日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版

第Ⅰ章 白血病

Ⅰ 白血病

4 慢性骨髄性白血病/骨髄増殖性腫瘍
(chronic myeloid leukemia/myeloproliferative neoplasms:CML/MPN)

総論

 骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)は,造血幹細胞レベルでの腫瘍化によって発症する疾患であり,骨髄系細胞(顆粒球,赤芽球,骨髄巨核球)の著しい増殖を特徴とする1)。MPNには,慢性骨髄性白血病(chronic myeloid  leukemia:CML),慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia:CNL),真性赤血球増加症または真性多血症(polycythemia vera:PV),原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF),本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET),慢性好酸球性白血病(chronic  eosinophilic leukemia:CEL),分類不能骨髄増殖性腫瘍(MPN,unclassifiable)が含まれる。発症初期のMPNは,分化能を有する骨髄細胞の過形成と,末梢血における顆粒球,赤血球,血小板の増加を示す。理学的には脾腫や肝腫大を認める。MPNは,発症初期には自覚症状に乏しいが,全身症状を伴い段階的に増悪し,最終的には骨髄の線維化,あるいは,形質転換して成熟能喪失(急性転化)へ至る疾患である。MPNの治療については,CMLとそれ以外のMPNでは方針が異なる。本ガイドラインでは,MPNのうちCMLとPV,ET,そしてPMFの治療を提示する。

1.慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)
1)CMLの病期分類
 CMLは,多能性造血幹細胞の異常により惹起される白血病で,t(9;22)(q34;q11)により形成されるPhiladelphia(Ph)染色体を特徴とする。Ph染色体上のBCR-ABL1融合遺伝子にコードされて産生されるBCR-ABL1チロシンキナーゼ(tyrosine kinase:TK)が恒常的に活性化し,白血病細胞の増殖に関与し,3つの病期を経て進行する1)。CMLは白血球や血小板の増加を認めるが,自覚症状の乏しい慢性期(chronic phase:CP,診断後約3~5年間)で多くの患者(85%)が診断され,顆粒球の分化異常が進行する移行期(accelerated phase:AP,3~9カ月間持続)を経て,未分化な芽球が増加して急性白血病に類似する急性転化期(blast phase:BP,約3~6カ月持続)へ進展し致死的となる。WHO分類(2017)2)またはEuropean LeukemiaNet(ELN)20133)の規準に従いAP,BP期が定義される(表1)。

2)CMLの予後分類
 初診時の年齢,脾腫(肋骨弓下cm),血小板数,末梢血芽球(%)の4因子を用いて計算されるSokalスコア4)や,年齢,脾腫(肋骨弓下cm),末梢血芽球(%),末梢血好酸球(%),末梢血好塩基球(%),血小板数の6因子を用いて計算されるHasfordスコア5)は,これまでも化学療法やインターフェロンα(IFNα)療法時代に用いられてきたが,イマチニブ治療においても有用であり,低リスク,中間リスク,高リスクの3リスク群に分類される(https://www.leukemia-net.org/content/leukemias/cml/euro__and_sokal_score/index_eng.html)。イマチニブ治療患者を対象とした解析より構築された予後予測システムEUTOSスコア6)は,初診時の好塩基球(%)と脾腫のみで計算され(7×basophils%+4×spleen size cm),87以下の低リスクと,87より大きい高リスクの2リスク群が提唱されている(http://www.leukemia-net.org/content/leukemias/cml/eutos_score/index_eng.html)。

表1 WHO分類(2017)またはEuropean LeukemiaNet(ELN)2013年版によるCMLの病期分類

移行期(accelerated phase)
WHO分類 以下のいずれか1つ以上に該当するもの
・治療が奏効しない持続する白血球増加(>10,000/μL)
・治療が奏効しない持続する脾腫の増大
・治療が奏効しない持続する血小板増加(>100万/μL)
・治療に無関係の血小板減少(<10万/μL)
・末梢血における好塩基球割合≧20%
・末梢血あるいは骨髄における芽球割合 10~19%・診断時におけるいわゆる“major route”の付加的染色体異常(second Ph, trisomy 8, isochromosome 17q, trisomy 19)または複雑型染色体異常,3q26.2異常
・治療中におけるPhクローンに新たな付加的な染色体異常の出現TKIに対する反応性による基準(provisional)は下記のいずれかに該当するもの・1st line TKIへの血液学的な治療抵抗性(あるいは1st line TKIで血液学的完全奏効が得られない)・2つの連続したTKI治療に対して血液学的,細胞遺伝学的あるいは分子生物学的治療抵抗性
・TKI治療中に2つ以上のBCR-ABL1遺伝子変異の出現
ELN分類 以下のいずれか1つに該当するもの
・末梢血あるいは骨髄における芽球割合15~29%,または芽球と前骨髄球が30%以上
・末梢血における好塩基球割合≧20%
・治療に無関係の血小板減少(<10万/μL)
・染色体異常 治療中の付加的な染色体異常の出現(major route)
急性転化期(blast phase)
WHO分類 下記のいずれか1つに該当するもの
・末梢血あるいは骨髄における芽球割合≧20%
・髄外浸潤 髄外病変の出現(明らかなリンパ芽球の増加を末梢血や骨髄に認めた場合,差し迫ったリンパ芽球性急性転化を疑い,詳細な遺伝学的検査が必要である)
ELN分類 下記のいずれか1つに該当するもの
・末梢血あるいは骨髄における芽球割合≧30%
・髄外浸潤 髄外病変の出現

3)CMLの治療効果判定
 CML治療のコンセプトはPh陽性(BCR-ABL1陽性)白血病細胞のコントロールと病期進行の回避にあり,治療効果はELN2013の判定規準に従う3)表2)。
 CP期の治療効果は,血液学的奏効(hematologic response:HR),細胞遺伝学的奏効(cytogenetic response:CyR),分子遺伝学的奏効(molecular response:MR)の3つのレベルで判定する(表2)。HRは末梢血所見の改善,CyRは骨髄細胞中のPh染色体割合で,MRはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)により血液細胞中のBCR-ABL1遺伝子発現量で判断される。AP/BP期では,血液学的奏効規準がCP期と異なるが,CyRとMRは同じ規準を用いる。

表2 CMLに対する治療効果の判定規準

血液学的奏効(Hematologic Response:HR) 血液・骨髄検査所見および臨床所見
慢性期CML 完全(complete)HR:CHR 1.WBC<10,000/μL
2.PLT<450,000/μL
3.末梢血液中で芽球も前骨髄球もなし
4.末梢血液中の骨髄球+後骨髄球=0%
5.好塩基球<5%
6.脾臓および肝臓の腫大なく,髄外病変なし
進行期CML
(移行期+急性期)
完全(complete)HR:CHR 1.WBC≦施設基準値の上限
2.好中球数≧1,000/μL
3.PLT≧100,000/μL
4.末梢血液中で芽球も前骨髄球もなし
5.骨髄中の芽球≦5%
6.末梢血液中の骨髄球+後骨髄球<5%
7.好塩基球<20%
8.脾臓および肝臓の腫大なく,髄外病変なし
白血病の所見なし:
No Evidence of Leukemia(NEL)
1.WBC≦施設基準値の上限
2.末梢血液中で芽球も前骨髄球もなし
3.骨髄中の芽球≦5%
4.末梢血液中の骨髄球+後骨髄球<5%
5.好塩基球<20%
6.脾臓および肝臓の腫大なく,髄外病変なし
細胞遺伝学的奏効(CytogeneticResponse:CyR) 骨髄有核細胞中のPh染色体(BCR-ABL1)陽性率
細胞遺伝学的大(major)奏効:MCyR 0~35%
細胞遺伝学的完全(complete)奏効:CCyR 0%
細胞遺伝学的部分(partial)奏効:PCyR 1~35%
細胞遺伝学的小(minor)奏効:Minor CyR 36~65%
細胞遺伝学的微小(minimum)奏効:Mini CyR 66~95%
細胞遺伝学的非(none)奏効:No CyR >95%
分子遺伝学的奏効(MolecularResponse:MR) BCR-ABL1IS*2遺伝子レベル(RT-PCR法)
分子遺伝学的大(major)奏効:MMR BCR-ABL1IS*2≦0.1%
分子遺伝学的に深い(deep)奏効:DMR*1
MR4.0
MR4.5
MR5.0

BCR-ABL1IS≦0.01%
BCR
-ABL1IS≦0.0032%
BCR
-ABL1IS≦0.001%

*1以前に用いられていたELN2009では分子遺伝学的完全(complete)奏効(CMR)と定義された奏効レベル
*2 BCR-ABL1IS:国際指標で補正された値

