日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版

第Ⅰ章 白血病

Ⅰ 白血病

6 骨髄異形成症候群
(myelodysplastic syndromes:MDS)

総論

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)は造血細胞の異常な増殖とアポトーシスによって特徴付けられる腫瘍性の疾患で,未熟な造血細胞に生じた異常が原因であると考えられている1, 2)。1982年のFrench-American-British(FAB)分類3)によって疾患概念が明らかとなり,現在はWHO分類(2001)4)とWHO分類(2008)5),さらに2017年に示されたその改訂版6)を用いて取り扱われている。しかし,FAB分類による取り扱いも併用されているのが現状である。単一あるいは複数系統の血球減少,形態学的異形成,骨髄における無効造血,急性白血病転化のリスクを特徴としているが,単一疾患ではなく複数の疾患からなる症候群の集まり(Syndromes)と捉えられている。したがって,現在の病型分類のみでは臨床的な対応を決定するには十分ではないと考えられる。MDSの半数以上に染色体異常があり,未分化な造血細胞に生じた遺伝子異常が発症に関与すると考えられている。さらに,染色体検査レベルでは確認できない新たな遺伝子異常が次々に同定され主要な遺伝子異常はほぼ同定されていると考えられているが7),その意義については今後の検討が必要である。
 一般に診断はWHO分類(2017)に基づき,血球減少,末梢血と骨髄の芽球割合,造血細胞の異形成,染色体異常によってなされ,一部ではFAB分類による診断も参考とされている。MDSは種々の血液疾患と境界を接しており,経過観察や他疾患の除外とともに,現在も診断の重要な部分は形態学的な判断に負うところが大きい1, 2)。確定診断が得られた後は,診断に用いられた血液所見,骨髄所見,染色体異常などによって予後予測が行われ,治療方針が決定されていく。予後は,血球減少に関連した事象(感染症,出血など)と白血病化によって大きく決定されるが,本疾患は高齢者に多いことより,合併症など患者背景も予後に大きな影響を持っている。
 現在でも根治療法は同種造血幹細胞移植のみであるが,患者集団の年齢などから同種移植の恩恵にあずかる症例は一部に限られている。一方,最近,MDSに対する新薬が開発され治療にも新たな展開がみられている。

参考文献

1)小澤敬也編集 特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド 平成22年度改訂版
2)荒井俊也,黒川峰男編集 特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド 平成28年度改訂版
3)Bennett JM, et al. Proposals for the classification of the myelodysplastic syndromes. Br J Haematol. 1982 ; 51(2): 189-99.
4)Jaffe WS, et al, eds. World Health Organization Classification of Tumours. Pathology and genetics, Tumor of Haematopoietic and lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2001.(テキストブック)
5)Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008.(テキストブック)
6)Hasserjian RP, et al. Myelodysplastic syndromes. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, Lyon, IARC ; 2017 : pp98-106.(テキストブック)
7)Haferlach T, et al. Landscape of genetic lesions in 944 patients with myelodysplastic syndromes. Leukemia. 2014 ; 28(2): 241-7.

 

アルゴリズム

 MDSは多様な病態を有する疾患の集合体であり,治療方針を決定する上では診断と病型分類のみでは不十分である。そのため,主に臨床的な因子を用いて予後予測がなされる(CQ1)。複数の予後予測スコアリングシステムが提唱されており,それぞれに特徴がみられるが,臨床的な対応は低リスクと高リスクに分けて考慮されることが多い。頻用されるのはInternational Prognostic Scoring System(IPSS)におけるLow, Intermediate(Int)-1を低リスク,Int-2, Highを高リスクとするもの,およびその改訂版であるRevised IPSS(IPSS-R)でVery low, Lowを低リスク,HighとVery highを高リスク,Intermediateは他の因子を加味して考慮するというものである(CQ1)。
 低リスク症例においては血球減少に対する対応,その改善を治療の第一目標とし,高リスク例では白血病転化リスクが高いことより,より積極的な治療方針がとられる。
 血球減少に対しての基本的な支持療法は輸血であるが,赤血球輸血に伴う輸血後鉄過剰症はMDSの予後に関連している可能性がある。そのため,MDSの輸血後鉄過剰症に対しては適切な鉄キレート療法が治療の選択肢として考えられる(CQ2)。低リスク例の血球減少に対しては免疫抑制療法(CQ3,国内保険適用外),サイトカイン療法(CQ4),蛋白同化ステロイド療法(CQ5),また,5番染色体長腕の欠損を伴う5q-症候群でみられる血球減少へのレナリドミド(LEN)(CQ6),一部の低リスク例に対するアザシチジン(AZA)投与(CQ7)などが行われる。それぞれの治療によって一定の血球回復がみられるが,この群についてはこうした治療によって生存期間の延長がみられるのか,明らかなエビデンスはない。
 高リスク症例は予後が悪いため,積極的な対応がなされる。年齢や患者背景,ドナーなどの条件が許せば同種造血幹細胞移植(CQ8)の積極的な適応が考慮される。最近では高齢者例などを中心に前処置を減弱した同種移植も実施される(CQ9)。これまでのところ治癒が得られる治療法は同種造血幹細胞移植のみであるが,移植がなされない例に対してはAZAが選択される(CQ10)。AZAは前方視的試験によって高リスク症例の予後を改善することが示されている。5番染色体長腕の欠損を伴った例ではLENも投与可能である(CQ11)。一部の高リスク例に対しては白血病治療に準じた抗腫瘍薬投与も考慮される(CQ12)。

 

CQ1 MDSの予後予測法,リスク分類として勧められるのは何か

推奨グレード
カテゴリー2A

国際予後予測スコアリングシステム(International Prognostic Scoring System:IPSS)やWHO分類に基づく予後予測スコアリングシステム(WHO Classification-based Prognostic Scoring System:WPSS),IPSSの改訂版である改訂国際予後予測スコアリングシステム(Revised IPSS:IPSS-R)のように複数の因子を組み合わせて予後を予測するスコアリングシステムが勧められる。特に,IPSSは頻用されており,近年IPSS-Rの利用が広がっている。

