日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版

第Ⅱ章 リンパ腫

Ⅱ リンパ腫

3 リンパ形質細胞性リンパ腫/ワルデンシュトレームマクログロブリン血症
(lymphoplasmacytic lymphoma/ Waldenström’s macroglobulinemia:LPL/WM)

総論

 リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL)は,WHO分類(2017)によれば,小型B細胞リンパ球,形質細胞への分化傾向にあるリンパ球,形質細胞が混在したリンパ系腫瘍と定義され,IgM型M蛋白の有無は問わない1, 2)。ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenström’s macroglobulinemia:WM)は,骨髄浸潤とIgM型M蛋白血症を伴うLPLのサブセットとして定義されている。IgM型M蛋白血症を伴うB細胞リンパ腫はLPL以外にも認められるため,診断上,注意が必要である。
 臨床像としては,IgM蛋白濃度が3g/dL以上になると,高頻度(10~30%の症例)に過粘稠度症候群をきたす。この場合,赤血球凝集に伴って,視力障害(眼底網膜静脈ソーセージ様変化)や脳血管障害を起こしうる。自己免疫疾患の合併や,クリオグロブリン血症,ミエリンに対する抗体活性によるミエリン融解が原因の末梢神経障害,アミロイドーシス,M蛋白が凝固因子・フィブリン・血小板と結合することによる凝固障害・出血症状を合併することがある。正常免疫グロブリンの抑制は多発性骨髄腫とは異なり軽度である。
 IgMが3g/dL未満,骨髄中の腫瘍細胞の割合が10%未満で,かつ,症状のない場合,形質細胞腫瘍に準じて,IgM monoclonal gammopathy of undetermined significance(IgM-MGUS)と呼ぶが,non IgM-MGUSに比べて進展が速く,年に1~5%がLPL/WM,その他のB細胞リンパ腫に進展する3)。WMという視点からみた場合,リンパ節,脾臓,肝臓,末梢血へ高頻度に浸潤・出現する。臨床症状としては肝脾腫(15~20%),リンパ節腫大(15%)を認める。
 約90%の症例でMYD88遺伝子の変異があり,約30%の症例でCXCR4遺伝子の変異がある3)
 臨床経過は一般に緩徐であり,50%生存期間は5年以上である。死因としては,原病の悪化,悪性度の高いリンパ腫への進展,感染,抗腫瘍療法に起因する二次性白血病などが挙げられる。
 予後予測の指標として,International Prognostic Scoring System for WM(IPSSWM)が報告されている2, 4)。「年齢65歳超」「ヘモグロビン値11.5g/dL以下」,「血小板数10万/μL以下」,「β2マイクログロブリン3μg/mL超」,「血清IgM 7,000mg/dL超」が予後不良因子として抽出され,5年生存割合は,スコア0,1が87%,2で68%,3~5で36%であった。その他の予後不良因子として,汎血球減少,低アルブミン血症,末梢神経障害などが挙げられている。
 治療の効果判定については,第6回International Workshop on WMの判定規準が用いられている5)

 

アルゴリズム

 通常の化学療法では治癒は望めない1, 2, 7)。症状のない場合には,未治療で経過観察をおこない,症状がある,または,出現した場合に,治療開始を考慮する(CQ11, 2, 7)。初回,および,再燃・再発時の化学療法としては,①アルキル化剤を中心とした化学療法,②プリンアナログを中心とした化学療法,③抗体療法(リツキシマブ),④多剤併用化学療法(リツキシマブ併用も含む),⑤ボルテゾミブ,⑥サリドマイド・レナリドミド(未承認)が挙げられる(CQ2, CQ31, 2, 7)。大量化学療法/造血幹細胞移植は,若年のハイリスク患者や再発・再燃時の治療選択の一つとなり得るが,適応,実施時期,方法については未確立である(CQ31, 2)

参考文献

1)Vijay A, et al. Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2007 ; 109 (12) : 5096-103. (レビュー)
2)Dimopoulos MA, et al. Update on treatment recommendations from the Fourth International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. J Clin Oncol. 2009 ; 27 (1) : 120-6. (レビュー)
3)Swerdlow SH, et al. Lymphoplasmacytic Lymphoma. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tu-mours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, Lyon, IARC ; 2017 : pp232-5. (テキストブック)
4)Morel P, et al. International prognostic scoring system for Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2009 ; 113 (18) : 4163-70. (3iiiA)
5)Owen RG, et al. Response assessment in Waldenström macroglobulinaemia: update from the VIth International Workshop. Br J Haematol. 2013 ; 160 (2) : 171-6. (レビュー)
6)Treon SP, et al. Update on treatment recommendations from the Third International Workshop on Waldenstrom’s macroglobulinemia. Blood. 2006 ; 107 (9) : 3442-6. (レビュー)
7)Treon SP. How I treat Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2009 ; 114 (12) : 2375-85. (レビュー)