4)CMLの治療概略
①BCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害剤療法:BCR-ABL1チロシンキナーゼを選択的に阻害し,血液学的,細胞遺伝学的,分子遺伝学的に優れた有効性を示すチロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor:TKI)として,イマチニブ7-10),ニロチニブ11),ダサチニブ12)などが用いられる。イマチニブはインターフェロンα+低用量シタラビンとの比較試験の5年長期成績の結果,インターフェロンαに替わって初発CML-CP期に対する第一選択薬となった8)。わが国においても,イマチニブ治療の優れた長期成績が確認された10)
②ニロチニブとダサチニブは,イマチニブ治療に抵抗性・不耐容のCMLに対する治療薬として開発された第二世代TKIであるが,イマチニブとの比較試験の結果11, 12),初発CML-CP期の治療としても選択できる。
③初回(1st line)TKI(イマチニブ,ニロチニブ,またはダサチニブ)に抵抗性あるいは不耐容を示した場合は,別のTKIへの切り替えが必要である。TKI抵抗症例ではBCR-ABL1 遺伝子の点突然変異の解析を行い,点突然変異クローンの薬剤感受性に応じたTKIの選択が必要であり,不耐容症例ではTKIの有害事象を鑑みた薬剤選択が必要である。2nd line以降ではイマチニブ,ニロチニブ,ダサチニブに加え第二世代TKIボスチニブと第三世代TKIポナチニブが使用できる。イマチニブはABLキナーゼに対する阻害活性が第二世代TKIに劣るので,抵抗例に対する切り替えの際は,イマチニブへの切り替えは推奨されない。ボスチニブは二次治療,三次治療としてT315I以外のABL1 遺伝子変異を有する症例に有効であり,忍容性も良好である13, 14)。ポナチニブは3次治療としてT315Iを含むABL1 遺伝子変異を有する症例や前治療薬に抵抗性または不耐容の症例に有効である15)
④同種造血幹細胞移植(allogeneic stem cell transplantation:allo-HSCT):根治が期待できる治療法であるが,治療関連毒性による早期死亡のリスクを考慮しなければならない。したがって,CML-CPから進行したTKI耐性のAP/BP期や初発時BP期のみに適応がある。また,適切なドナーの確保,移植関連毒性に耐え得る年齢および全身状態であることなど適応を考慮しなければならない16)
⑤インターフェロンα:インターフェロンα単剤17)あるいは低用量シタラビンとの併用8)はイマチニブ以前の標準治療であり,一部の症例でPh染色体の消失を認め,全生存期間(overall survival:OS)の改善に寄与することが知られている。しかしながら,本ガイドラインではTKI治療が可能なCMLに対するインターフェロンαを推奨しない。本邦においては,すべてのTKIに対して抵抗性・不耐容を示し同種造血幹細胞移植の適応がない症例やTKIの発売前よりインターフェロンαを投与し分子遺伝学的効果を得ている症例あるいは妊娠中でTKIが使用できない症例のみに現在も使用されている。

5)CML治療効果のモニタリング
 ELN 2013に従い,TKI療法によるCML治療効果のモニタリングを行う3)。治療効果の判定方法は,CyRは,骨髄細胞の染色体検査以外に末梢血好中球の蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization:FISH)で判定できる。MRは,末梢血液を用いて定量(quantitative)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で測定したBCR-ABL1遺伝子レベルのABLあるいは対象となる遺伝子レベルに対する比を,国際指標(International Scale:IS)で補正してBCR-ABL1ISと表す。初回治療では,治療後3カ月までにBCR-ABL1IS≦10%または部分CyR(partial CyR:PCyR),6カ月までにBCR-ABL1IS<1 % または完全CCyR(complete CyR:CCyR),12カ月までにBCR-ABL1IS≦0.1 % すなわちMajor MR(MMR),それ以後はBCR-ABL1IS≦0.1%を維持するOptimal(至適)な効果を得ることを目指す(表3-1)。そして,Warning(要注意)ではモニタリングを頻回に行い,Failure(治療の失敗)では,治療の変更を考慮する。
 初回治療のイマチニブから第二世代TKIに変更した場合は,3カ月でBCR-ABL1IS≦10%またはPh陽性細胞<65%,6カ月でBCR-ABL1IS≦10%またはMCyR,12カ月でBCR-ABL1IS<1%またはCCyR,それ以降BCR-ABL1IS≦0.1%を至適奏効としている(表3-2)。
 ELN 2009コンセンサス18)では,分子遺伝学的完全奏効(CMR)をBCR-ABL1IS検出感度以下と定義されたが,ELN 2013コンセンサス3)では,BCR-ABL1IS 0.01%以下をMR4BCR-ABL1IS0.0032%以下をMR4.5BCR-ABL1IS 0.001%以下をMR5とした規準19)を採用している。CML-CP治療においては,少なくともMMRの治療効果を得ることが大切であり,定量RT-PCRの検索はELNやNCCNなど海外のCML治療ガイドラインでも必須検査とされている。BCR-ABL1ISの定量RT-PCRが施行できない国のためにELN基準では細胞遺伝学的基準も併記されている。一方,わが国においては国際指標で補正されたBCR-ABL1ISの定量RT-PCR検査が2015年4月から保険診療可能となった。したがって,治療効果判定は基本的にBCR-ABL1ISで行うことが可能である。
 具体的なTKIの治療効果判定のタイミングは以下の通りである。
①治療開始前は,血算と血液像,骨髄の染色体検査(G-band法)を施行し,Ph陽性率と付加的染色体異常の有無を確認する。また,BCR-ABL1mRNAを定量し,BCR切断点と治療前の定量値の確認を行う。骨髄染色体検査でPh陽性またはFISH法でBCR-ABL1融合遺伝子陽性であるにも関わらず,BCR-ABL1ISの定量RT-PCR検査でBCR-ABL1が検出できない場合はBCRの切断点が通常と異なっていることが考えられるため,ダイレクトシークエンス法などで確認する必要がある。
②治療開始直後は,血算と血液像を毎週~2週毎に検査する。
BCR-ABL1ISの定量RT-PCR検査は末梢血で行い,初診時に加え,MMRが得られるまでは3カ月ごとに行う。MMR到達後は3~6カ月ごとに行う。
BCR-ABL1ISの著しい増加やELN2013基準でFailureの場合は,骨髄検査で病期の再確認と骨髄染色体検査で付加的染色体異常の有無を検討する。また,BCR-ABL1点突然変異解析(保険適用外)は治療方針を決める参考になる。

表3-1 CMLに対する1st lineのTKI治療の効果(European LeukemiaNet 2013年版)

評価時点 効果
至適奏効 Optimal 要注意 Warning 不成功 Failure
治療前
(ベースライン)
指摘なし 高リスク,または
CCA/Ph+, major route
指摘なし
3カ月 BCR-ABL1 IS≦10%,
またはPh+≦35%
BCR-ABL1IS>10%,
またはPh+ 36~95%
CHRに未到達,
またはPh+>95%
6カ月 BCR-ABL1 IS<1%,
またはPh+ 0%
BCR-ABL1 IS 1~10%,
またはPh+ 1~35%
BCR-ABL1 IS>10%,
またはPh+>35%
12カ月 BCR-ABL1IS≦0.1% BCR-ABL1IS>0.1~1% BCR-ABL1IS>1%,
またはPh+>0%
その後,
どの時点でも
BCR-ABL1IS≦0.1% CCA/Ph-(-7または7q-) CHRの喪失,CCyRの喪失,
確定したMMR喪失
ABL1変異,CCA/Ph+

MMRはBCR-ABL1 IS≦0.1%であり MR3.0あるいはそれ以上の効果
連続した2回のMMR喪失(BCR-ABL1 IS>0.1%)で,そのうち1つはBCR-ABL1 IS≧1%
CCA/Ph+:Ph染色体の付加的染色体異常,CCA/Ph-:Ph染色体以外の付加的染色体異常

表3-2 CMLに対するイマチニブ治療失敗患者に対する2nd lineのTKI治療の効果(European Leukemia Net 2013年版)

評価時点 効果
至適奏効 Optimal 要注意 Warning 不成功 Failure
治療前
(ベースライン)
指摘なし イマチニブ治療にてCHR未達成や
CHRの喪失,初回TKI治療にて
CyR未到達,または高リスク
指摘なし
3カ月 BCR-ABL1IS≦10%,
またはPh+<65%
BCR-ABL1IS>10%,
またはPh+ 65~95%
CHRに未到達,
またはPh+>95%,
または新しいABL1 変異
6カ月 BCR-ABL1IS≦10%,
またはPh+<35%
Ph+ 35~65% BCR-ABL1IS>10%,
またはPh+>65%,
または新しいABL1 変異
12カ月 BCR-ABL1IS<1%,
またはPh+ 0%
BCR-ABL1IS 1~10%,
またはPh+ 1~35%
BCR-ABL1IS>10%,
またはPh+>35%,
または新しいABL1 変異
その後,
どの時点でも
BCR-ABL1IS≦0.1% CCA/Ph-(-7または7q-),
またはBCR-ABL1 IS>0.1%
CHRの喪失,CCyRの喪失,
確定したMMR喪失
新しいABL1 変異,CCA/Ph+

MMRはBCR-ABL1 IS≦0.1%であり MR3.0あるいはそれ以上の効果
連続した2回のMMR喪失(BCR-ABL1>0.1%)で,そのうち1つはBCR-ABL1≧1%
CCA/Ph+:Ph染色体の付加的染色体異常,CCA/Ph-:Ph染色体以外の付加的染色体異常

6)CMLの治療目標
 これまでのCMLの治療目標は,急性転化への移行を阻止することであった。一方,TKIにより多くの症例で長期間持続する深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response:DMR)を得ることができるようになった結果,現在の治療目標は,長期間のtreatment free remission(TFR)を得ることに変わりつつある。イマチニブ中止試験では,長期間イマチニブ治療後,少なくとも2年のDMRを得た症例の一部に長期TFRが確認されている20)。一方,イマチニブ中止後にDMRを喪失した場合は,イマチニブの再開によりすべての症例は再びDMRに到達している。TKIによりDMRに達した症例に対する治療中止の可能性に関しては,今後も臨床試験による検証の積み重ねが必要であるが21),NCCNガイドラインVersion3. 2020では臨床試験以外でTKIを中止する場合の必要条件と中止後の定期的モニタリングの重要性について言及している22)