解説

 MDSは多様な疾患単位の集合体であり,単なる病型分類では十分な予後予測はできないと考えられている。造血細胞の形態的な特徴,特に芽球割合,血球減少の程度や減少している系統数,染色体所見は予後と関連する。そこで,それらをスコア化し,その合計点数でMDSの予後を予測する方法が開発された。IPSSと呼ばれるもので,MDSを骨髄芽球割合,血球減少の系統数,染色体グループという3因子の点数によって4群に層別化するものである1)。FAB分類に基づいて作成されているため,現在のWHO 分類(2017)では急性骨髄性白血病に含まれる芽球20~30%の例も取り扱っている。IPSSはこれまで多数の臨床研究で用いられている(表1, 2)。
 その改訂版であるIPSS-Rは2012年に発表されたが,7,000例以上の症例から作成された予後予測スコアリングで,IPSSと同じ因子を用いるが,染色体核型の分類,芽球割合や血球減少の取扱いが変更されている(表3~5)。これらによってMDSを5群に分類するもので,IPSSと比較して予後予測の精度が上がっている2)
 予後予測因子にWHO分類(2001)と輸血依存性を採用したのがWPSSで,初診時ばかりでなく病期進展時にも適応できるという特徴がある3)。しかし,現在はWHO分類(2017)が既に出ており,WPSSは十分な利用がなされていない。

表1 IPSS予後因子スコア

予後因子 予後因子のスコア
0 0.5 1 1.5 2
骨髄芽球%
核型
血球減少
<5%
良好
0/1系統
5~10%
中間
2/3系統
不良 11~20% 21~30%

〈血球減少基準〉
好中球<1,800/μL
Hb<10 g/dL
血小板減少<10万/μL

〈核型によるリスク〉
良好:正常,20q-,-Y,5q-
中間:良好と不良以外
不良:複雑核型(3個以上),7番異常

表2 IPSSによる予後層別化

予後リスクの評価 スコア合計点数
Low 0点
Intermediate-1(Int-1) 0.5~1点
Intermediate-2(Int-2) 1.5~2点
High 2.5点以上

表3 IPSS-R予後因子スコア

予後因子の配点 0 0.5 1 1.5 2 3 4
核型
表5参照)
Very Good Good Intermediate Poor Very poor
骨髄芽球比率
(%)
≦2 >2~<5 5~10 >10
Hb(g/dL) ≧10 8以上
10未満
<8
血小板数
(×103/μL)
≧100 50~<100 <50
好中球数
(×103/μL)
≧0.8 <0.8

表4 IPSS-Rによる予後層別化

リスク群 点数
Very low ≦1.5
Low >1.5~3
Intermediate >3~4.5
High >4.5~6
Very high >6

表5 IPSS-Rにおける染色体リスク群

予後グループ 染色体核型
Very good -Y,del(11q)
Good 正常,del(5q),del(12p),del(20q),double including del(5q)
Intermediate del(7q),+8,+19,i(17q),any other single or double independent clones
Poor -7
inv(3)/t(3q)/del(3q)
double including -7/del(7q)
complex:3 abnormalities
Very poor Complex:>3 abnormalities
参考文献

1)Greenberg P, et al. International scoring system for evaluating prognosis in myelodysplastic syndromes. Blood. 1997 ; 89(6): 2079-88.(3iiA)
2)Greenberg P, et al. Revised International prognostic scoring system for myelodysplastic syndromes. Blood. 2012 ; 120(12): 2454-65.(3iiA)
3)Malcovati L, et al. Time-dependent prognostic scoring system for predicting survival and leukemic evolution in myelodysplastic syndromes. J Clin Oncol. 2007 ; 25(23): 3503-10.(3iiA)

 

CQ2 輸血による鉄過剰症への鉄キレート剤が適応とされる状態は何か

推奨グレード
カテゴリー2B

一年以上など一定の予後が期待されかつ,定期的な赤血球輸血を必要とするMDSで,輸血による鉄過剰状態に至った場合には鉄キレート療法を実施する。

解説

 一定量の赤血球輸血を受けたMDS患者は鉄過剰状態に陥っており,MDS患者で臓器不全を生じた例や死亡例では鉄過剰状態に陥っている場合が高い1)。組織の過剰鉄は活性酸素種の産生を亢進させることで組織障害を引き起こしていると考えられている。鉄キレート剤を投与することで体内の鉄過剰が改善され2, 3),生存期間の延長に寄与する可能性が指摘されている4)
 鉄過剰症の診断規準や鉄キレート療法の開始規準と適応,実際の治療に関しては,「輸血後鉄過剰症の診療ガイド」として本邦の特発性造血障害に関する調査研究班より診療ガイドが出されている5)。それによると,赤血球輸血依存となった患者(月2単位以上の輸血を6カ月以上継続)のうち1年以上の余命が期待できる例において,総赤血球輸血量が40単位を超え血清フェリチン値が2カ月以上にわたって1,000 ng/mLを超える場合に鉄キレート療法の開始が推奨されている。治療効果は血清フェリチン値でなされ,500~1,000 ng/mLの維持が目標とされている。
 MDS,特に低リスクMDSにおいて輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法が生存延長に寄与するかどうかについては,後方視的研究としてそれを支持する報告がある一方,前方視的なランダム化試験による検証はなされていない6)

