造血器腫瘍診療ガイドライン

Ⅱ章 リンパ腫

Ⅱ リンパ腫

3 リンパ形質細胞性リンパ腫/ ワルデンストレームマクログロブリン血症
(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL/Waldenström's macroglobulinemia:WM)
総論1)2)

 リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL)は,WHO 分類(2008)によれば,小型B 細胞リンパ球,形質細胞への分化傾向にあるリンパ球,形質細胞が混在したリンパ系腫瘍と定義され,IgM 型M 蛋白の有無は問わない。一方,IgM 型M 蛋白血症を呈するワルデンストレームマクログロブリン血症(Waldenström’s macroglobulinemia:WM)は,骨髄浸潤とIgM 型M 蛋白血症を伴うLPL のサブセットとして定義されている。IgM 型M 蛋白血症を伴うB 細胞リンパ腫はLPL 以外にも認められるため,診断上,注意が必要である。
 臨床像としては,IgM 蛋白血症が3g/dL 以上になると,高頻度(10~30%の症例)に過粘稠症候群をきたす。この場合,赤血球凝集に伴って,視力障害(眼底網膜静脈ソーセージ様変化)や脳血管障害を起こし得る。自己免疫疾患の合併や,クリオグロブリン血症,ミエリンに対する抗体活性によるミエリン融解による末梢神経障害,アミロイドーシス,M 蛋白が凝固因子,フィブリン,血小板と結合することによる凝固障害・出血症状を合併することがある。多発性骨髄腫とは異なり,正常免疫グロブリンの抑制は軽度である。
 IgM が3 g/dL 未満,骨髄中の腫瘍細胞の割合が10%未満で,かつ,症状のない場合,形質細胞腫瘍に準じて,IgM monoclonal gammopathy of undetermined signifi cance(MGUS)と呼ぶが,形質細胞腫瘍のMGUS に比べて進展が速く,年に1~5%がLPL/WM に進展する。
 LPL/WM は,リンパ節,脾臓,肝臓,末梢血へ高頻度に浸潤・出現する。
 臨床経過は一般に緩徐であり,生存期間中央値は5 年以上である。死因としては,原病の悪化,悪性度の高いリンパ腫への進展,感染,抗腫瘍療法に起因する二次性白血病などが挙げられる。
 予後予測の指標として,international prognostic scoring system for WM(IPSSWM)が報告されている2)3)。「年齢65 歳超」,「ヘモグロビン値11.5 g/dL 以下」,「血小板数10 万/μL 以下」,「β2ミクログロブリン3μg/mL 以上」,「血清IgM 7,000 mg/dL 以上」が予後不良因子として抽出され,5 年生存割合は,スコア0, 1 が87%,2 で68%,3~5 で36%であった。その他の予後不良因子として,汎血球減少,低アルブミン血症,末梢神経障害などが挙げられている。
 治療の効果判定については,International Workshop(2006)の判定規準が用いられている4)5)


[参考文献]

1) Vijay A, et al. Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2007 ; 109(12) : 5096-103.(レビュー)
2) Dimopoulos MA, et al. Update on treatment recommendations from the Fourth International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. J Clin Oncol. 2009 ; 27(1) : 120-6.(レビュー)
3) Morel P, et al. International prognostic scoring system for Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2009 ;113( 18) : 4163-70.(3iiiA)
4) Kimby E, et al. Update on recommendations for assessing response from the Third International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. Clin Lymphoma Myeloma. 2006 ; 6( 5) : 380-3.(レビュー)
5) Treon SP, et al. Update on treatment recommendations from the Third International Workshop on Waldenstrom’s macroglobulinemia. Blood. 2006 ; 107( 9) : 3442-6.( レビュー)


アルゴリズム

 通常の化学療法では治癒は望めない1)~3)。症状のない場合には,未治療で経過観察を行い,症状がある場合には,治療開始を考慮する(CQ11)~3)。初回,および,再燃・再発時の化学療法としては,①アルキル化剤を中心とした化学療法,②プリンアナログを中心とした化学療法,③抗体療法(リツキシマブ),④多剤併用化学療法(リツキシマブ併用も含む),⑤ボルテゾミブ(国内未承認),⑥サリドマイド・レナリドミド(国内未承認)が挙げられる(CQ2, CQ31)~3)。大量化学療法/造血幹細胞移植は,若年のハイリスク患者や再発・再燃時の治療選択の一つとなり得るが,適応,実施時期,方法については未確立である(CQ31)2)