2.Ph陰性の骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)
 PV,ET,PMFでは,JAK-STATシグナル伝達系を恒常的に活性化する遺伝子変異が共通してみられる。JAK2変異がPVの95%以上,ET,PMFの約半数に,トロンボポエチンレセプターであるMPL変異がET,PMFの3~8%に,calreticulinCALR)変異がET,PMFの20~30%に生じており,血球の無秩序な増殖の原因となっている。
 PV,ET,PMFの3疾患においては,発熱,体重減少,倦怠感,掻痒,骨痛などの全身症状が共通してみられるのに加え,血栓症を合併しやすい。100人・年あたり,血栓症がPVでは5.3回,ETでは4~8回,PMFでは2.23回生じると報告されており,特にPV,ETでは血栓症は主要死因となっている。また,一部の症例はAMLに移行する。一般人口と比較したPV,ETの8年生存割合は0.84(0.77-0.90),0.91(0.84-0.97)23)と比較的良好であるのに対し,PMFの50%生存期間は3.8年と不良である24)。そのため,PVとETでは血栓症の予防を目的とした治療が,PMFでは予後を考慮した治療法の選択が求められる。

3.真性赤血球増加症または真性多血症(polycythemia vera:PV)
1)PVの予後分類25)
 PVの生命予後は比較的良好であり,治療により10年以上の50%生存期間が期待できる。そのため,合併する血栓症の予防が治療の主眼となる。年齢60歳以上または血栓症の既往歴がある患者は,血栓症の高リスク患者である(表4)。

表4 PVにおける血栓症のリスク分類

報告者 予後因子 リスク分類
Barbui T, et al.
(J Clin Oncol. 2011 ; 29 : 761)
年齢<60歳,かつ血栓症の既往なし 低リスク
年齢≧60歳,または血栓症の既往がある 高リスク
Tefferi A, et al.
(Semin Hematol. 2005 ; 42 : 206)
年齢<60歳
血栓症の既往なし
血小板数<150万/μL
心血管病変の危険因子(喫煙,高血圧,うっ血性心不全)がない
以上のすべての項目を満たす
低リスク
低リスク群にも高リスク群にも属さない 中間リスク
年齢≧60歳,または血栓症の既往がある 高リスク

2)PVの治療概略
①高血圧,脂質異常症,肥満,糖尿病などの,いわゆる血栓症の一般的なリスクファクターがある場合は,これらの治療を行う。
②血栓症の低リスク群(年齢<60歳,かつ血栓症の既往がない)に対しては,瀉血+低用量アスピリンの投与を行う。
③高リスク群に対しては,瀉血療法,アスピリン療法に加え細胞減少療法を行う。
 瀉血療法は,Ht値45%未満を目標に,血圧,脈拍などの循環動態をみながら1回200~400 mLを月に1~2度のペースで行う。高齢者や心血管障害を有する例では,循環動態の急激な変化がないように,少量(100~200 mL),頻回の瀉血が望ましい。出血や消化器症状などの禁忌がなければ,75~100 mg/日のアスピリンの経口投与が選択される。
細胞減少療法の第一選択薬はヒドロキシウレアである。ヒドロキシウレア不耐容,あるいは抵抗性の場合は,ルキソリチニブを使用する26)。ヒドロキシウレアには催奇性の問題があり,妊娠中や挙児希望者にはインターフェロンα療法を考慮することがある。また長期投与による二次発がんのリスクが完全には否定されていないため,40歳未満の若年者においても,インターフェロンαを考慮することある。

4.本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)
1)ETの予後分類
 ETの生命予後は良好であり,健常者とほぼ同等の生命予後が期待される。そのため,合併する血栓症の予防が治療の主眼となる。年齢60歳以上または血栓症の既往歴がある患者は,血栓症の高リスク患者である27)。なお,最近JAK2 変異を組み入れたリスク分類も提唱された28)表5)。白血球数,血小板数および高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙などの心血管リスクファクターの有無を血栓症の危険因子として扱うかは報告により異なっており,結論は得られていない。
 生命予後は基本的には良好であるが,年齢,初診時白血球数,血栓症の既往などにより3つのリスクに分類することが提唱されている(表629, 30)

表5 ETにおける血栓症のリスク分類

報告者 予後因子 リスク分類
Barbui T, et al.
(J Clin Oncol. 2011 ; 29 : 761)
年齢<60歳,かつ血栓症の既往なし 低リスク
年齢≧60歳,または血栓症の既往あり 高リスク
Ruggeri M, et al.
(Br J Haematol.1998 ; 103 : 772)
年齢<60歳,かつ血栓症の既往なし,
かつ血小板数<150万/μL
低リスク
年齢≧60歳,または血栓症の既往あり,
または血小板数≧150万/μL
高リスク
Barubi T, et al.
(Blood Cancer J. 2015 ; 5 : e369)
年齢<60歳,かつ血栓症の既往なし JAK2 変異なし 超低リスク
JAK2 変異あり 低リスク
年齢≧60歳,かつ血栓症の既往なし,
かつJAK2 変異なし
中間リスク
年齢≧60歳,かつ JAK2 変異あり 高リスク
血栓症の既往あり

表6 ETにおける生命予後のリスク分類28, 29)

報告者 予後因子 リスク分類 50%生存期間(年)
Wolanskyj AP, et al.
(Mayo Clin Proc. 2006 ; 81 : 159)
年齢<60歳,
かつ白血球数<15,000/μL
低リスク 25.3
年齢≧60歳,
または白血球数≧15,000/μL
中間リスク 16.9
年齢≧60歳,
かつ白血球数≧15,000/μL
高リスク 10.3
Passamonti F, et al.
(Blood. 2012 ; 120 : 1197)
年齢 ≧60歳 (2)
WBC≧11,000/μL(1)
血栓症の既往(1)
低リスク(0) not reached
中間リスク(1, 2) 24.5
高リスク(3, 4) 13.8

2)ETの治療概略
①血栓症低リスク群に対しては,定期的な経過観察を行う。骨髄抑制をきたす薬剤や血小板を低減する薬剤の投与は不要である26)。低用量アスピリンの投与も一般的には不要であるが,JAK2 変異がある,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,脂質異常症,糖尿病)がある,あるいは微小血管の塞栓,血栓症を示唆する症状がある時には,アスピリン投与を考慮してもよい31)
②血栓症高リスク群に対しては,合併する血栓症の予防を目的として低用量アスピリン投与と細胞減少療法の併用療法を行う32, 33)。血小板数の著増に伴いvon Willebrand因子(vWF)が低下すると,後天性von Willebrand syndrome(AvWS)を発症することがある。この場合のアスピリンの単独投与は出血を助長する可能性があるため,vWF:RCo(ristocetin cofactor activity)が低下している例では,細胞減少療法後に血小板数が減少していることを確認してからアスピリン投与を行う。血小板数<100万/μLでもvWFが低下する例もみられるため34),出血傾向を示す場合は血小板数に関わらずvWF:RCoを測定することが望ましい。細胞減少療法には,ヒドロキシウレアとアナグレリドがある33, 35)。ETの発症年齢はPVと比べ若く,やや女性に好発することから,妊娠,挙児希望が問題となることがある。このような場合は,インターフェロンα投与を考慮する(保険適用外)。

5.原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)
1)PMFの予後分類
 3種類の国際的予後分類(international prognostic scoring system:IPSS)が使用されている。年齢>65歳,体重減少,夜間盗汗,発熱などの臨床症状,ヘモグロビン値(Hb)<10 g/dL,診断時WBC>25,000/μL,末梢血液中の芽球割合≧1%の5つを予後因子とするIPSS 36),前述の5因子に異なった重み付けをしたDynamic IPSS(DIPSS)37),DIPSSに染色体異常,血小板数,輸血依存性を付加したDIPSS Plus 38)である(表7)。スコアの合計により,低リスク,中間-Ⅰリスク,中間-Ⅱリスク,高リスクの4つのリスクグループに分類される。いずれの分類も予後予測に有用であり,治療法選択に用いられている。

表7 PMFの予後予測モデル

予後予測モデル 予後不良因子(スコア) 予後評価
スコアの合計 リスク分類 50%生存期間(年)
IPSS
(Blood. 2009 ; 113 : 2895)
年齢>65歳(1)
発熱・夜間盗汗・体重減少の持続(1)
Hb<10 g/dL(1)
WBC>25,000/μL(1)
末梢血芽球≧1%(1)
0 低リスク 11.3
1 中間-Ⅰリスク 7.9
2 中間-Ⅱリスク 4.0
≧3 高リスク 2.3
DIPSS/aaDIPSS
(Blood. 2010 ; 115 : 1703)
DIPSS:
年齢>65歳(1)
発熱・夜間盗汗・体重減少の持続(1)
Hb<10 g/dL(2)
WBC>25,000/μL(1)
末梢血芽球≧1%(1)
0 低リスク 到達せず
1~2 中間-Ⅰリスク 14.2
3~4 中間-Ⅱリスク 4.0
5~6 高リスク 1.5
Age-adjusted DIPSS(65歳未満):
発熱・夜間盗汗・体重減少の維持(2)
Hb<10 g/dL(2)
WBC>25,000/μL(1)
末梢血芽球≧1%(2)
0 低リスク 到達せず
1~2 中間-Ⅰリスク 9.8
3~4 中間-Ⅱリスク 4.8
≧5 高リスク 2.3
DIPSS plus
(J Clin Oncol. 2011 ; 29 : 392)
予後不良核型[複雑核型(3種類以上の異常),+8,-7/7q-,i(17q),-5/5q-,12p-, inv(3),11q23異常](1)
血小板<100,000/μL(1)
輸血の必要性(1)
DIPSS Intermediate-I リスク(1)
DIPSS Intermediate-II リスク(2)
DIPSS Highリスク(3)
0 低リスク 15.4
1 中間-Ⅰリスク 6.5
2~3 中間-Ⅱリスク 2.9
4~6 高リスク 1.3