 

CQ1 原発性マクログロブリン血症の治療はどの時点で開始するのが適切か

推奨グレード
カテゴリー2A

疾患関連の症状,合併症が出現した時点で治療を開始することが推奨される。

解説

 原発性マクログロブリン血症の治療は,疾患に関連した症状が認められた時に開始を考慮する1)。具体的な症状としては,持続する発熱,盗汗,体重減少,倦怠感であり,リンパ節腫大や脾腫の出現やヘモグロビン値<10g/dLや血小板<10万/μLも開始を考慮する規準となる。また,過粘稠度症候群,末梢神経障害,アミロイドーシス,腎障害,クリオグロブリン血症などの合併症が出現した場合である。すなわち,治療開始はIgM値のみに基づいて決定されるものではない1, 2)。IgM値と臨床症状とは関連しない場合があるからである。もし,IgM値が臨床所見・症状と関連するようであれば治療開始の参考になり得る。

参考文献

1)Kyle RA, et al. Prognostic markers and criteria to initiate therapy in Waldenstrom’s macroglobulinemia : consensus panel recommendations from the Second International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. Semin Oncol. 2003 ; 30 (2) : 116-20. (レビュー)
2)Leblond V, et al. Treatment recommendations from the Eighth International Workshop on Waldenström’s macroglobulinemia. Blood. 2016 ; 128 (10) : 1321-8. (レビュー)

 

CQ2 原発性マクログロブリン血症の初回治療として何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

原発性マクログロブリン血症の初回治療としては,過粘稠度症候群を認める場合には血漿交換を実施し,化学療法としては,アルキル化薬,プロテアソーム阻害薬,プリンアナログ,抗体薬(リツキシマブ)の単剤,または併用での実施が推奨される。

解説

 過粘稠度症候群を認める場合には,まずは,血漿交換の実施を考慮する。
 原発性マクログロブリン血症に対する大規模な比較試験は乏しい。以下の薬剤の単剤または併用での報告があり使用が推奨される1)。
 単剤療法:
抗体薬:リツキシマブ(R)
 併用療法:
R+ステロイド+アルキル化剤:DRC[(デキサメタゾン(DEX),R,シクロホスファミド(CPA)]
R+ベンダムスチン(BR療法)
R+ボルテゾミブ(BOR)
R+プリンアナログ[フルダラビン(FLU)]
 どのレジメンを選択するかは,血球減少の有無(血球減少がある場合はDRC,R+ベンダムスチン),IgM量の多寡(多量のM蛋白がある場合はR+ベンダムスチンまたはボルテゾミブ),年齢および合併症の有無(高齢者とくに合併症ある場合:R単剤)を考慮して決定される1)
 Rの使用に際して,IgMが一時的に増加することがあるため,過粘稠度症候群を認める場合やIgM≧4,000mg/dLの場合には,治療前に血漿交換が推奨される1, 2)
 経口剤の単剤のFLUとchrolambucil(本邦未承認)との比較試験が初発例に対して行われ3),プライマリーエンドポイントの奏効割合だけではなく無増悪生存割合(PFS),全生存割合(OS)でもFLUが優れていた。しかし,将来的に自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が考慮される場合には,造血幹細胞への毒性により自家末梢血幹細胞採取効率への悪影響が懸念される。さらに次治療の際に持ち込まれやすい遷延性の骨髄毒性,二次癌の発症もあることに留意する4)
 ベンダムスチン5)は単剤での効果が確認されており,比較試験での結果を待たず,有害事象が重ならないRとの併用療法が行われている。BORは単剤で有効であり同様にRとの併用療法が行われる国も多い6)。DRC療法は長期に使用された例がある7)