参考文献

1)Takatoku M, et al ; Japanese National Research Group on Idiopathic Bone Marrow Failure Syndromes. Retrospective nationwide survey of Japanese patients with transfusion-dependent MDS and aplastic anemia highlights the negative impact of iron overload on morbidity/mortality. Eur J Haematol. 2007 ; 78(6): 487-94.(3iiiDiv)
2)Gattermann N, et al ; EPIC study investigators. Deferasirox in iron-overloaded patients with transfusiondependent myelodysplastic syndromes : Results from the large 1-year EPIC study. Leuk Res. 2010 ; 34(9): 1143-50.(3iiDiv)
3)Greenberg PL, et al. Prospective assessment of effects on iron-overload parameters of deferasirox therapy in patients with myelodysplastic syndromes. Leuk Res. 2010 ; 34(12): 1560-5.(3iiDiv)
4)Rose C, et al ; GFM(Groupe Francophone des Myélodysplasies). Does iron chelation therapy improve survival in regularly transfused lower risk MDS patients? A multicenter study by the GFM(Groupe Francophone des Myélodysplasies). Leuk Res. 2010 ; 34(7): 864-70.(3iiA)
5)研究代表者 小澤敬也 輸血後鉄過剰症の診療ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班 平成20年度(ガイドライン)
6)Shenoy N, et al. Impact of iron overload and potential benefit from iron chelation in low-risk myelodysplastic syndrome. Blood. 2014 ; 124(6): 873-81.(レビュー)

 

CQ3 低リスクMDSの治療において免疫抑制療法は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

MDSの一部の症例に対しては造血の回復に免疫抑制療法が勧められる。特にHLA-DR15,赤血球輸血歴の短い例,若年例での効果が期待される(国内保険適用外)。

解説

 MDS,特に芽球増加のみられない低リスク例の一部において,抗胸腺細胞グロブリン(anti-thymocyte globurin:ATG)によって造血回復がみられる1)。また,シクロスポリンを用いた免疫抑制療法も一定の造血回復効果を示す2)。両者の組み合わせによるランダム化比較試験でも有意な造血回復が得られたが,全生存割合(OS),無輸血生存割合は改善されなかった3)
 造血回復は,多変量解析によるとHLA-DR15,若年例,赤血球輸血歴の短い例でより効果が得られていた4)。国内の解析ではHLA-DRB1*15:01が造血回復と関連していた2)。その他,PNH(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)型赤血球の存在が治療反応性と関連する5)

参考文献

1)Molldrem JJ, et al. Antithymocyte globulin for patients with myelodysplastic syndrome. Br J Haematol. 1997 ; 99(3): 699-705.(3iiDiv)
2)Shimamoto T, et al. Cyclosporin A therapy for patients with myelodysplastic syndrome : multicenter pilot studies in Japan. Leuk Res. 2003 ; 27(9): 783-8.(3iiDiv)
3)Passweg JR, et al. Immunosuppressive therapy for patients with myelodysplastic syndrome : a prospective randomized multicenter phase Ⅲ trial comparing antithymocyte globulin plus cyclosporine with best supportive care--SAKK 33/99. J Clin Oncol. 2011 ; 29(3): 303-9.(1iiDiv)
4)Saunthararajah Y, et al. HLA-DR15 (DR2) is overrepresented in myelodysplastic syndrome and aplastic anemia and predicts a response to immunosuppression in myelodysplastic syndrome. Blood. 2002 ; 100(5): 1570-4.(3iiiDiv)
5)Wang H, et al. Clinical significance of a minor population of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria-type cells in bone marrow failure syndrome. Blood. 2002 ; 100(12): 3897-902.(3iiiDiv)

 

CQ4 低リスクMDSの貧血に対してサイトカイン療法は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

血清エリスロポエチン濃度低値(200または500 mU/mL未満),環状鉄芽球15%未満,赤血球輸血依存のないまたは月2単位程度の輸血を必要とする貧血を有するMDSに対してはエリスロポエチン(40,000~60,000 U週1~3回投与) あるいはダルベポエチン(150~500 μg週1~3回投与)の投与が貧血を改善させる。ダルベポエチンはMDSに伴う貧血に対して保険適用となっている。顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の併用はESA製剤への反応性を上昇させるが,ダルベポエチンの効果増強を目的としたG-CSFの使用は本邦では保険適用となっていない。

解説

 MDSの貧血に対するエリスロポエチン(EPO)投与は,一部の例で貧血を改善する。17の試験における205例のMDSに対するEPO治療の統合解析では33例(16%)に血球減少の改善が得られていた1)。反応性に関する因子の解析で非鉄芽球性貧血例,治療前血清EPO 200 mU/mL未満,輸血必要のない貧血例において有効性が有意に高かった。
 G-CSFとEPOとの併用例ではその効果が39%と高く2),併用療法の第Ⅱ試験の長期観察例を,多変量解析を用いて検定したところ治療例では非治療例と比較して有意に良好な生存を示していた3)。しかし,この治療法の生存に対する効果は前方視的第Ⅲ相比較試験での検証がなされていない。
 持続性のEPO製剤であるダルベポエチン300 μg週一回投与または50 0μgの3週間おき投与にもMDSの赤血球造血促進効果がみられる4, 5)。治療前血清EPO 500 mU/mL未満の例を対象としたダルベポエチン300 μg週1回投与の第Ⅱ相試験では62例中44例(71%)で反応が得られた。この試験でもEPO低値と赤血球輸血非依存が治療反応性の有意な予測因子であった。500 μgの3週間おき投与試験では初回投与例の49%に赤血球造血促進効果がみられた。また,ダルベポエチン150 μg週一回投与試験では全体の有効率は40.5%であり,EPO低値,赤血球輸血月2単位以下,骨髄芽球割合低率,骨髄低形成が反応性予測因子であった6)。日・韓で行われた第Ⅱ相試験は,MDSを対象とするESA製剤の世界初の用量反応試験であった7)。ダルベポエチンの60 μg,120 μgおよび240 μg週一回投与群がランダムに割り付けられたが,輸血量が50%以上減少する効果は,それぞれ64.7%(60 μg群),44.4%(120 μg群),66.7%(240 μg群)(各群間に統計学的有意差なし),全体として58.0%であった。一方,赤血球輸血非依存となり,Hb値が1.0 g/dL以上増加する効果は,17.6%(60 μg群),16.7%(120 μg群),33.3%(240 μg群)であり,240 μg群が有意に高かった。本邦では本試験の結果をもとに,ダルベポエチンはMDSに伴う貧血に対して追加適応を取得し,240 μgが推奨用量となった。また,ドイツのグループからはこれまでに示された知見をもとにIPSS low/int-1,ヘモグロビン10 g/dLかつ治療前EPO 500 mU/mL以下の146例を対象とし,ダルベポエチン500 μg 3週間おき投与による5~24週までの赤血球輸血依存離脱を主要評価項目としたプラセボ対照二重盲検化第Ⅲ相比較試験の結果が報告され,この間に輸血が行われた患者がダルベポエチン投与群で36.1%に対しプラセボ群にて59.2%と有意な改善が報告されている8)。ダルベポエチンは,高リスクMDSには有効性および安全性が評価されていないため,投与しない。血清EPO値が500 mU/mL以上であっても投与することは可能であるが,EPO値が低く,輸血量が少ない例の反応性が良いことを考慮する。本邦の43例を対象とした解析では,血清EPO値はHb値と強い負の相関を示し,低リスクMDSにおいてEPO 500 mU/mLに相当するHb濃度は8.29 g/dLであり,このHb濃度では多くの症例が輸血非依存であった9)。ダルベポエチンの効果増強を目的としたG-CSF の使用は本邦では保険適用外である。
 両薬剤ともに有害事象は軽微である。AMLへの移行を有意に促進するとする報告はない。