2)PMFの治療概略
①低リスクおよび中間-Ⅰリスクの治療:臨床症状,貧血症状を欠く患者の生存期間は10年を超えるため,現時点では経過観察が望ましい。症状を有する場合にはそれに対する治療(③④参照)を行う。
②中間-Ⅱリスクおよび高リスクの治療:現時点での治癒的治療法は同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)であり,可能であればallo-HSCTが推奨される。allo-HSCTにより約50%に長期生存が得られる。allo-HSCTの適応とならない場合は,ルキソリチニブ投与を行う。ルキソリチニブにより脾腫の改善,症状の改善に加え,生命予後の改善も期待できる39, 40)
③貧血に対しては, 赤血球輸血や蛋白同化ホルモンが用いられる。蛋白同化ホルモンは,海外ではダナゾール600 mg/日が頻用されるが,本邦では酢酸メテノロンが用いられることが多い41)
④脾腫に伴う腹痛などの症状に対して,ヒドロキシウレア,摘脾や放射線照射の有効性も報告されている。ヒドロキシウレア1,000 mg/日で開始すると,約40%の患者に脾サイズの縮小が得られる42)。主な有害事象は骨髄抑制である。脾照射も有効であるが,その効果は一時的であり,高度の血球減少,感染症に注意が必要である43)

参考文献

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アルゴリズム

1.CMLのアルゴリズム
 現在のCML治療のKey DrugはTKIである。CML-CP期にはTKI(イマチニブ,ニロチニブ,ダサチニブ)を投与する(CQ1)。治療開始後,至適奏効(Optimal)の場合は治療を継続,Warning(要注意)の場合はモニタリング(CQ2)を頻回にして,Failure(不成功)の場合は,イマチニブは他のTKI,ニロチニブはダサチニブまたはボスチニブ,ダサチニブはニロチニブまたはボスチニブへの治療薬の変更を行う。TKI抵抗例においては点突然変異解析が治療薬を決める参考になる。ポナチニブは3次治療としてT315Iを含むABL1遺伝子変異を有する症例や前治療薬に抵抗性または不耐容の症例に有効である(CQ3)。また長期TKI投与による心血管系の副作用を避けるため,高リスク群の同定と定期的な検査を行う(CQ4)。CML-CPから進展したAP期には未使用TKIで治療し,BP期にはTKI単独もしくは急性白血病に準じた化学療法を併用する。移植適応であれば,allo-HSCTを推奨する(CQ5)。TFRはCML治療の新しい目標であるが,現在のところ臨床試験以外でTKIを中止すべきではない。ただし,妊娠を望む若い女性や晩期副作用のためにTKIの継続が困難などの理由がある場合は,分子遺伝学的深い奏効(DMR)が得られた患者の中で一定の条件を満たし,かつ定期的なモニタリング下でTKI中止を考慮しても良い(CQ6)。

2.MPNのアルゴリズム
 PV,ET,PMFの治療に際しては,リスク評価に基づき治療方針を立てることが基本となる。
 PVとETの治療目標は,血栓症や出血を予防することである。すべてのリスクカテゴリーに属するPV患者に対して低用量アスピリン投与と瀉血が有効である。高リスクPVには,これに加えてヒドロキシウレアを用いてHt<45%を目指す(CQ7)。ヒドロキシウレア不応例,不耐容例にはルキソリチニブが有用である。低リスクET(<60歳,かつ血栓症の既往がない)は経過観察が原則であるが,その中で心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,脂質異常症,糖尿病)のある症例,JAK2 変異のある症例では,血栓症発症リスクを低下させるため抗血小板療法(アスピリン投与)を推奨する(CQ9)。高リスクのET症例(60歳以上または血栓症の既往あり)には,低用量アスピリン投与と細胞減少療法を行う。細胞減少療法には ヒドロキシウレアとアナグレリドがある(CQ8)。妊娠合併ETに対する低用量アスピリンやインターフェロンαによる治療介入は流産を減らす可能性がある(CQ11)。
 PMFの低リスク群,中間-Ⅰリスク群の生命予後は比較的良好である。貧血,全身倦怠感,脾腫に伴う腹部膨満感などがある場合は,症状緩和を目的とした治療を行う。症状のない場合は無治療経過観察の方針が望ましい。中間-Ⅱリスク群,高リスク群の生命予後は不良であり,適切なドナーが得られる場合は同種造血幹細胞移植を考慮する(CQ12)。同種造血幹細胞移植はPMFに対する根治的治療法である。移植適応とならない場合は,ルキソリチニブ投与を行う。脾腫,全身症状の改善に加え,生命予後の改善も期待できる。

 

CQ1 初発CML-CPに対する治療として何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

初発CML-CPに対しては,イマチニブ400 mg QD(1回/日),ニロチニブ300 mg BID(2回/日),ダサチニブ100 mg QDのいずれかの投与を推奨する。3剤の副作用プロファイルが異なることから,合併疾患などの患者背景を考慮して治療薬を選択することが望ましい。

解説

 初発CML-CPに対しては,TKIであるイマチニブと化学療法+インターフェロンα(IFNα)の併用療法との比較試験(IRIS 試験)の結果,イマチニブの優位性が示された1)。イマチニブ投与による全生存割合(OS)は8年で85%(CML関係死による死亡のみを対象とした8年間OSは93%),10年で83.3%と長期間の有効性と安全性も示された2, 3)。その後,高用量(800 mg QD)イマチニブと通常用量(400 mg QD)イマチニブの比較試験が実施されたが,両群の有効性に関する差は明らかでない4-6)。したがって現時点では,イマチニブ400 mg QDが推奨投与の一つである。
 イマチニブを対照薬として第二世代TKIであるニロチニブ,ダサチニブの臨床第Ⅲ相試験が発表されている。ニロチニブ300 mg BID(ENESTnd試験)7),ダサチニブ100 mg QD(DASISION試験)8)は,細胞遺伝学的完全奏効(CCyR),分子遺伝学的大奏効(MMR)達成率について12カ月時点でイマチニブ400 mg QDより優れていた。さらに,5年までの公表されたデータによると全生存割合に有意差はないものの,AP/BPへの移行も少なく,DASISION試験では証明できなかったもののENESTnd試験ではCMLに関連した死亡は有意に低下していた。以上より,治療効果という面において,第二世代TKIはイマチニブに比べて優位性が示されている9, 10)。これらの前方視的試験の結果から,治療前のSokal scoreなどで高リスク群の場合は,第二世代TKIが推奨される。一方,第二世代のニロチニブとダサチニブ同士を直接比較した検討もないため,現在のところ,どちらを最初に投与すべきかは断定できない11)。しかしながら,5年の長期観察の中でイマチニブに比べ第二世代TKIの心血管系副作用の頻度が高いことが明らかとなった(全Gradeの虚血性心血管イベント:ダサチニブ100 mg QD 12例/258例 対イマチニブ400 mg QD 6例/258例,ニロチニブ300 mg BID 21例/279例 対イマチニブ400 mg QD 6例/280例)9, 10)。TKI 3剤の副作用プロファイルが異なることから,合併する疾患など患者背景を考慮し,一次治療薬を選択することが望ましい。

参考文献

1)O’Brien SG, et al. Imatinib compared with interferon and low-dose cytarabine for newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2003 ; 348(11): 994-1004.(1iiDiv)
2)Deininger M, et al. International randomized study of interferon vs STI571(IRIS)8-year follow-up : sustained survival and low risk for progression or events in patients with newly diagnosed chronic myeloid leukemia in chronic phase(CML-CP)treated with imatinib. Blood. 2009 ; 114 : abstract #1126.(2Diii)
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CQ2 TKI治療開始後の効果判定のモニタリングはどのような方法が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

国際指標(International Scale:IS)で補正したBCR-ABL1IS定量RT-PCRによるTKI治療前と治療後3カ月ごとのモニタリングが推奨される。

解説

 CMLの治療効果判定のモニタリングには骨髄染色体検査G-banding法によるフィラデルフィア染色体の割合,蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization:FISH)法によるBCR-ABL1陽性細胞の割合,定量(quantitative)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RTPCR)法によるBCR-ABL1 mRNAコピー数が用いられてきた。イマチニブなどのTKI療法によりほとんどの症例が分子遺伝学的奏効MRを達成するため,ELN 2013の治療効果判定方法の中心は末梢血を用いた定量RT-PCR法である1)。標準化された定量RT-PCR法が施行できない地域のためELN 2013では定量RT-PCR法と同時に染色体分析による評価も併記されている1)。ここで推奨する定量RT-PCR法はBCR-ABL1 mRNAコピー数をABLあるいは対象となる遺伝子のmRNAコピー数の比を国際指標(International Scale:IS)で補正したものであり,BCR-ABL1ISと記載する。わが国においても国際指標で補正されたBCR-ABL1ISの定量RT-PCR検査が2015年4月から保険診療可能となっている。
 IRIS試験のサブセット解析では,イマチニブ投与後18カ月でMMR(BCR-ABL1IS≦0.1%)達成例の7年無イベント生存割合(EFS)95%,無増悪生存割合(PFS)99%と極めて良好であること,イマチニブ投与後12カ月でMMR達成例はCML-AP/BPへの移行が8年時点まで報告されていないこと2-4)から,定量RT-PCR法で評価されたMMRが長期生存を予測するサロゲートマーカーに位置づけられている。さらにイマチニブを対照薬として第二世代TKIであるニロチニブまたはダサチニブの臨床第Ⅲ相試験であるENESTnd試験5, 6)またはDASISION試験7, 8)において治療後3カ月でBCR-ABL1IS≦10%で定義されるEarly molecular response(EMR)がTKIの種類に関わらず5年PFSまたは5年OSを予測するサロゲートマーカーであると報告されている。