[参考文献]

1) Vijay A, et al. Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2007 ; 109(12) : 5096-103.(レビュー)
2) Dimopoulos MA, et al. Update on treatment recommendations from the Fourth International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. J Clin Oncol. 2009 ; 27(1) : 120-6.(レビュー)
3) Treon SP. How I treat Waldenstrom macroglobulinemia. Blood. 2009 ; 114( 12) : 2375-85.(レビュー)


CQ 1原発性マクログロブリン血症の治療はどの時点で開始するのが適切か
推奨グレード
カテゴリー2A

疾患関連の症状,合併症が出現した時点で治療を開始することが推奨される。

[解 説]

 原発性マクログロブリン血症の治療は,疾患に関連した症状が認められた時に開始を考慮する1)。具体的な症状としては,持続する発熱,盗汗,体重減少,貧血による倦怠感であり,リンパ節腫大や脾腫の出現やヘモグロビン値<10 g/dL や血小板<10 万/μL も開始を考慮する規準となる。また,過粘稠症候群,末梢神経障害,アミロイドーシス,腎障害,クリオグロブリン血症などの合併症が出現した場合である。また,治療開始はIgM 値のみに基づいて決定されるものではない1)。IgM 値と臨床症状とは関連しない場合があるからである。逆にIgM 値が臨床所見・症状と関連するようであれば参考になり得る。


[参考文献]

1) Kyle RA, et al. Prognostic markers and criteria to initiate therapy in Waldenstrom’s macroglobulinemia : consensus panel recommendations from the Second International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. Semin Oncol. 2003 ; 30( 2) : 116-20.(レビュー)


CQ 2原発性マクログロブリン血症の初回治療として何が勧められるか
推奨グレード
カテゴリー2A

原発性マクログロブリン血症の初回治療としては,過粘稠症候群を認める場合には血漿交換を実施し,化学療法としては,アルキル化薬,プリンアナログ,抗体薬(リツキシマブ)の単剤,または併用での実施が推奨される。

[解 説]

 過粘稠症候群を認める場合には,まずは,血漿交換の実施を考慮する。
 原発性マクログロブリン血症に対する大規模な比較試験は乏しいが,欧米のエキスパートパネルは以下の薬剤の単剤または併用での使用を推奨している1)
アルキル化剤: chlorambucil(国内未承認),シクロホスファミド(CPA),メルファラン(MEL)
プリンアナログ:クラドリビン(2-CdA),フルダラビン(FLU)
抗体薬:リツキシマブ(R)
 薬剤の併用方法は,プリンアナログ+アルキル化剤,R+プリンアナログ,R+プリンアナログ+アルキル化剤,または,R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)などが報告されている。併用での有効性は少なくとも単剤と同等の効果が期待できるが,各治療法の優劣を比較した臨床試験や大規模な比較試験はない。
 R の使用に際して,過粘稠症候群が悪化することがあるため,過粘稠症候群を認める場合やIgM≧5,000 mg/dL の場合には,治療前に血漿交換が推奨されている2)
 将来的に自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が考慮される場合には,造血幹細胞への毒性により自家末梢血幹細胞採取効率への悪影響が懸念されるプリンアナログやchlorambucil の使用は避ける。
 ボルテゾミブ(BOR),サリドマイド(THAL),レナリドミド(LEN),ベンダムスチンも有効性が報告され,海外では使用可能だが,本邦ではベンダムスチン以外は保険適用外である。


[参考文献]

1) Dimopoulos MA, et al. Update on treatment recommendations from the Fourth International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. J Clin Oncol. 2009 ; 27( 1) : 120-6.(レビュー)
2) Treon SP, et al. Paradoxical increases in serum IgM and viscosity levels following rituximab in Waldenstrom’s macroglobulinemia. Ann Oncol. 2004 ; 15( 10) : 1481-3.(3iiiC)


CQ 3原発性マクログロブリン血症の再燃・再発時の救援治療として何が勧められるか
推奨グレード
カテゴリー2A

初回治療後に再燃・再発した場合の救援療法として,アルキル化薬,プリンアナログ,抗体薬の単剤,または併用,あるいは新規薬剤や大量化学療法/ 造血幹細胞移植の実施が推奨される。