参考文献

1)Leblond V, et al. Treatment recommendations from the Eighth International Workshop on Waldenström’s macroglobulinemia. Blood. 2016 ; 128 (10) : 1321-8. (レビュー)
2)Treon SP, et al. Paradoxical increases in serum IgM and viscosity levels following rituximab in Waldenstrom’s macroglobulinemia. Ann Oncol. 2004 ; 15 (10) : 1481-3. (3iiiC)
3)Leblond V, et al. Results of a randomized trial of chlorambucil versus fludarabine for patients with untreated Waldenström macroglobulinemia, marginal zone lymphoma, or lymphoplasmacytic lymphoma. J Clin Oncol. 2013 ; 31 (3) : 301-7. (1iiDiv)
4)Kapoor P, et al. Diagnosis and Management of Waldenström Macroglobulinemia : Mayo Stratification of Macroglobulinemia and Risk-Adapted Therapy (mSMART)Guidelines 2016. JAMA Oncol. 2017 ; 3 (9) : 1257-65.
5)Treon SP, et al. Bendamustine therapy in patients with relapsed or refractory Waldenström’s macroglobulinemia. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2011 ; 11 (1) : 133-5. (3iiiDiii)
6)Treon SP, et al. Multicenter clinical trial of bortezomib in relapsed/refractory Waldenstrom’s macroglobulinemia : results of WMCTG Trial 03-248. Clin Cancer Res. 2007 ; 13 (11) : 3320-5. (3iiDiv)
7)Dimopoulos MA, et al. Primary treatment of Waldenström macroglobulinemia with dexamethasone, rituximab, and cyclophosphamide. J Clin Oncol. 2007 ; 25 (22) : 3344-9. (3iiiDiii)

 

CQ3 原発性マクログロブリン血症の再燃・再発時の救援治療として何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

初回治療後に再燃・再発した場合の救援療法として,アルキル化薬,プロテアソーム阻害薬,プリンアナログ,抗体薬の単剤,または併用,あるいは新規薬剤や大量化学療法/造血幹細胞移植の実施が推奨される。

解説

 初回治療後に再燃・再発した場合の救援療法は,初回治療に対する反応の程度と奏効期間,忍容性,年齢や合併症など患者の身体状況,大量化学療法/造血幹細胞移植への適否,等を考慮して決定される1)。疾患関連の症状,合併症が出現した時点で治療を開始する。
 初回治療が奏効し,無治療期間が比較的長く続いた場合(24カ月以上)には,初回治療と同一の治療の再実施を考慮する。奏効期間が短い場合や抵抗性の場合は,初回治療とは異なる薬剤の単剤または併用治療が推奨される1)
 初回治療で推奨されている治療法以外では,ボルテゾミブ(BOR),サリドマイド(THAL)2),レナリドミド(LEN)3),ベンダムスチン4),イブルチニブ5)の有効性が報告されているが1),本邦ではボルテゾミブ,ベンダムスチン以外は保険適用外である。各治療法の優劣を比較した臨床試験や大規模な比較試験はない。
 若年者に対して,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法や同種造血幹細胞移植の有効性を示す報告もあるが6, 7),適応や有効性に関するエビデンスに乏しく,適応,実施時期,方法については未確立である。したがって,臨床試験として実施するのが望ましい。自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法が考慮される場合には,プリンアナログの使用は避ける8)

参考文献

1)Leblond V, et al. Treatment recommendations from the Eighth International Workshop on Waldenström’s macroglobulinemia. Blood. 2016 ; 128 (10) : 1321-8. (レビュー)
2)Dimopoulos MA, et al. Treatment of Waldenstrom’s macroglobulinemia with thalidomide. J Clin Oncol. 2001 ; 19 (16) : 3596-601. (3iiiDiii)
3)Treon SP, et al. Lenalidomide and rituximab in Waldenstrom’s macroglobulinemia. Clin Cancer Res. 2009 ; 15 (1) : 355-60. (3iiiDiv)
4) Treon SP, et al. Bendamustine therapy in patients with relapsed or refractory Waldenström’s macroglobulinemia. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2011 ; 11 (1) : 133-5. (3iiiDiii)
5)Treon SP, et al. Ibrutinib in previously treated Waldenstrom’s macroglobulinemia. N Engl J Med. 2015 ; 372 (15) : 1430-40. (3iiiDiv)
6)Kyriakou C, et al. High-dose therapy and autologous stem-cell transplantation in Waldenstrom macroglobulinemia : the Lymphoma Working Party of the European Group for Blood and Marrow Transplanta-tion. J Clin Oncol. 2010 ; 28 (13) : 2227-32. (3iiiA)
7)Kyriakou C, et al. Allogeneic stem-cell transplantation in patients with Waldenstrom macroglobulinemia : report from the Lymphoma Working Party of the European Group for Blood and Marrow Transplantation. J Clin Oncol. 2010 ; 28 (33) : 4926-34. (3iiiA)
8)Kyle RA, et al. Prognostic markers and criteria to initiate therapy in Waldenstrom’s macroglobulinemia : consensus panel recommendations from the Second International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. Semin Oncol. 2003 ; 30 (2) : 116-20. (レビュー)

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