参考文献

1)Beccarani M, et al. European LeukemiaNet recommendations for the management of chronic myeloid leukemia: 2013. Blood. 2013 ; 122(6): 872-84.(レビュー)
2)Druker BJ, et al. Five-year follow-up of patients receiving imatinib for chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2006 ; 355(23): 2408-17.(2Diii)
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5)Saglio G, et al. Nilotinib versus imatinib for newly diagnosed chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 ; 362(24): 2251-9.(1iiDiv)
6)Hochhaus A, et al. Long-term benefits and risks of frontline nilotinib vs imatinib for chronic myeloid leukemia in chronic phase : 5-year update of the randomized ENESTnd trial. Leukemia. 2016 ; 30(5): 1044-54.(1iiDiv)
7)Kantarjian H, et al. Dasatinib versus imatinib in newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Eng J Med. 2010 ; 362(24): 2260-70.(1iiDiv)
8)Cortes JE, et al. Final 5-year study results of DASISION : The dasatinib versus imatinib study in treatment-naive chronic myeloid leukemia patients trial. J Clin Oncol. 2016 ; 34(20): 2333-40.(1iiDiv)

 

CQ3 ELNの効果判定基準によりWarningやFailureとされた症例に対する二次治療は何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

CML-CPの二次治療には,ABL1点突然変異解析を参考としつつボスチニブを含む未投与の第二世代TKIが推奨される。

解説

 ELN2013に従い,一次治療Warningに対してはモニタリングを頻回に行い,3カ月後の次の評価ポイントまでにはOptimalかFailureかはっきりさせる。その際,アドヒアランスの低下や副作用による休薬がないこと,トラフ濃度測定などによる薬物動態学的検討も治療抵抗性の参考となる。ELN2013に従い,Failureと判定された場合は,ABL1の点突然変異解析や付加的染色体異常の有無を確認する。ABL1の点突然変異の種類によって,適切な二次治療としての第二世代TKI(ニロチニブ,ダサチニブまたはボスチニブ)を選択する1)
 イマチニブ抵抗性・不耐容に対してニロチニブ400 mg BIDに変更した第Ⅱ相試験の48カ月フォローアップデータではCCyR達成率は45%であり,4年OSは78%と良好であった2)。またイマチニブ抵抗性・不耐容に対してダサチニブを100 mg QD, 50 mg BID, 140 mg QD, 70 mg BIDにランダマイズした第Ⅲ相試験の6年フォローアップデータでは,6年までのMMR達成はそれぞれの群で約40%程度であり,6年OSは70%以上と良好であった3)。一方,ボスチニブは初回TKI(イマチニブ,ニロチニブ,またはダサチニブ)治療に抵抗性・不耐容のCMLに対する二次または三次治療薬であり,イマチニブ抵抗性・不耐容286例に対してボスチニブに変更した第Ⅰ/Ⅱ相試験の4年フォローアップデータでは,累積CCyR達成率は49%,2年OSは91%と良好であった4)。さらに,イマチニブから切り替えたニロチニブまたはダサチニブTKI抵抗性・不耐容CMLに対してボスチニブに変更した第Ⅰ/Ⅱ相試験のサブ解析では,累積CCyR達成率は24%,2年OSは83%と良好であった5)
 またTKI抵抗性三次治療としてポナチニブの有用性が報告されている。第二世代TKIで濃厚に治療されているTKI抵抗性・不耐容CMLまたはT315Iが検出されているCMLに対してポナチニブに変更した第Ⅱ相試験では,46%がCCyRを達成し34%がMMRを達成した6)

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2)Giles FJ, et al. Nilotinib in imatinib- resistant or intolerant patients with chronic myeloid leukemia in chronic phas : 48-month follow-up results of phase II study. Leukemia. 2013 ; 27(1): 107-12.(3iiiDiv)
3)Shah NP, et al. Long-term outcome with dasatinib after imatinib failure in chronic-phase chronic myeloid leukemia : follow-up of a phase 3 study. Blood. 2014 ; 123(15): 2317-24.(3iiiDiv)
4)Brümmendorf TH, et al. Factors influencing long-term efficacy and tolerability of bosutinib in chronic phase chronic myeloid leukaemia resistant or intolerant to imatinib. Br J Haematol. 2016 ; 172(1): 97-110.(3iiiDiv)
5)Khoury HJ, et al. Bosutinib is active in chronic phase chronic myeloid leukemia after imatinib and dasatinib and/or nilotinib therapy failure. Blood. 2014 : 119(15): 3403-12.(3iiiDiv)
6)Cortes JE, et al. A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med. 2013 ; 369(19): 1783-96.(3iiiDiv)

 

CQ4 TKIの長期治療中の副作用モニタリングとして何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2B

TKI治療前および治療中には心血管イベントに関するリスク因子(年齢,性別,血圧,脂質,糖尿病,喫煙歴)を評価し,動脈硬化や肺高血圧に対する定期的な検査が必要である。

解説

 第二世代TKI長期投与により,重篤な心血管イベント[虚血性心疾患,肺高血圧症(PAH),末梢動脈閉塞症(PAOD),脳梗塞]の合併が認められる。ENESTnd試験とDASISION試験の5年の長期観察では,対照群のイマチニブに比べ第二世代TKIの心血管系副作用の頻度が高かった(全Gradeの虚血性心血管イベント:ニロチニブ300 mg BID 21例/279例 対イマチニブ400 mg QD 6例/280例,ダサチニブ100 mg QD 12例/258例 対イマチニブ400 mg QD 6例/258例)1, 2。また第三世代TKIポナチニブとイマチニブの比較試験であるEPIC試験はポナチニブに高発現した心血管系副作用のために開始14カ月で早期中止されたが,ポナチニブ投与10例(6%)/154例対イマチニブ1例(1%)/152例で 重篤な動脈閉塞性事象をきたした3)
 これらの合併症は用量に依存するものの,発症に関するoff target効果などの正確なメカニズムはわかっていないため,TKIの中止以外に有効な予防は明らかではない。しかしながら,少なくとも心血管イベントに関わる合併症を有する症例(糖尿病,高血圧,脂質異常症)で有意に心血管イベントが多いことから4),厳格な血糖と血圧コントロール,ストロングスタチンの投与によるLDLコレステロールのコントロールを行い,喫煙者であれば禁煙を指導する5)
 NIPPON DATA 80の長期観察研究によって,年齢,性別,血圧,脂質,糖尿病,喫煙歴からなる心血管病変の死亡リスクが示されている6)。TKI投与前には心血管イベントのリスクをこれらのデータを参照して評価し,高リスク群(糖尿病や脂質異常症を有する喫煙,高齢者)に対しては第二世代TKIのリスクとベネフィットの両者を説明し同意を得た上で投与すべきである。また投与前と投与中は簡便で非侵襲的なABIや頚動脈超音波検査を用いた動脈硬化の定期的なモニタリングが推奨される。一方,TKI関連血管閉塞性事象に対する抗血小板薬投与による一次予防の有効性は現在のところ明らかではない。しかしながら,心血管イベントの高リスク症例やTKI治療前にすでに明らかな動脈硬化が認められる症例では予防を考慮しても良い。
 ダサチニブでは虚血性心疾患に加え,稀ではあるもののPAHの合併が報告されている7)。PAHの発症はDASISION試験5年まででダサチニブ群258例中6例,イマチニブ群258例中0例である2)。投与中どのような症例にPAH発症のリスクが高いか推測することは困難であるため,ダサチニブ投与中は定期的なモニタリングが必要である。PAHのスクリーニングおよびモニタリングとして,定期的なBNP測定とドップラー心超音波検査が有用である7)。PAHに対する治療はダサチニブの中止であり,早期であれば可逆的であることも報告されている8)

参考文献

1)Hochhaus A, et al. Long-term benefits and risks of frontline nilotinib vs imatinib for chronic myeloid leukemia in chronic phase : 5-year update of the randomized ENESTnd trial. Leukemia. 2016 ; 30(5): 1044-54.(1iiDiv)
2)Cortes JE, et al. Final 5-year study results of DASISION : The dasatinib versus imatinib study in treatment-naive chronic myeloid leukemia patients trial. J Clin Oncol. 2016 ; 34(20): 2333-40.(1iiDiv)
3)Lipton JH, et al. Ponatinib versus imatinib for newly diagnosed chronic myeloid leukaemia : an interna-tional, randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016 ; 17(5): 612-21.(1iiDiv)
4)Rea D, et al. Usefulness of the 2012 European CVD risk assessment model to identify patients at high risk of cardiovascular events during nilotinib therapy in chronic myeloid leukemia. Leukemia. 2015 ; 29(5): 1206-9.(レビュー)
5)Valent O, et al. Vascular safety issues in CML patients treated with BCR/ABL1 kinase inhibitors. Blood. 2015 ; 125(6): 901-6.(レビュー)
6)Group NDR. Risk assessment chart for death from cardiovascular disease based on a 19-year follow-up study of a Japanese representative population. Circ J. 2006 ; 70(10): 1249-55.(3iA)
7)Montani D, et al. Pulmonary arterial hypertension in patients treated by dasatinib. Circulation. 2012 ; 125(17): 2128-37.(3iC)
8)Shah NP, et al. Clinical features of pulmonary arterial hypertension in patients receiving dasatinib. Am J Hematol. 2015 ; 90(11): 1060-4.(3iiiDiv)

 

CQ5 進行期CML(APおよびBP)の治療はTKIが勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

CML-APの治療は,初発APに対してはニロチニブ400 mg BID,ダサチニブ70 mg BIDを,TKI治療中のAPに対してはボスチニブとポナチニブを含む未投与のTKIを推奨する。これらのTKIで至適奏効が得られない場合は,同種造血幹細胞移植を考慮する。