[解 説]

 初回治療後に再燃・再発した場合の救援療法は,初回治療に対する反応の程度と奏効期間,忍容性,年齢や合併症など患者の身体状況,大量化学療法/造血幹細胞移植への適応,等を考慮して決定される1)
 初回治療が奏効し,無治療期間が比較的長く続いた場合(12 カ月以上)には,初回治療の再実施を考慮する。奏効期間が短い場合や抵抗性の場合は,初回治療とは異なるカテゴリーの単剤または併用治療が推奨される1)
 単剤による救援療法としては,アルキル化剤[chlorambucil(国内未承認)2)],プリンアナログ[クラドリビン(2-CdA)3),フルダラビン(FLU)4)],抗体薬[リツキシマブ(R)5),alemtuzumab(国内未承認)1)]が報告されており,併用療法として,プリンアナログ+アルキル化剤6),R+プリンアナログ,R +プリンアナログ+アルキル化剤,または,R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR,PSL)などが報告されている1)。近年では,ボルテゾミブ(BOR)7)8),サリドマイド(THAL),レナリドミド(LEN),ベンダムスチンの有効性が報告されているが1),本邦ではベンダムスチン以外は保険適用外である。各治療法の優劣を比較した臨床試験や大規模な比較試験はない。
 若年者に対して,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法や同種造血幹細胞移植の有効性を示す報告もあるが9)10),適応や有効性に関するエビデンスに乏しく,適応,実施時期,方法については未確立である。したがって,臨床試験として実施するのが望ましい。自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法が考慮される場合には,プリンアナログやchlorambucil の使用は避ける1)


[参考文献]

1) Dimopoulos MA, et al. Update on treatment recommendations from the Fourth International Workshop on Waldenstrom’s Macroglobulinemia. J Clin Oncol. 2009 ; 27( 1) : 120-6.(レビュー)
2) Kyle RA, et al. Waldenstrom’s macroglobulinaemia : a prospective study comparing daily with intermittent oral chlorambucil. Br J Haematol. 2000 ; 108( 4) : 737-42.(1iiDiv)
3) Weber DM, et al. 2-Chlorodeoxyadenosine alone and in combination for previously untreated Waldenstrom’s macroglobulinemia. Semin Oncol. 2003 ; 30( 2) : 243-7.(3iiiDiv)
4) Dhodapkar MV, et al. Prognostic factors and response to fl udarabine therapy in Waldenstrom’s macroglobulinemia an update of a US intergroup trial (SWOG S9003). Semin Oncol. 2003 ; 30 (2) : 220-5. (3iiA)
5) Gertz MA, et al. Multicenter phase 2 trial of rituximab for Waldenstrom macroglobulinemia (WM) : an Eastern Cooperative Oncology Group Study (E3A98). Leuk Lymphoma. 2004 ; 45 (10) : 2047-55. (3iiiDiv)
6) Leblond V, et al. Multicenter, randomized comparative trial of fl udarabine and the combination of cyclophosphamide- doxorubicin-prednisone in 92 patients with Waldenstrom macroglobulinemia in fi rst relapse or with primary refractory disease. Blood. 2001 ; 98( 9) : 2640-4.(1iiDiv)
7) Chen CI, et al. Bortezomib is active in patients with untreated or relapsed Waldenstrom’s macroglobulinemia : a phase Ⅱ study of the National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. J Clin Oncol. 2007 ; 25(12) : 1570-5.(3iiDiv)
8) Treon SP, et al. Multicenter clinical trial of bortezomib in relapsed/refractory Waldenstrom’s macroglobulinemia : results of WMCTG Trial 03-248. Clin Cancer Res. 2007 ; 13(11) : 3320-5.(3iiDiv)
9) Kyriakou C, et al. High-dose therapy and autologous stem-cell transplantation in Waldenstrom macroglobulinemia : the Lymphoma Working Party of the European Group for Blood and Marrow Transplantation. J Clin Oncol. 2010 ; 28(13) : 2227-32.(3iiiA)
10) Kyriakou C, et al. Allogeneic stem-cell transplantation in patients with Waldenstrom macroglobulinemia : report from the Lymphoma Working Party of the European Group for Blood and Marrow Transplantation. J Clin Oncol. 2010 ; 28(33) : 4926-34.(3iiiA)