参考文献

1)Hellström-Lindberg E. Efficacy of erythropoietin in the myelodysplastic syndromes : a meta-analysis of 205 patients from 17 studies. Br J Haematol. 1995 ; 89(1): 67-71.(3iiiDiv)
2)Hellström-Lindberg E, et al. A validated decision model for treating the anaemia of myelodysplastic syndromes with erythropoietin+granulocyte colony-stimulating factor : significant effects on quality of life. Br J Haematol. 2003 ; 120(6): 1037-46.(3iiiC)
3)Jädersten M, et al. Erythropoietin and granulocyte-colony stimulating factor treatment associated with improved survival in myelodysplastic syndrome. J Clin Oncol. 2008 ; 26(21): 3607-13.(3iiiA)
4)Mannone L, et al. High-dose darbepoetin alpha in the treatment of anaemia of lower risk myelodysplastic syndrome results of a phase Ⅱ Ⅱ study. Br J Haematol. 2006 ; 133(5): 513-9.(3iiiDiv)
5)Gabrilove J, et al. Phase 2, single-arm trial to evaluate the eff ectiveness of darbepoetin alfa for correcting anaemia in patients with myelodysplastic syndromes. Br J Haematol. 2008 ; 142(3): 379-93.(3iiiDiv)
6)Musto P, et al. Darbepoetin alpha for the treatment of anaemia in low-intermediate risk myelodysplastic syndromes. Br J Haematol. 2005 ; 128(2): 204-9.(3iiiDiv)
7)Jang JH, et al. A randomized controlled trial comparing darbepoetin alfa doses in red blood cell transfusion-dependent patients with low- or intermediate-1 risk myelodysplastic syndromes. Int J Hematol. 2015 ; 102(4): 401-12.(1iiDiv)
8)Platzbecker U, et al. A phase 3 randomized placebo-controlled trial of darbepoetin alfa in patients with anemia and lower-risk myelodysplastic syndromes. Leukemia. 2017 ; 31(9): 1944-50.(1iDiv)
9)Suzuki T, et al. Distribution of serum erythropoietin levels in Japanese patients with myelodysplastic syndromes. Int J Hematol. 2015 ; 101(1): 32-6.(3iiiDiv)

 

CQ5 低リスクMDSの貧血に対して蛋白同化ステロイドは勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2B

低リスクMDSの貧血に対する蛋白同化ステロイドの有効性は一部の症例に限られており,ルーチンでの使用は推奨されない。

解説

 1989年にメキシコのグループが報告した,50例のMDSを対象とした二重盲検比較試験において,ダナゾール600 mg/日を投与した23例のうち6例に完全奏効(Hb>12 g/dL,顆粒球数>1,500/μL,血小板数>150,000/μL)が得られたと報告されている1)。その後,フランスのグループからダナゾール600 mg/日を投与したMDS 76例を対象とした後方視的解析の結果が報告されているが,担当医によって有効と判定された9例の患者を含めて有意な血球回復が認められなかったと報告されている2)。米国Mayo Clinicからの46例の芽球増加のないMDSを対象としたダナゾール800 mg/日と13-cis-レチノイン酸の比較試験では,有効例は34例中2例(6%)にすぎなかったと報告されている3)。国内からの報告では,単施設における少数例の後方視的検討ではあるものの,1975年からの14年間に蛋白同化ステロイドの投与を受けた不応性貧血(RA)27例のうち11例(40.7%)に反応がみられたとの報告がある4)

参考文献

1)Avilès A, et al. Randomized study of danazol vs. placebo in myelodysplastic syndromes. Arch Invest Med(Mex). 1989 ; 20(2): 183-8.(1iDiv)
2)Chabannon C, et al. A review of 76 patients with myelodysplastic syndromes treated with danazol. Cancer. 1994 ; 73(12): 3073-80.(3iiiDiv)
3)Letendre L, et al. Myelodysplastic syndrome treatment with danazol and cis-retinoic acid. Am J Hematol. 1995 ; 48(4): 233-6.(3iiiDiv)
4)Kobaba R, et al. Androgen in the treatment of refractory anemia. Int J Hematol. 1991 ; 54(2): 103-7.(3iiiDiv)

 

CQ6 MDSの治療としてレナリドミドは勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

5番染色体長腕の欠失[del(5q)]を伴う低リスクMDSで赤血球輸血依存例に対してはレナリドミドが赤血球造血促進効果を示し,レナリドミドによる治療が推奨される。10 mg/日の21日間投与を28日サイクルで実施する。

推奨グレード
カテゴリー2B

del(5q)を伴わない赤血球輸血依存低リスク MDSに対しては,赤血球輸血非依存が達成される例がみられるが,現時点では第一選択薬としては推奨されない(国内保険適用外)。