推奨グレード
カテゴリー2A

CML-BPの治療は,感受性のあるTKI単剤または化学療法併用で最大効果を得た後,可能な限り同種HSCTを推奨する。

解説

 進行期CMLに対するイマチニブ1, 2)の効果は限定的である。イマチニブ抵抗性AP/BP期患者に対する単アーム前方視的試験の結果,第二世代TKIのダサチニブ3, 4),ニロチニブ5, 6),ボスチニブ7),ポナチニブ8)の臨床的有効性が明らかになった。
 TKI治療中に進行期となったCMLでは,TKI抵抗性の原因となるABL1点突然変異が認められることがあるため,点突然変異解析を推奨する。前治療で使用したTKIとは異なるTKIを使用するが,点突然変異がある場合はその変異に感受性があるTKIを選択する9)
 前治療のないde novo CML-APはTKIにナイーブであるため,前治療のあるCML-APよりもTKIの高い感受性が期待される。51例のde novo CML-APの解析では,36カ月時の第二世代TKI による全生存割合(OS)95%と良好な結果が得られている10)
 CML-BCに対してはABL1 点突然変異解析にて感受性のあるTKIを選択する。さらに化学療法を併用することで治療効果の向上が期待される。Lymphoid BPであればビンクリスチンとステロイドが含まれるALL型の化学療法11),Myeloid BPであればシタラビンが含まれるAML型の化学療法12)を併用する。しかしながらTKI単剤もしくは併用化学療法の治療成績は十分とは言えないため,移植適応の患者では同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を強く推奨する。ドイツのCMLグループの報告では進行期のCML に対するallo-HSCTの3年OSは59%であり,TKI単剤もしくは併用化学療法の治療成績と比較し,良好な結果が期待できる13)。本邦におけるCML-BPに対する血縁者間および非血縁者間同種骨髄移植の生存割合は移植後1年で46.2%,43.9%,移植後5年で24.6%,24.1%である14)

参考文献

1)Talpaz M, et al. Imatinib induces durable hematologic and cytogenetic responses in patients with accelerated phase chronic myeloid leukemia : results of a phase 2 study. Blood. 2002 ; 99(6): 1928-37.(3iiiDiv)
2)Sawyers CL, et al. Imatinib induces hematologic and cytogenetic responses in patients with chronic myelogenous leukemia in myeloid blast crisis : results of a phase II study. Blood. 2002 ; 99(10): 3530-9.(3iiiDiv)
3)Apperley JF, et al. Dasatinib in the treatment of chronic myeloid leukemia in accelerated phase after imatinib failure : the START A trial. J Clin Oncol. 2009 ; 27(21): 3472-9.(3iiiDiv)
4)Cortes J, et al. Dasatinib induces complete hematologic and cytogenetic responses in patients with imatinib-resistant or -intolerant chronic myeloid leukemia in blast crisis. Blood 2007 ; 109 : 3207-13.(3iiiDiv)
5)le Coutre PD, et al. Nilotinib in patients with Ph+ chronic myeloid leukemia in accelerated phase following imatinib resistance or intolerance : 24-month follow-up results. Leukemia. 2012 ; 26(6): 1189-94.(3iiiDiv)
6)Giles FJ, et al. Nilotinib is effective in imatinib-resistant or -intolerant patients with chronic myeloid leukemia in blastic phase. Leukemia. 2012 ; 26(5): 959-62.(3iiiDiv)
7)Gambacorti-Passerini C, et al. Long-term efficacy and safety of bosutinib in patients with advanced leukemia following resistance/intolerance to imatinib and other tyrosine kinase inhibitors. Am J Hematol. 2015 ; 90(9): 755-68.(3iiiDiv)
8)Cortes JE, et al. A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med. 2013 ; 369(19): 1783-96.(3iiiDiv)
9)Soverini S, et al. BCR-ABL kinase domain mutation analysis in chronic myeloid leukemia patients treated with tyrosine kinase inhibitors : recommendations from an expert panel on behalf of European LeukemiaNet. Blood. 2011 ; 118(5): 1208-15.(レビュー)
10)Ohanian M, et al. Tyrosine kinase inhibitors as initial therapy for patients with chronic myeloid leukemia in accelerated phase. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2014 ; 14(2): 155-62.(3iiiDiv)
11)Yanada M, et al. High complete remission rate and promising outcome by combination of imatinib and chemotherapy for newly diagnosed BCR-ABL-positive acute lymphoblastic leukemia : a phase II study by the Japan Adult Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 2006 ; 24(3): 460-6.(3iiiDiv)
12)Fruehauf S, et al. Imatinib combined with mitoxantrone/etoposide and cytarabine is an effective induction therapy for patients with chronic myeloid leukemia in myeloid blast crisis. Cancer. 2007 ; 109(8): 1543-49.(3iiiDiv)
13)Saussele S, et al. Allogeneic hematopoietic stem cell transplantation(allo SCT) for chronic myeloid leukemia in the imatinib era : evaluation of its impact within a subgroup of the randomized German CML Study Ⅳ. Blood. 2010 ; 115(10): 1880-5.(2A)
14)日本における造血細胞移植.平成25年度 全国調査報告書.日本造血細胞移植データセンター/ 日本造血細胞移植学会http://www.jdchct.or.jp/data/report/2013/3-3-4.pdf(レビュー)

 

CQ6 DMRを達成しMRDが検出されなければTKI中止は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー4

DMRが得られて安全にTKI治療が終了できる基準が確立されるまでは,臨床試験以外でTKIを中止すべきではない。

推奨グレード
カテゴリー2A

ただし特別な事情がある場合(妊娠を望む女性や重篤な副作用の合併など),完全には否定できない急性転化に関する十分な説明同意と定期的な定量PCRによるMRDのモニタリングを行い,MMRを失ったら可及的早期に治療を再開するという条件でTKI中止を考慮しても良い。

解説

 Treatment free remission(TFR)はTKIを中止しても分子遺伝学的に再発・再燃してこない寛解状態のことを示し,STIM試験などで長期にイマチニブ治療を受けた約40~60%の症例で達成できることが示された1-3)。分子遺伝学的再発は多くの症例で中止後6カ月以内に認められ,イマチニブを投与することで再度deep molecular response(DMR)を達成している1-3)。本邦においてもJALSG STIM213試験において長期イマチニブ治療CML症例(68例)における64.6%の3年TFR率と分子遺伝学的再発した全例でイマチニブ再投与による再寛解の達成が確認された4)。JALSG STIM213を含みイマチニブ中止の必要条件は3年以上のイマチニブ治療により少なくともMR4.5 より深いDMRを達成し,DMRが2年以上継続していることである1-4)。イマチニブを含む前治療に抵抗性不耐容のためダサチニブに切り替えてダサチニブの中止の安全性と有効性を検討したDADI trialの場合,DMRを1年以上継続していることがダサチニブ中止の条件であり,63例中30例(49%)が中止6カ月の時点でDMR を維持している5)。厳重なminimal residual disease(MRD)のモニタリングと再治療の条件のもと,現在まで報告されている臨床試験の中で病期進展を示した症例は1例のみである2)。長期投与に伴う過剰な治療と晩期毒性を避け,医療経済の見地からもTFR獲得は近い将来の目標であることは間違いないが,EURO-SKIをはじめとする大規模な臨床試験により安全にTKI治療が終了できる基準が確立されるまでは臨床試験以外でTKIを中止すべきではない。
 一方,妊娠を望む女性や重篤な副作用の合併など特別な事情の場合は,厳重な定量PCRによるMRDのモニタリングを行う条件で,TKI中止を考慮しても良い。計画されていない妊娠は避けるべきであり6),計画された妊娠でも急性転化に関するリスクを十分に説明し,TKI休薬に関する同意を得なければならない。計画妊娠の場合は,STIM試験などの中止条件(3年以上のTKI 治療期間,MR4.5 より深いDMRの達成と2年以上の継続)に合致することを前提としてTKI中止を検討する。そのため,DMR を達成していないOptimal症例はTKIの変更を考慮する必要がある。イマチニブを2年以上投与し細胞遺伝学的完全奏効を得ているものの,DMRに到達していない症例に対し行ったニロチニブ400 mg BID群とイマチニブ維持群(400/600 mg QD)のランダム化比較試験(ENESTcmr)では,24カ月時のDMR(この論文ではconfirmed undetectable BCRABL1)達成率はニロチニブ切り替え群で有意に高かった(22.1%対8.7%,p=0.0087)7)。TKI中止の必要条件が合致せず妊娠した場合や,TKI中止後にMMR を失った場合は,インターフェロンαへの切り替えも考慮する。1st trimesterのTKI曝露は避けるべきであり,2nd trimester以降はやむを得ない場合に限りTKI再開が検討可能である6)
 NCCNガイドラインversion3. 2020では臨床試験以外でTKIを中止する場合,中止後の定期的モニタリングの重要性について言及している。国内のJALSGのTKI中止臨床試験においては,TKI中止後のBCR-ABL1のモニタリングは定量PCR法で定期的に(半年間は少なくとも毎月,次の半年間は2カ月に1回,その後は3カ月に1回)行い,MMRを失ったら可及的早期に治療を再開することで,安全にTKIの中止を行うことができた4)。日常診療でTKI中止を考慮しなければならない場合は,予期せぬ急性転化を避けるために,臨床試験に準じたTKI中止後の定期的モニタリングとMMRを失ったら可及的早期に治療を再開することが必須である。

