : results of a prospective randomized trial of the German Low Grade Lymphoma Study Group (GLSG). J Clin Oncol. 2005 ; 23 (9) : 1984-92. (1iiDiv)
4)Khouri IF, et al. Hyper-CVAD and high dose methotrexate/cytarabine followed by stem-cell transplantation : an active regimen for aggressive mantle-cell lymphoma. J Clin Oncol. 1998 ; 16 (12) : 3803-9. (3iiiDi)
5)Romaguera JE, et al. High rate of durable remissions after treatment of newly diagnosed aggressive mantle-cell lymphoma with rituximab plus hyper-CVAD alternating with rituximab pulse high-dose methotrexate and cytarabine. J Clin Oncol. 2005 ; 23 (28) : 7013-23. (3iiDiv)
6)Geisler CH, et al. Long-term progression-free survival of mantle-cell lymphoma after intensive front-line immunochemotherapy with in vivo-purged stem cell rescue : a nonrandomized phase 2 multicenter study by Nordic Lymphoma Group. Blood. 2008 ; 112 (7) : 2687-93. (3iiiDi)
7)Delarue R, et al. CHOP and DHAP plus rituximab followed by autologous stem cell transplantation in mantle cell lymphoma : a phase 2 study from the Groupe d’Etude des Lymphomes l’Adulte. Blood 2013 ; 121 (1) : 48-53. (3iiiDi)
8)Ogura M, et al. Japan Clinical Oncology Group-Lymphoma Study Group(JCOG-LSG) : R-High-CHOP/CHASER/LEED with autologous stem cell transplantation in newly diagnosed mantle cell lymphoma: JCOG0406 STUDY. Cancer Sci. 2018 ; 109 (9) : 2830-40. (3iiiDiii)
9)Hermine O, et al. Addition of high-dose cytarabine to immunochemotherapy before autologous stem-cell transplantation in patients aged 65 years or younger with mantle cell lymphoma (MCL Younger) : a randomised, open-label, phase 3 trial of the European Mantle Cell Lymphoma Network. Lancet. 2016 ; 388 (10044) : 565-75. (1iiDiii)
10)Chen RW, et al. RB but not R-HCVAD is a feasible induction regimen prior to auto-HCT in frontline MCL : results of SWOG Study S1106. Br J Haematol. 2017 ; 176 (5) : 759-69. (1iiDiii)
CQ6 初回治療が奏効した比較的若年者(65歳以下)のMCLには,地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を実施すべきか
- 推奨グレード
- カテゴリー2A
初回治療奏効後の自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は無増悪生存期間を延長するので,地固め療法として実施することが推奨される。また,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法後のリツキシマブ維持療法はPFS期間,OS期間を改善し,推奨される。
解説