解説

 レナリドミド(LEN)はサリドマイド(THAL)の誘導体で,免疫調節をはじめとして生体に対して多彩な効果を発揮する。5番染色体長腕の欠失を伴うMDSで赤血球輸血依存例を対象とした第Ⅱ試験1),第Ⅲ相試験2)において赤血球輸血量の減少効果が明らかに認められている。また,国内でも少数例ながら第Ⅱ相試験が実施された3)
 米国を中心とした第Ⅱ相試験においては148例が登録され,赤血球系改善が67%にみられ,さらに45例で細胞遺伝学的寛解(CyR)が得られた1)
 LEN 10 mg/日,5 mg/日,プラセボによる二重盲検試験では26週を超える輸血非依存達成はそれぞれ56.1%,42.6%,5.9%であり,有意にLEN治療が優っていた(p<0.001)。細胞遺伝学的反応性もLEN 10 mg/日,5 mg/日群でそれぞれ50%,25%に観察された。白血病への移行は3群間で差はなかった1)。有害事象も重篤なものはなかった。本試験では16週での試験治療群クロスオーバーが一部で認められていたが,全生存割合(OS)では3群間に有意差を認めなかった。
 国内の試験では低リスク11例が登録され,赤血球系改善は全例に,CyRは3例にみられた3)
 del(5q)を伴わない輸血依存低リスク MDSに対しては米国で第Ⅱ相試験が実施され,LEN 10 mg/日,21日投与(28日サイクル)の効果が検証された。赤血球輸血非依存達成率は26%で,これらの症例におけるヘモグロビン上昇中央値は3.2 g/dL,その持続期間の中央値は41週であった4)。この結果をもとに米国において第Ⅲ相試験が実施され,赤血球輸血非依存達成率は26.9%,その持続期間の中央値が 8.2カ月と同様の結果が報告されている5)。この結果からLENがdel(5q)を伴わないMDSに対して一定の有効性を示すことが期待されるが,国内では試験が実施されていない(国内保険適用外)。

参考文献

1)List A, et al. Lenalidomide in the myelodysplastic syndrome with chromosome 5q deletion. N Engl J Med. 2006 ; 355(14): 1456-65.(3iiiDiv)
2)Fenaux P, et al. A randomized phase 3 study of lenalidomide versus placebo in RBC transfusion-dependent patients with Low-/Intermediate-1-risk myelodysplastic syndromes with del5q. Blood. 2011 ; 118(14): 3765-76.(1iDiv)
3)Harada H, et al. Lenalidomide is active in Japanese patients with symptomatic anemia in low- or intermediate-1 risk myelodysplastic syndromes with a deletion 5q abnormality. Int J Hematol. 2009 ; 90(3): 353-60.(3iiiDiv)
4)Raza A, et al. Phase 2 sutdy of lenalidomide in transfusion-dependent, low-risk, and intermediate-1-risk myelodysplastic syndromes with karyotypes other than deletion 5q. Blood. 2008 ; 111(1): 86-93.(3iiiDiv)
5)Santini V, et al. Randomized phase III study of lenalidomide versus placebo in RBC transfusion-dependent patients with lower-risk non-del(5q)myelodysplastic syndromes and ineligible for or refractory to erythropoiesis-stimulating agents. J Clin Oncol. 2016 ; 34(25): 2988-96.(1iDiv)

 

CQ7 低リスクMDSの治療としてアザシチジンは勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2B

サイトカイン療法や免疫抑制療法の対象とならない低リスクMDS症例の一部においてアザシチジンによる造血の回復が認められるが,生存期間の延長をもたらすエビデンスはなく,生存期間延長を目的とした第一選択薬としてのアザシチジンの使用は推奨されない。

解説

 アザシチジンの低リスクMDSに対する有効性を示すデータは限られており,現時点で低リスクMDSの生存期間延長を目的とした第一選択薬としての使用は推奨されない。
 アザシチジン(AZA)は高リスクMDSに対する第Ⅲ相臨床試験で生存延長効果が示されている1)。その試験では60%の例で造血回復が観察された。74例の低リスクMDSに対する後方視的解析ではAZA治療によって45.9%の例で造血回復が観察された2)。その中で4コース以上の治療を受けた64例では51.6%の反応が得られ,治療反応を得られた例は非反応例と比較して生存期間が延長していた。
 前方視的に低リスクMDSに対してアザシチジンを投与した試験としては,米国において主に低リスクMDS(IPSSは記載されていない)を対象に,アザシチジンの投与日数が連続5日までとなる3種類の投与法を比較した151例を対象とした試験3),イタリアにおいてアザシチジン5日連続投与の有効性をIPSS LowもしくはInt-1のMDS 32例を対象に検討した第Ⅱ相試験4),北欧のグループからの輸血依存のIPSS low/Int-1リスクのMDS 30例を対象にEPO併用にてアザシチジン5日連続投与法の有効性を検討した第Ⅱ相試験5)が報告されている。前二者ではアザシチジンは約半数(44~56%)の症例において血液学的改善を認め,副作用は制御可能であったとしているが,生存期間に関する解析はない3, 4)。3つ目の試験において主要評価項目は輸血依存からの離脱となっており,30例中6例(全例IPSS INT-1)の有効例においては生存期間の延長傾向が示されているが,長期間での効果が持続した例は2例にとどまり,有害事象により投与を中止した例が7例(うち死亡2例)と毒性が強いと報告されている5)
 米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインにおいてはレナリドミド・ESA・免疫抑制療法の対象とならない例でアザシチジンが適応となりうることが示されている6)。European LeukemiaNetのガイドラインにおいてはアザシチジンの適応は示されていない7)。わが国においては低リスクMDSに対しても保険適用となってはいるが,現時点で低リスクMDSの生存期間延長を目的とした第一選択薬としての使用は推奨されない。

