日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版

第Ⅰ章 白血病

Ⅰ 白血病

2 急性前骨髄球性白血病
(acute promyelocytic leukemia:APL)

総論

1.疾患概念
 急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)の一病型である。骨髄および末梢血液において独特の細胞形態を有する前骨髄球の腫瘍性増殖が観察される。正常造血の抑制による貧血,感染症および出血に加えて,APL細胞に由来する線溶亢進型播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)による強い出血傾向を特徴とする。大半の症例においてt(15;17)(q22:q21)由来のキメラ遺伝子PML-RARAが陽性である1, 2)。AMLの10~15%を占め,30~50歳代に多く,60歳以上で減少する。抗がん薬治療後の二次性 APL症例も少ないながら経験される。染色体転座t(15;17)由来のPML-RARαキメラ蛋白に対する分子標的薬である全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)と亜ヒ酸(arsenic trioxide:ATO)の登場によりAPLの治療成績は飛躍的に向上した3)

2.分類
 French-American-British(FAB)分類のM3およびM3 variant(M3v)に相当する。M3は豊富なアズール顆粒を有し,核不整が強く,またアウエル小体を多数認めるファゴット細胞が出現するので形態診断は容易である。一方,M3vは顆粒やアウエル小体を欠き,形態診断は困難なことが多く,白血球数も増加例が多い。芽球がMPO強陽性でDICを伴う場合には疑うことが重要である。M3はCD13,CD33陽性,HLA-DR,CD34陰性である。M3vはHLA-DR,CD34陽性が多い。また,T細胞抗原であるCD2陽性も多い。
 WHO分類(2017)では反復性染色体異常PML-RARAを伴うAPLとされる1)。APLの治療において最も重要な点は,ATRAやATOの有効性の有無である。細胞形態によりAPLと診断される症例の92%はt(15;17)陽性である。複雑核型などを含めるとPML-RARA陽性例は 98%を占める2)。残るわずかな症例の多くは,ZBTB16などの特定の遺伝子が17番染色体上のRARAと転座する亜型であり(表1),variant RARA translocationsとされる1)PML-RARAのFISH検査で融合シグナルは陰性であるが,RARAを3シグナル認めるときは他のキメラ遺伝子の存在を疑って検索する必要がある。ATRAの有効性は染色体転座により異なり,t(11;17)/PLZFZBTB16)-RARAとt(17;17)/STAT5B-RARAには無効とされる。ATOは PMLを標的とし,PML-RARA陽性例のみ有効である。したがって,APLの診断では,FISH法やRT-PCR法によりPML-RARAを早期に確認することが重要である。また,M3vは形態診断が困難な場合が多く,PML-RARAの検出は必須である。
 t(15;17)転座に加えて,その他の遺伝子異常がAPLの発症に関与している可能性が高い。最近の網羅的遺伝子解析により165例の診断時APL細胞において,FLT3-ITD(27 %),FLT3(16%),WT1(14%),NRAS(10%),KRAS(4%),ARIA1A(4.8%),ARID1B(3%)の遺伝子変異を認めている4)FLT3-ITDはM3vや白血球高値,PMLの切断点bcr3と相関する。これらの主にシグナル伝達経路の活性化変異はPML-RARAと協調して発症に関与していると考えられる。興味深いことに,他のAMLで頻度が高いDNMT3ANPM1TET2ASXL1およびIDH1/2などの異常の頻度はAPLでは低い。

表1 APLの染色体転座に由来する融合遺伝子とATRAおよび亜ヒ酸の反応性

染色体転座 融合遺伝子 頻度 ATRAの反応性 ATOの反応性
t(15;17)(q22;q21) PML-RARA >98%
t(11;17)(q23;q21) PLZF(ZBTB16)-RARA 0.8%
t(5;17)(q35;q21) NPM1-RARA <0.5%
t(11;17)(q13;q21) NuMA-RARA
t(17;17)(q11;q21) STAT5B-RARA
t(4;17)(q12;q21) FIP1L1-RARA
cryptic PRKAR1A-RARA
t(x;17)(q11;q21) BCOR-RARA
t(2;17)(q32;q21) OBFC2A-RARA
t(3;17)(q26;q21) TBLR1-RARA