リツキシマブ(R)導入以前のM.D. Anderson Cancer Center(MDACC)での第Ⅱ相試験では,hyper-CVAD/MA療法(CPA,VCR,DXR,DEX /高用量MTX,高用量AraC)の奏効例に造血幹細胞移植(55歳以下は同種,56~65歳は自家)療法を追加することで,CHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)と比べ無イベント生存(EFS)割合,全生存(OS)割合が有意に優れることが示された1)。また,European MCL Networkでの寛解導入治療奏効例に対する地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)とインターフェロンα維持療法とを比較した第Ⅲ相試験では,無増悪生存(PFS)期間中央値はHDC/AHSCT群が有意に延長した(3年OS割合は有意差なし)2)。一方,R-hyper-CVAD/MA療法単独では65歳以下でもPFS曲線は平坦化していない3)。MCLは高率に骨髄,末梢血に浸潤を認めるが,CQ5の解説のようにRと高用量シタラビンとの併用はin vivo purging効果に優れ4),腫瘍細胞の混入が少ない良質な造血幹細胞の採取が可能である。MDACCの解析ではHDC/AHSCTによりPFS期間が改善し,PFS曲線が平坦化するのは第一奏効期での実施に限られており5),65歳以下の初発進行期では寛解導入治療の第一奏効期にHDC/AHSCTを実施することが推奨される。なお,the Lymphoma Study Association(LYSA)groupの第Ⅲ相試験の結果,HDC/AHSCT後においてもR維持療法はPFS期間,OS期間を有意に改善することが示され,推奨される6)。
参考文献
1)Khouri IF, et al. Hyper-CVAD and high dose methotrexate/cytarabine followed by stem-cell transplantation : an active regimen for aggressive mantle-cell lymphoma. J Clin Oncol. 1998 ; 16 (12) : 3803-9. (3iiiDi)
2)Dreylihg M, et al. Early consolidation by myeloablative radiochemotherapy followed by autologous stem cell transplantation in first remission significantly prolongs progression-free survival in mantle-cell lymphoma : results of a prospective randomized trial of the European MCL Network. Blood. 2005 ; 105 (7) : 2677-84. (1iDiii)
3)Romaguera JE, et al. High rate of durable remissions after treatment of newly diagnosed aggressive mantle-cell lymphoma with rituximab plus hyper-CVAD alternating with rituximab pulse high-dose methotrexate and cytarabine. J Clin Oncol. 2005 ; 23 (28) : 7013-23. (3iiDiv)
4)Magni M, et al. Successful in vivo purging of CD34-containing peripheral blood harvests in mantle cell and indolent lymphoma ; evidence for a role of both chemotherapy and rituximab infusion. Blood. 2000 ; 96 (3) : 864-69. (3iiiDiv)
5)Tam CS, et al. Mature results of the M. D. Anderson Cancer Center risk-adapted transplantation strategy in mantle-cell lymphoma. Blood. 2009 ; 113 (18) : 4144-52. (3iiiA)
6)Le Gouill S, et al. Rituximab after autologous stem-cell transplantation in mantle-celll lymphoma. N Engl J Med. 2017 ; 377 : 1250-60. (1iiDi)
CQ7 66歳以上,あるいは65歳以下でも強力な化学療法の適応とならない初発進行期MCLに対する標準治療は何か
- 推奨グレード
- カテゴリー2A
自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を含む強力な化学療法の適応がない場合は,R-CHOP(またはその類似療法),VR-CAP,BR療法が推奨される。また,R-CHOP療法の奏効例にはリツキシマブ維持療法が全生存割合を改善し,推奨される。
解説
初発進行期MCLにおけるCHOP療法(CPA,DXR,VCR,PSL)とCVP療法(CPA,VCR,PSL)との比較試験では,完全奏効(CR)割合,全奏効割合(ORR),全生存(OS)期間中央値,無再発期間中央値には有意差はない1, 2)が,ドキソルビシン(DXR)を含む治療は有意にCR割合が高く,IPIでのlowおよびlow-intermediate risk群に限ればOS割合,無病生存割合は有意に優れるとの報告3)があり,DXRは予後良好群には有用と考えられる。CHOPおよびその類似療法はリツキシマブ(R)併用により分子生物学的奏効割合,ORRは改善する4, 5)が,長期の無増悪生存(PFS)割合やOS割合の改善は必ずしも十分ではない。しかし,66歳以上の高齢者に対するR-hyper-CVAD/MA療法(R,CPA,VCR,DXR,DEX /R,高用量MTX,高用量AraC)は,有害事象の頻度が高く奏効期間も若年者とくらべ不良であることから推奨されない6)。