参考文献

1)Fenaux P, et al. Efficacy of azacitidine compared with that of conventional care regimens in the treatment of higher-risk myelodysplastic syndromes : a randomised, open-label, phase Ⅲ study. Lancet Oncol. 2009 ; 10(3): 223-32.(1iiA)
2)Musto P, et al. Azacitidine for the treatment of lower risk myelodysplastic syndromes : a retrospective study of 74 patients enrolled in an Italian named patient program. Cancer. 2010 ; 116(6): 1485-94.(3iiiDiv)
3)Lyons RM, et al. Hematologic response to three alternative dosing schedules of azacitidine in patients with myelodysplastic syndromes. J Clin Oncol. 2009 ; 27(11): 1850-6.(3iiiDiv)
4)Filì C, et al. Prospective phase II study on 5-days azacitidine for treatment of symptomatic and/or erythropoietin unresponsive patients with Low/INT-1-risk myelodysplastic syndromes. Clin Cancer Res. 2013 : 19(12): 3297-308.(3iiiDiv)
5)Tobiasson M, et al. Limited clinical efficacy of azacitidine in transfusion-dependent, growth factor-resistant, low- and Int-1-risk MDS : Results from the nordic NMDSG08A phase II trial. Blood Cancer J. 2014 : 4 : e189.(3iiiDiv)
6)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Myelodysplastic Syndromes. Version 1. 2016.(ガイドライン)
7)Malcovati L, et al. Diagnosis and treatment of primary myelodysplastic syndromes in adults : recommendations from the European LeukemiaNet. Blood. 2013 ; 122(17): 2943-64.(ガイドライン)

 

CQ8 MDSに対する同種造血幹細胞移植の適応と適切な実施時期はいつか

推奨グレード
カテゴリー2A

高リスクMDS患者では,できる限り速やかに同種造血幹細胞移植を行う。HLA 1座不適合以内の血縁者間移植が最も望ましいが,血縁ドナーが得られない場合は,HLA一致非血縁者間移植も考慮する。

推奨グレード
カテゴリー2A

低リスクMDS患者では同種造血幹細胞移植は推奨されない。しかし,血球減少が高度で輸血依存性の強い症例,重症感染症や出血のハイリスク症例で他の治療が無効の場合には造血幹細胞移植の候補となる。

推奨グレード
カテゴリー2A

臍帯血移植は推奨されないが,骨髄・末梢血ドナーが得られない高リスクMDS患者では考慮される。

解説

 MDSにおいて治癒が期待できる治療は,現在のところ同種造血幹細胞移植のみである。
 高リスクMDSでは血球減少や白血病への進展リスクが高く,そのままでは予後不良である。このため同種造血幹細胞移植が可能であれば原則として速やかにこれを実施する(表11)。55歳未満の患者でHLA血清学的1座不適合以内の血縁ドナーが存在し,移植に耐えられる全身状態の症例が最も良い適応とされ,日本造血細胞移植学会データ(平成26年度)によれば,16歳以上のRAEB/RAEB-t症例における血縁者間骨髄移植の5年全生存割合(overall survival:OS)は50.0%である2)。血縁者ドナーが存在しない場合は非血縁者間移植が行われるが,同データによると16歳以上のRAEB/RAEB-t症例における非血縁者間骨髄移植の5年OSは42.5%と報告されており,一定の長期生存が認められている2)
 低リスクMDSではそのままでも比較的長期の生存が期待できるため,造血幹細胞移植の適応は慎重に考慮すべきであり,60歳以下のHLA一致血縁者間移植の場合,Markov modelを用いた移植時期の解析では,国際予後予測スコアリングシステム(IPSS)Low~Intermediate-1の症例は病期が進行してからの移植の方が望ましいことが示されている3)。60歳~70歳の患者に対する低強度前処置(reduced intensity conditioning:RIC)を用いたHLA一致同種移植の解析でも同様の結果が報告されている4)。しかし,輸血高度依存,感染症や出血のハイリスク症例で,他の治療が無効の患者では,合併症による死亡や生活の質(quality of life:QOL)の著しい低下が予想されるため,十分な同意を得た上で移植を考慮することは可能である。
 臍帯血移植は施行例数が少なく評価が不十分であり,現段階では標準治療としては推奨されない。血縁・非血縁者ドナーが見つからないか,時間的余裕がない場合に,患者年齢,HLA適合度,臍帯血CD34陽性細胞数などを考慮して施行を検討する。

表1 日本造血細胞移植学会ガイドラインによるMDSに対する移植適応(抜粋)1)

病型リスク HLA適合同胞 HLA適合非血縁 臍帯血移植*6
de novo MDS
Lower risk(低リスク群)*1, *3
Higher risk(高リスク群)*2

CO
S

CO
S

CO/Dev
CO
therapy-related MDS
AML transformed from MDS
S
S
S
S
CO
CO
CMML*5
Lower risk(CPSS:low, intermediate-1)
Higher risk(CPSS:intermediate-2, high)

CO
S

CO
S

CO/Dev
CO

S:standard of care,移植が標準治療である
CO:clinical option,症例により移植を考慮しても良い
Dev:developmental,開発中であり,臨床試験として実施すべき
*1  低リスク群:IPSS:low/intermediate-1, IPSS-R:very low, low, intermediate*4, WPSS:very low, low, intermediate
*2  高リスク群:IPSS:intermediate-2/high, IPSS-R:intermediate*4, high, very high, WPSS:high, very high
*3  低リスク群においては,血球減少高度で血液補充療法依存性あるいは重症感染症・出血ハイリスクの症例で,ほかの保存的治療法無効の場合に同種移植を考慮する。
*4  IPSS-R:intermediateの症例においては年齢,全身状態,血清フェリチン値,血清LDH値を参考にしてlower, higherのいずれかに分類し,個々の症例で移植適応を考慮する。
*5  CMMLは移植適応についての検証がなされておらず,今後の課題である。
*6  代替ドナーのうち,臍帯血移植に関しては移植前治療,患者年齢,臍帯血CD34細胞数などにより推奨度が異なる。HLA-allele 1座不適合の非血縁移植とHLA 1抗原不適合血縁移植は臍帯血移植と同等の成績であるが,それ以外のHLA不適合移植に関しては十分なエビデンスがなく,Devとする。