参考文献

1)Mahon FX, et al. Discontinuation of imatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained complete molecular remission for at least 2 years : the prospective, multicentre Stop Imatinib(STIM) trial. Lancet Oncol. 2010 ; 11(11): 1029-35.(3iiiDiv)
2)Rousselot P, et al. Loss of major molecular response as a trigger for restarting tyrosine kinase inhibitor therapy in patients with chronic-phase chronic myelogenous leukemia who have stopped imatinib after durable undetectable disease. J Clin Oncol. 2014 ; 32(5): 424-30.(3iiiDiv)
3)Ross DM, et al. Safety and efficacy of imatinib cessation for CML patients with stable undetectable minimal residual disease : results from the TWISTER study. Blood. 2013 ; 122(4): 515-22.(3iiiDiv)
4)Takahashi N, et al. Deeper molecular response is a predictive factor for treatment-free remission after imatinib discontinuation in patients with chronic phase chronic myeloid leukemia : the JALSG-STIM213 study. Int J Hematol. 2018 ; 107(2): 185-93.(3iiiDiv)
5)Imagawa J, et al. Discontinuation of dasatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained deep molecular response for longer than 1 year( DADI trial) : a multicentre phase 2 trial. Lancet Haematol. 2015 ; 2(12): e528-35.(3iiiDiv)
6)Shapira T, et al. How I treat acute and chronic leukemia in pregnancy. Blood Rev. 2008 ; 22(5): 247-59.(レビュー)
7)Hughes TP, et al. Deep molecular responses achieved in patients with CML-CP who are switched to nilotinib after long-term imatinib. Blood. 2014 ; 124(5): 729-36.(1iiDiv)

 

CQ7 PV瀉血療法後のHt目標値を45%にすることは勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

瀉血後の目標 Ht値は45%を目指す。

解説

 PVに対する治療の目標は,赤血球の増加による循環障害を改善し,血栓症や出血を予防することである。Ht値を45%未満となるようコントロールすると血栓症発症率が低下するという報告1)から,PV患者のHt値は,瀉血によって45%未満となるようにコントロールすることが広く推奨されてきた。小数例の後方視的研究では,Ht値が48%を超えると血栓症が増加し,生存割合が低下すると報告されている2)
 アスピリン,瀉血,ヒドロキシウレアなどの細胞減少療法によるPV治療の目標Ht値に関する前方視的観察研究では,Ht値が55%未満の場合も,45%未満の場合と同程度の血栓症リスク,および生存割合であると報告されている3)。一方,高リスク患者245例を含む365例のPVを対象とした前方視的ランダム化比較試験では,Ht<45%を目標に治療する群(低Ht群)の方が,45%≦Ht≦50%を目標に治療する群(高Ht群)と比較して,心血管障害または主要血栓症による死亡が少ないと報告された4)。ただし,瀉血に加えヒドロキシウレアの投与が約半数の患者になされており,低Ht群では,Htだけではなく白血球数も高Ht群と較べ低くなっている。白血球数が下がると血栓症の頻度が低下することが知られており,そのため,純粋にHtを下げることが血栓症予防に有用であるのか,あるいはHtを下げる治療によりHtや白血球数を減少させることが有用なのかについては現時点では不明である。いずれにしても,高リスクPVに対して,アスピリンを投与することに加え,瀉血やヒドロキシウレアを用いてHt<45%を目標に治療することが勧められる。ただし,いずれの研究も欧米人を対象としたものであり,本邦にそのまま適応できるかは検討が必要である。

参考文献

1)Pearson TC, et al. Vascular occlusive episodes and venous haematocrit in primary proliferative polycythaemia. Lancet 1978 Dec 9 ; 2(8102): 1219-22.(3iiiC)
2)Crisà E, et al. A retrospective study on 226 polycythemia vera patients : impact of median hematocrit value on clinical outcomes and survival improvement with anti-thrombotic prophylaxis and non-alkylating drugs. Ann Hematol. 2010 ; 89(7): 691-9.(3iiA)
3)Di Nisio M, et al. The haematocrit and platelet target in polycythemia vera. Br J Haematol. 2007 ; 136(2): 249-59.(3iiC)
4)Marchioli R, et al. Cardiovascular events and intensity of treatment in polycythemia vera. The New England journal of medicine. 2013 ; 368(1): 22-33.(1iiDi)

 

CQ8 高リスクETにおける細胞減少療法薬は何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

ヒドロキシウレア,アナグレリドいずれも,動静脈血栓症や重篤な出血などの予防に有用である。

解説

 ET高リスク群では血栓症予防を目的として,細胞減少療法と抗血小板療法を行う。細胞減少療法薬には,ヒドロキシウレア,アナグレリド,インターフェロン(IFN)がある。このうちヒドロキシウレアはもっとも頻用される細胞減少療法薬であり,経過観察とのランダム化比較試験では,観察期間27カ月の血栓症の発症はヒドロキシウレア群3.6%,経過観察群24%と,ヒドロキシウレア投与により有意に血栓症の発症が減少している1)。ET高リスク群において,細胞減少療法薬のヒドロキシウレアとアナグレリドを直接比較した2つのランダム化比較試験が報告されている。PVSG診断基準により診断されたET で,かつ82%が既治療例である809例を対象とした試験では,アナグレリド+低用量アスピリンは,ヒドロキシウレア+低用量アスピリンより静脈血栓症のリスクは低いが,心房血栓,重篤な出血,骨髄線維症への進展頻度が高く,EFSは劣るという結論であった2)。一方,WHO分類(2008)により診断されたETで,かつ前治療歴がない初回治療253例を対象とした試験(この試験では原則単剤療法であり,アスピリンの併用は28~29%の例に行われている)では,アナグレリドはヒドロキシウレアと比べ血栓症や出血の頻度に差がなく,またEFSにも有意差を認めないという結果であった3)。現在ETの診断はWHO分類に則ることが一般的であることを考えると,高リスクET細胞減少療法の初回治療薬としてヒドロキシウレア,アナグレリドいずれも推奨される。

参考文献

1)Cortelazzo S, et al. Hydroxyurea for patients with essential thrombocythemia and a high risk of thrombosis. N Engl J ed. 1995 ; 332(17): 1132-6.(1iiDi)
2)Harrison CN, et al ; United Kingdom Medical Research Council Primary Thrombocythemia 1 Study. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005 ; 353(1): 33-45.(1iiDi)
3)Gisslinger H, et al. Anagrelide compared with hydroxyurea in WHO-classified essential thrombocythemia : the ANAHYDRET Study, a randomized controlled trial. Blood. 2013 ; 121(10): 1720-8.(1iiDi)

 

CQ9 心血管リスクファクターを有する低リスクET症例に対してアスピリン投与は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

低リスクET(60歳未満,かつ血栓症の既往がない)に対するアスピリン投与の有用性は示されていない。しかし,低リスクETのうち,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,脂質異常症,糖尿病)のある症例やJAK2変異のある症例では,抗血小板療法(低用量アスピリン75~100 mg/日)を行ってもよい。

解説

 高リスクET(60歳以上,または血栓症の既往がある)では,ヒドロキシウレアと低用量アスピリン投与が血栓症の発症を有意に抑制した1)が,低リスクET(60歳未満,かつ血栓症の既往がない)に対する抗血小板療法の有用性はこれまで不明であった。低リスクET患者を対象とした無治療経過観察群と抗血小板療法群(アスピリン投与を含む)における血栓症発症頻度の後方視的解析によると,抗血小板療法による血栓予防効果は認められていない2)。しかし,低リスクET患者の中で,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,脂質異常症,糖尿病)のある患者,JAK2変異のある患者に限定したサブ解析では,抗血小板療法により血栓症の発症リスクが低下していた。一方,CALR変異陽性低リスクET患者を対象とした後方視的解析では,低用量アスピリンは血栓症のリスクは低下させず,出血のリスクを増加させる結果であった3)。以上より,低リスクETでもJAK2変異陽性もしくは心血管リスクファクターを有する場合には,抗血小板療法を行ってもよい2)。一方,それ以外の低リスクET患者では,抗血小板療法に出血リスクを許容する有益性は見出せない。特にCALR変異陽性低リスク症例での投与は,出血リスクの増大につながるとの報告もあることに留意が必要である3)

参考文献

1)Harrison CN, et al ; United Kingdom Medical Research Council Primary Thrombocythemia 1 Study. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005 ; 353(1): 33-45.(1iiDi)
2)Alvarez-Larrán A, et al. Observation versus antiplatelet therapy as primary prophylaxis for thrombosis in low-risk essential thrombocythemia. Blood. 2010 ; 116(8): 1205-10.(3iiC)
3)Alvarez-Larrán, et al. Antiplatelet therapy versus observation in low-risk essential thrombocythemia with CALR mutation. Haematologica. 2016 ; 101(8): 926-31.(3iiC)

 

CQ10 若年者低リスクPV/ET症例に対してヒドロキシウレアによる治療介入は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー4

60歳未満の低リスクPV/ET症例に対し,ヒドロキシウレアの有効性は示されていない。また,急性白血病化または二次がんの頻度を増加させる可能性が否定できないため,60歳未満の低リスクPV/ET症例に対しヒドロキシウレアによる治療介入は推奨されない。