R-CHOP療法は初期治療効果に優れ,66歳以上または自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が非適応の初発例において,R-FC療法(R,Flu,CPA)との第Ⅲ相試験でもOS割合が有意に優れた。また,サブグループ解析では,R-CHOP療法に続くR維持療法はOS割合,無イベント生存割合を有意に改善した7)。近年,初発進行例に対するR-CHOP療法との第Ⅲ相試験において,ボルテゾミブ(BOR)を含むVR-CAP療法(BOR,R,CPA,DXR,PSL)はPFS期間が有意に優れることが示された8)。また,当初はOS期間には有意差はなかったが,最終解析ではOS期間も有意に優れた9)。同様にベンダムスチンとRとの併用療法(BR;ベンダムスチン,R)はR-CHOP療法との非劣性試験のサブグループ解析ではOS期間,PFS期間がともに有意に優れることが報告され10),MCLの初回治療としてBOR,ベンダムスチンが新たに承認された。高用量シタラビンを含む治療強度を高めた化学療法の適応がない場合は,R-CHOPまたはその類似療法と奏効例にはR維持療法,あるいはVR-CAP療法,BR療法が推奨される(VR-CAP療法,BR療法後のR維持療法はエビデンスがない)。
参考文献
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9)Robak T, et al. Frontline bortezomib, rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, and prednisone (VR-CAP) versus rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisone (R-CHOP) in transplantation-ineligible patients with newly diagnosed mantle cell lymphoma: final overall survival results of a randomised, open-label, phase 3 study. Lancet Oncol. 2018 ; 19 (11) : 1449-58. (1iiA)
10)Rummel MJ, et al. Bendamustine plus rituximab versus CHOP plus rituximab as first-line treatment for patients with indolent and mantle-cell lymphomas : an open-label, multicenter, randomized, phase 3 non-inferiority trial. Lancet. 2013 ; 381 (9873) : 1203-10. (1iiDiii)
CQ8 再発・治療抵抗MCLに推奨される治療は何か
- 推奨グレード
- カテゴリー2B
再発・治療抵抗MCLに対し下記の治療法は高い奏効割合が報告されており,いずれも救援療法として推奨される。
・ベンダムスチン,ボルテゾミブ,フルダラビン,イブルチニブ,クラドリビンの各単独療法
・上記抗腫瘍薬とリツキシマブまたは他の抗腫瘍薬との併用療法
・放射免疫療法薬(90Yイブリツモマブ チウキセタン)単独療法
解説
再発・治療抵抗MCLの標準治療は確立していないが,ベンダムスチン,ボルテゾミブ(BOR),フルダラビン(Flu),クラドリビン1),およびイブルチニブは単独または他の抗腫瘍薬,特にリツキシマブ(R)との併用で高い全奏効割合(ORR)と比較的良好な治療成功期間(FFS)が得られている。少数例での検討が多いが,BR療法(ベンダムスチン,R)の完全奏効(CR,CRu)割合は59%,ORRは92%で,R既治療例にも有効であった2)。また,R-BAC療法(R,ベンダムスチン,AraC)は70%のCR割合を含む80%のORRと,70%の2年無増悪生存(PFS)割合が得られている3)。ボルテゾミブは単独療法で33%のORRが報告されている4)。R-FCM療法(R,Flu,CPA,MIT)はFCM療法に比べORRは58%(vs 46%)で,PFS期間には有意差はなかったが,全生存期間(OS)は有意に延長した5)。BR療法とRF療法(R,Flu)療法とを比較した第Ⅲ相試験では,BR療法はRF療法に比べPFSが有意に優れた6)。イブルチニブは単独でORR 68%,FFS期間中央値17.5カ月,18カ月生存割合58%が得られ,BORでの既治療例にも良好なOS期間,PFS期間が得られており7),また,中枢神経浸潤にも有用との報告がある8)。患者の全身状態や臓器機能,各救援療法の特性,および初回(または前)治療法を検討の上,適切な救援療法を選択すべきである。一部の救援療法奏効例では,R維持療法がFFS期間を有意に延長する可能性がある9)。90Yイブリツモマブ チウキセタンも比較的高いORRが得られるが,PFS期間は比較的短い10)。救援療法奏効例の地固め療法として用いた場合はPFS期間の延長が期待されるが11),わが国では保険適用外である。いずれの抗腫瘍薬も使用に当たっては併用薬や適用上の制約についての確認が望まれる。これらの救援療法が不応の場合は,臨床試験への登録が推奨される。また,研究的治療ではあるが,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法後の再発・治療抵抗例も含め,上記の救援療法が奏効した例には骨髄破壊的または非破壊的処置(RIST)を用いた同種造血幹細胞移植も考慮しうる12, 13)。
参考文献
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