参考文献

1)骨髄異形成症候群(成人)第2版,造血細胞移植ガイドライン第3巻(日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会編).
2)日本造血細胞移植データセンター(JSHCT),平成28年度全国調査報告書:http://www.jdchct.or.jp/data/report/2016/
3)Cutler CS, et al. A decision analysis of allogeneic bone marrow transplantation for the myelodysplastic syndromes : delayed transplantation for low-risk myelodysplasia is associated with improved outcome. Blood. 2004 ; 104(2): 579-85.(3iiiA)
4)Koreth J, et al. Role of reduced-intensity conditioning allogeneic hematopoietic stem-cell transplantation in older patients with de novo myelodysplastic syndromes : an international collaborative decision analysis. J Clin Oncol. 2013 ; 31(21): 2662-70.(3iiiA)

 

CQ9 MDSに対して減弱した前処置による同種移植は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

高年齢や合併症を持つために強力前処置がリスクと考えられる患者に対しては,減弱した前処置による同種移植を選択肢として考慮する。

解説

 造血器腫瘍に対する同種造血幹細胞移植は,最大の治療効果を得るために十分な前処置(myeloablative conditioning:MAC)で行うことが基本である。しかし,高齢患者や合併症を持つ患者の多いMDSでは強力な前処置による死亡や臓器障害が問題となるため,減弱した前処置(reduced intensity conditioning:RIC)が考慮される。
 現時点でMDSにおけるMACとRICの治療成績を前方視的に直接比較した臨床試験はない。しかし,European Blood and Marrow Transplantation Group(EBMT)による後方視的解析によると,836例のMDS症例の解析で(RIC 215例,MAC 621例),3年再発率はRIC群で有意に高かったが(ハザード比1.64),3年非再発死亡率(non-relapse mortality:NRM)はRIC群で有意に低く(ハザード比0.61),最終的に3年全生存割合(overall survival:OS)は同等であったと報告されている(RIC vs MAC; 33% vs 39%)1)。同じくEBMTから報告された,50歳以上のMDS患者を対象とした後方視的解析でもRICではNRMは低いものの(4年NRM: RIC vs MAC; 32%vs 44%),再発が多く(4年再発率:RIC vs MAC; 41% vs 33%),4年OSには差が認められていない(RIC vs MAC; 32% vs 30%)2)。50~69歳のMDSを対象としたわが国のTransplant Registry Unified Management Program(TRUMP)データの解析でも同様であり,RICではNRMが低いものの,再発率が高く,3年OSはRIC 44.1%,MAC 42.7%と差を認めていない3)
 これらの結果から,50歳以上の高齢者など強力前処置によるリスクが予想される患者においては,RICレジメンによる前処置は妥当な選択肢と考えられる。なお,Center for International Blood and Marrow Transplant Research(CIBMTR)のデータ解析では,RICレジメンで同種移植を施行した40歳以上のAMLあるいはMDS患者において年齢が治療成績に与える影響は小さく,65歳以上でもそれ以下の患者層と同等の治療成績が得られると報告されている4)

参考文献

1)Martino R, et al. Retrospective comparison of reduced-intensity conditioning and conventional high-dose conditioning for allogeneic hematopoietic stem cell transplantation using HLA-identical sibling donors in myelodysplastic syndromes. Blood. 2006 ; 108(3): 836-46.(3iiA)
2)Lim Z, et al. Allogeneic hematopoietic stem-cell transplantation for patients 50 years or older with myelodysplastic syndromes or secondary acute myeloid leukemia. J Clin Oncol. 2010 ; 28(3): 405-11.(3iiA)
3)Aoki K, et al. Allogeneic haematopoietic cell transplantation with reduced-intensity conditioning for elderly patients with advanced myelodysplastic syndromes : a nationwide study. Br J Haematol. 2015 ; 168(3): 463-6.(3iiA)
4)McClune BL, et al. Effect of age on outcome of reduced-intensity hematopoietic cell transplantation for older patients with acute myeloid leukemia in first complete remission or with myelodysplastic syndrome. J Clin Oncol. 2010 ; 28(11): 1878-87.(3iiA)

 

CQ10 高リスクMDSに対してアザシチジンは勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

アザシチジンは,同種造血幹細胞移植が行われない高リスク症例では第一選択薬剤である。

推奨グレード
カテゴリー2A

アザシチジンの移植前治療としての意義は確立していないが,ドナーの準備を待つ間のつなぎ治療(bridge)として施行を考慮してもよい。

解説

 アザシチジン(azacitidine:AZA)はDNAに取り込まれてDNAのメチル化を抑制することで遺伝子発現を回復させ,またRNAに取り込まれることで蛋白合成を阻害して殺細胞効果を示す。
 米国におけるAZAと支持療法のランダム化割り付け比較試験(CALGB9221試験)ではMDSの全ての病型において白血病移行が遅延し(50%移行期間;AZA 21カ月vs支持療法13カ月),生存期間が延長し(50%生存期間;AZA 19.9カ月vs支持療法10.5カ月),生活の質(quality of life:QOL)が改善したことが示された1)。また,欧米における高リスクMDSを対象とした通常治療(支持療法,低用量化学療法,強力化学療法)との第Ⅲ相比較試験(AZA001試験)では生存期間の延長(50%生存期間;AZA 24.5カ月vs通常治療15.0カ月)と白血病化までの期間延長(50%移行期間;AZA 17.8カ月vs通常治療11.5カ月)が示されている2)
 高リスクMDSにおいては,同種造血幹細胞移植以外にMDSの予後を有意に改善できる治療法,薬剤は報告されていなかったため,移植を行わない症例ではAZAが第一選択薬と位置づけられる。
 本剤の有効性は4コース投与までに現れることが多いが,4コース以降に効果が現れる症例も約25%みられるため,明らかな疾患増悪や有害事象による中止を除いて,有効性の判断は少なくとも4~6コース施行した後に行う必要がある3, 4)
 同種移植前治療としてAZAと強力化学療法(寛解導入療法)を比較したものは少数に留まり5, 6),AZAを移植前治療として用いる意義は明らかになっていない。しかし,これらの報告によれば,AZA使用例の移植成績は強力化学療法と同等であり,移植前治療(ドナー準備を待つ間のつなぎ治療)としてAZA施行は可能と考えられる。