解説

 ヒドロキシウレアはPV/ETの細胞数減少に有用であり,高リスク症例に対しては,ヒドロキシウレア+低用量アスピリンの血栓症,出血予防に対する有用性が示されている1)。低リスク症例に対しての有用性は不明であったが,40~59歳,血栓症・出血の既往なし,血小板数<150万/μLのいわゆる低リスクETを対象としたアスピリン単独とヒドロキシウレア+低用量アスピリンの有用性を比較する第Ⅲ相試験の結果が最近報告された2)。主要評価項目である動脈/静脈血栓症,重篤な出血,血栓症/出血による死亡などのイベントがない状態での生存率は両群に差はなく,また総生存率にも有意差を認めていないことから,低リスクETに対しヒドロキシウレアによる治療介入は推奨されない。
 ブスルファンなどのアルキル化剤の二次発がんはよく知られているが,ヒドロキシウレアの二次発がんについても懸念されている。ETに対する化学療法による二次がんとしてはAML/MDSのほか非ホジキンリンパ腫(non Hodgkin lymphoma:NHL)などのリンパ系腫瘍,非血液腫瘍としては肺がん,大腸がん,腎がん,膀胱がん,前立腺がんなどさまざまな固形がんが報告されている。しかし,ヒドロキシウレア単剤による治療介入が無治療群と比較し二次発がんを増加させるかは不明である(11.2% vs 7.3%)3)。また,PV/ETの自然史として急性白血病化が知られているが,治療介入によりその頻度が増加するか否かが治療選択を行う上で重要なポイントとなる。11,039症例の大規模なスウェーデンのコホート研究では2.6%がAML/MDSに転化したが,ヒドロキシウレアの投与歴により有意にリスクが増加することはなかった4)
 初発PVに関しては,ヒドロキシウレア単剤とコントロール群のランダム化比較試験がないものの,ヒドロキシウレアによる二次がんのリスクを考え,多くの臨床医は60歳以上または血栓症の既往がある症例を選んでヒドロキシウレアを使っている5)。以上より若年者低リスクPV/ET症例に対してヒドロキシウレアによる治療介入は勧められない。

参考文献

1)Harrison CN, et al ; United Kingdom Medical Research Council Primary Thrombocythemia 1 Study. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005 ; 353(1): 33-45.(1iiDi)
2)Godfrey AL, et al. Hydroxycarbamide plus aspirin versus aspirin alone in patients with essential thrombocythemia age 40 to 59 years without high-risk features. J Clin Oncol. 2018 ; 36(34): 3361-9.(1iiC)
3)Radaelli F, et al. Second malignancies in essential thrombocythemia(ET): a retrospective analysis of 331 patients with long-term follow-up from a single institution. Hematology. 2008 ; 13(4): 195-202.(3iiC)
4)Björkholm M, et al. Treatment-related risk factors for transformation to acute myeloid leukemia and myelodysplastic syndromes in myeloproliferative neoplasms. J Clin Oncol. 2011 ; 29(17): 2410-5.(3iC)
5)Barbui T, et al. Philadelphia-negative classical myeloproliferative neoplasms : critical concepts and management recommendations from European LeukemiaNet. J Clin Oncol. 2011 ; 29(6): 761-70.(レビュー)

 

CQ11 妊娠合併ETに対して流産を減少させるための治療介入は勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2B

流産を減らすことができる可能性があるため,少量アスピリンによる治療介入を推奨する。

解説

 妊娠合併ETでは合併症として妊娠早期の流産が多く,稀に母体の出血や血栓症が報告されている。EXELS(Evaluation of Anagrelide Efficacy and Long-term Safety)試験では,54件のET症例における妊娠が登録され,生産率(Live Birth)は75.9% であった1)。一方,最近のイギリスでの前向き調査では,58件の骨髄増殖性腫瘍合併妊娠(うち47件がET合併)において,流産と死産はそれぞれ1例のみであり,過去の報告と比べ流産・死産の合併率が低い結果であった2)
 妊娠合併ETについての,治療介入の有無によるランダム化比較試験はない。しかしながら,妊娠合併ETのシステマティックレビューでは,リスクを問わず妊娠合併ETに対しての少量アスピリンの有用性について言及されている2, 3)。特にJAK2V617Fは妊娠合併ETにおいて合併症を引き起こす独立した要因であり,JAK2V617F変異を認める場合は積極的な介入が必要とされる4)。また,出産の1~2週前にはアスピリンを中止し,出産後出血がないことを確認した後,アスピリンを再開し6週間は継続することが推奨されている5)
 別の後方視的な検討においては,インターフェロンαが,胎児死亡を有意に減らすと報告されている。特にJAK2V617F変異は流産をきたす独立した予後不良因子であり,インターフェロンαで血小板数を減らすことにより合併症を回避できる可能性が指摘されている6)。インターフェロンの中でもPEG-インターフェロンαは認容性が高く,また正常出産に至る率が高いことが症例集積研究で示されている3)JAK2V617F変異を有する高リスク症例に対しては少量アスピリン+インターフェロンα(保険適用外)による治療介入も考慮される。ET合併妊娠では,深部静脈血栓症のリスクも知られており,特に出産後の合併率が3% を超えるため,この期間における低分子ヘパリン(保険適用外)の使用を推奨する報告もある7)

参考文献

1)Birgegård G, et al. Treatment of essential thrombocythemia in Europe: A prospective long-term observational study of 3649 high-risk patients in the evaluation of anagrelide efficacy and long-term safety study. Haematologica. 2018 ; 103(1): 51-60.(3iiiC)
2)Alimam S, et al. Pregnancy outcomes in myeloproliferative neoplasms: UK prospective cohort study. Br J Haematol. 2016 ; 175(1): 31-6.(3iC)
3)Beauverd Y, et al. Pegylated interferon alpha-2a for essential thrombocythemia during pregnancy : outcome and safety. A case series. Haematologica. 2016 ; 101(5): e182-4.(3iiiC)
4)Passamonti F, et al. Aspirin in pregnant patients with essential thrombocythemia : a retrospective analysis of 129 pregnancies. J Thromb Haemost. 2010 ; 8(2): 411-3.(3iiC)
5)Griesshammer M, et al. Management of Philadelphia negative chronic myeloproliferative disorders in pregnancy. Blood Rev. 2008 ; 22(5): 235-45.(レビュー)
6)Melillo L, et al. Outcome of 122 pregnancies in essential thrombocythemia patients : A report from the Italian registry. Am J Hematol. 2009 ; 84(10): 636-40.(3iiC)
7)Skeith L, et al. Risk of venous thromboembolism in pregnant women with essential thrombocythemia : A systematic review and meta-analysis. Blood. 2017 ; 129(8): 934-9.(3iiiC)

 

CQ12 高リスク,中間-Ⅱリスク原発性骨髄線維症に対する治療法は何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2B

若年で合併症がなく適切なドナーが有る場合には同種造血幹細胞移植を,移植非適応で脾腫や全身症候を伴う場合にはルキソリチニブを推奨する。

解説

 現時点では,原発性骨髄線維症(PMF)を根治させうる治療は同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)のみである。allo-HSCTを行った症例と行わなかった症例について,生存率を後方視的に解析した研究では,DIPSSで中間-Ⅱ以上でかつ65歳未満のPMF症例では,allo-HSCTにより死亡リスクが減少することが示されている1)。このため,DIPSSで中間-Ⅱ以上で65歳未満であれば,allo-HSCTを行うことが推奨される。しかしながら,通常の骨髄破壊的前処置では治療関連死率が30~40%と高いこと,またPMF例の多くは高齢で発症するため適応症例が限られることなどの問題が指摘されている2)。一方で,骨髄非破壊的前処置を用いることにより,移植関連死亡率が低下するとされるが,逆に生着不全や再発率が高くなるとの懸念もある。これまでに,骨髄破壊的前処置と非破壊的前処置について前方視的に検証された臨床試験は行われておらず,後方視的解析が報告されているのみである。Guptaらの報告では,骨髄非破壊的前処置を受けた群の方が,年齢が高くまた罹病期間が長かったにも関わらず,両群の間で移植後の再発率や生存率に相違は認めないとの結果であった3)
 PMFに対するallo-HSCT以外の治療の選択肢としては,JAK1/JAK2阻害薬ルキソリチニブがある。ルキソリチニブは脾臓縮小率をプライマリー・エンドポイントとした2つの第Ⅲ相ランダム化比較試験において,プラセボもしくは既存治療に対して優位性を示した4, 5)。全身症候についてもルキソリチニブ群で有意な改善が認められた。さらに,長期観察の結果からは,ルキソリチニブは全生存割合の改善にも寄与することが示唆されている6)。ルキソリチニブとallo-HSCTについて,生存への優位性を直接比較した研究は発表されていない。
 以上の結果からは,高リスクおよび中間-ⅡリスクMFに対する治療としては,若年で合併症がなく適切なドナーが得られる場合には,allo-HSCTが推奨される。移植非適応症例については,脾腫や全身症候を伴う場合にはルキソリチニブが勧められる。

参考文献

1)Kröger N, et al. Impact of allogeneic stem cell transplantation on survival of patients less than 65 years of age with primary myelofibrosis. Blood. 2015 ; 125(21): 3347-50.(3iiiA)
2)Kröger NM, et al. Indication and management of allogeneic stem cell transplantation in primary myelofibrosis : a consensus process by an EBMT/ELN international working group. Leukemia. 2015 ; 29(11): 2126-33.(レビュー)
3)Gupta V, et al. A retrospective comparison of conventional intensity conditioning and reduced-intensity conditioning for allogeneic hematopoietic cell transplantation in myelofibrosis. Bone Marrow Transplant. 2009 ; 44(5): 317-20.(3iiiA)
4)Verstovsek S, et al. A double-blind, placebo-controlled trial of ruxolitinib for myelofibrosis. N Engl J Med. 2012 ; 366(9): 799-807.(1iDiv)
5)Harrison C, et al. JAK inhibition with ruxolitinib versus best available therapy for myelofibrosis. N Engl J Med. 2012 ; 366(9): 787-98.(1iiDiv)
6)Vannucchi AM, et al. A pooled analysis of overall survival in COMFORT-I and COMFORT-II, 2 randomized phase III trials of ruxolitinib for the treatment of myelofibrosis. Haematologica. 2015 ; 100(9): 1139-45.(1iiA)

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