参考文献

1)Silverman LR, et al. Randomized controlled trial of azacitidine in patients with the myelodysplastic syndrome : a study of the cancer and leukemia group B. J Clin Oncol. 2002 ; 20(10): 2429-40.(1iiA)
2)Fenaux P, et al. Efficacy of azacitidine compared with that of conventional care regimens in the treatment of higher-risk myelodysplastic syndromes : a randomised, open-label, phase III study. Lancet Oncol. 2009 ; 10(3): 223-32.(1iiA)
3)Silverman LR, et al. Further analysis of trials with azacitidine in patients with myelodysplastic syndrome : studies 8421, 8921, and 9221 by the Cancer and Leukemia Group B. J Clin Oncol. 2006 ; 24(24): 3895-903.(3iiDiv)
4)Gotze K, et al. Azacitidine for treatment of patients with myelodysplastic syndromes (MDS) : practical recommendations of the German MDS Study Group. Ann Hematol. 2010 ; 89(9): 841-50.
5)Gerds AT, et al. Pretransplantation therapy with azacitidine vs induction chemotherapy and posttransplantation outcome in patients with MDS. Biol Blood Marrow Transplant. 2012 ; 18(8): 1211-8.(3iiA)
6)Damaj G, et al. Impact of azacitidine before allogeneic stem-cell transplantation for myelodysplastic syndromes : a study by the Societe Francaise de Greffe de Moelle et de Therapie-Cellulaire and the Groupe-Francophone des Myelodysplasies. J Clin Oncol. 2012 ; 30(36): 4533-40.(3iiA)

 

CQ11 高リスクMDSに対してレナリドミドは勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2B

del(5q)を有する高リスク MDSにおいては,アザシチジン不応あるいは不耐の場合,レナリドミドの使用を考慮しても良い。

解説

 高リスクMDSを対象としたレナリドミド(lenalidomide:LEN)の臨床研究は少ない。del(5q)を有する高リスクMDS症例47例を対象としたLEN第Ⅱ相臨床試験では,13例(27%)に血液学的改善が認められ,7例(15%)は完全奏効であった。そして,5q単独欠損症例では付加染色体異常を持つ症例と比較して有意に多くの完全奏効例が認められた[単独欠損例9例中6例(67%),付加染色体異常例38例中1例(2.6%)]1)。また,del(5q)を有する高リスク MDS/AMLを対象とした,LEN単独増量投与(最大30 mg)研究では,MDS症例の36%(11例中4例)に奏効が認められている2)
 このようにdel(5q)を有する高リスク MDSにおいてLENは一定の血液学的効果を示すが,生存期間への影響等は評価されておらず,高リスクMDS治療におけるLENの優位性,有用性は確立していない。したがって現時点では,高リスクMDSに対するLENの使用は推奨されず,薬物療法を行う場合はアザシチジン(azacitidine:AZA)をまず選択すべきと考えられる。
 なお,現時点ではAZA不応例に対するLENの効果について十分に検討された報告はない。しかし,del(5q)を有する高リスク症例への一定の効果を考えると,アザシチジン不応あるいは不耐容の高リスクdel(5q)症例では,LENの使用も考慮可能と考えられる。

参考文献

1)Adès L, et al. Efficacy and safety of lenalidomide in intermediate-2 or high-risk myelodysplastic syndromes with 5q deletion : results of a phase 2 study. Blood. 2009 ; 113(17): 3947-52.(3iiiDiv)
2)Mollgard L, et al. Clinical effect of increasing doses of lenalidomide in high-risk myelodysplastic syndrome and acute myeloid leukemia with chromosome 5 abnormalities. Haematologica. 2011 ; 96(7): 963-71.(3iiiDiv)

 

CQ12 高リスクMDSにおいて化学療法は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

生存期間,白血病化までの期間を延長する化学療法の報告はなく,第一選択としては推奨されない(アザシチジンが推奨される)。

推奨グレード
カテゴリー2B

同種造血幹細胞移植が実施されない若年齢で染色体異常,全身状態(PS),罹病期間などの予後不良因子のない症例では強力化学療法も候補となるが,化学療法はアザシチジンが使用できない場合に適応が考慮される。

推奨グレード
カテゴリー2B

強力化学療法と低用量化学療法の生存期間への影響はほぼ同等であり,その適応は症例ごとに判断する。

解説

 従来,高リスクMDSに対しては化学療法が行われてきた。しかし,一部の若年齢で,染色体異常・全身状態(performance status:PS)・罹病期間など予後不良因子のない症例では強力化学療法の有用性が示されているものの1),それ以外の症例では生存期間や白血病化までの期間延長を明確に示したレジメンは存在しない。このため,化学療法の適応はアザシチジンが使用できない症例(不応・不耐)に考慮される。
 MDS(RAEB-tおよび白血化症例を含む)における強力化学療法と低用量化学療法を比較したわが国の臨床試験(JALSG MDS200試験)では,登録症例数が不十分で統計学的な比較がなされていないものの,寛解率では強力療法群が高かったにもかかわらず(強力化学療法64.7% vs 低用量化学療法43.9%),2年無病生存割合(disease free survival:DFS)および2年全生存割合(overall survival:OS)はほぼ同等であり(DFS;強力化学療法26.0% vs 低用量化学療法24.8%,OS;強力化学療法28.1% vs 低用量化学療法32.1%),MDSでは寛解導入率が必ずしも予後を反映せず,強力化学療法と低用量化学療法はほぼ同等の成績であった2)

参考文献

1)Kantarjian H, et al. Long-term follow-up results of the combination of topotecan and cytarabine and other intensive chemotherapy regimens in myelodysplastic syndrome. Cancer. 2006 ; 106(5): 1099-109.(3iiiDiv)
2)Morita Y, et al. Comparative analysis of remission induction therapy for high-risk MDS and AML progressed from MDS in the MDS200 study of Japan Adult Leukemia Study Group. Int J Hematol. 2010 ; 91(1): 97-103.(1iiDi)

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