3.予後
 APLの治療成績はATRAの登場により飛躍的に向上した。さらに,ATOはATRA療法後の再発例に有効で,高い再寛解が得られる。最近,初発例における両者の併用療法の高い有用性が報告されている。
 ATRAと化学療法による治療では,70歳未満では90%以上の完全寛解が期待される3)。非寛解の主因はDICによる臓器出血とAPL分化症候群(differentiation syndrome:DS)である。ATRAと化学療法による初回治療例では治療抵抗例は稀である。化学療法による2~3コースの地固め療法中の骨髄抑制期の感染症による非再発死亡(non-relapse mortality:NRM)が特に高齢者に少なからず経験される。また,25%前後の累積再発(cumulative incidence of relapse:CIR)があり,大きな課題である。再発後はATOにより80~90%以上に再寛解が得られる。ATRAと化学療法による無再発生存割合(relapse-free survival:RFS)は60~80%,全生存割合(overall survival:OS)は80%前後が期待される。60ないしは70歳以上の高齢者では出血や感染症などの合併症が多く,年齢とともに寛解率は低下する。また,地固め療法中の感染症死も高齢者に多い。
 ATRAと化学療法におけるAPL治療の課題は,DICに伴う臓器出血とDSによる寛解導入療法中の早期死亡,地固め療法中の骨髄抑制期の感染症死および再発である。APLの無病生存に対する予後因子は年齢と治療前白血球数である。約1/4を占める治療前白血球数10,000/μL以上例が高リスク群である5)。白血球数10,000/μL以下が標準リスクとされる。治療前血小板数40,000/μL以上は低リスク,血小板数40,000/μL以下は中間リスクとする分類もあるが6),一般に高リスクと残りの標準リスクに分けて治療が行われる。初発例に対するATRAとATO併用療法における予後因子はまだ確立されていないが,白血球数によるリスク分類により層別化治療が行われている。また,CD56陽性は白血球数とは独立した再発の予後不良因子である7)。CD56陽性APLは全APLの11~15%に認められ,ATRAと化学療法実施例におけるCIRはCD56陽性例で有意に高かった。接着因子CD56陽性例では髄外再発も多いとされる。
 骨髄細胞のPML-RARAは分子レベルの寛解の判定に有用である。寛解時には半数が陽性であるが,地固め療法終了時には陰性化させる必要がある8)。経過観察時に再陽性化例は分子レベルの再発として早期の治療再開が勧められる。
 ATRAと化学療法の課題はATOの初期治療への導入により改善される可能性が高い(国内保険適用外)。ATOは骨髄抑制が軽く,寛解導入中の出血や地固め療法中の感染症が少ない。さらに,PML-RARαキメラ蛋白のATRAとの相乗的な分解作用によりCIRの低下が期待される。ATRAとATOによりAPL治療には抗がん薬の化学療法は不要ではないかという夢のある考え方もある。

参考文献

1)Arber DA, et al. Acute myeloid leukaemia with recurrent genetic abnormalities. Acute promyelocytic leukaemia with PML-RARA. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, Lyon, IARC ; 2017 : pp134-6.(テキストブック)
2)Grimwade D, Lo Coco F. Acute promyelocytic leukemia : a model for the role of molecular diagnosis and residual disease monitoring in directing treatment approach in acute myeloid leukemia. Leukemia. 2002 ; 16(10): 1959-73.
3)Sanz MA, et al. Management of acute promyelocytic leukemia : recommendations from an expert panel on behalf of the European LeukemiaNet. Blood. 2009 ; 113(9): 1875-91.(ガイドライン)
4)Madan V, et al. Comprehensive mutational analysis of primary and relapse acute promyelocytic leukemia. Leukemia. 2016 ; 30(8): 1672-81.
5)Asou N, et al. Analysis of prognostic factors in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and chemotherapy. Japan Adult Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 1998 ; 16(1): 78-85.(3iiDii)
6)Sanz MA, et al. Definition of relapse risk and role of nonanthracycline drugs for consolidation in patients with acute promyelocytic leukemia : a joint study of the PETHEMA and GIMEMA cooperative groups. Blood. 2000 ; 96(4): 1247-53.(3iiDii)
7)Grimwade D, et al. Prospective minimal residual disease monitoring to predict relapse of acute promyelocytic leukemia and to direct pre-emptive arsenic trioxide therapy. J Clin Oncol. 2009 ; 27(22): 3650-8.(3iiDii)
8)Montesinos P, et al. Clinical significance of CD56 expression in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline-based regimens. Blood. 2011 ; 117(6): 1799-805.(3iiDii)

 

アルゴリズム

 APLの診断(CQ1)ではFISHやRT-PCR法によるPML-RARAの検出が重要である。t(15;17)以外の転座では全トランス型レチノイン酸(ATRA)や亜ヒ酸(ATO)の反応性が異なるからである。APLの初期治療においては凝固異常に伴う脳出血と肺出血による早期死亡が非寛解の主因となるので凝固検査を頻回に行う必要がある。APLの無病生存割合(disease-free survival:DFS)における高リスク群は治療前白血球数10,000/μL以上である。
 初発APLの寛解導入療法(CQ2)ではATRAと化学療法の併用が標準治療である。初回寛解導入療法では治療抵抗例はほとんどなく,出血とAPL分化症候群などによる早期死亡が非寛解の主因である。したがって,出血予防(CQ3)とAPL分化症候群対策(CQ4)が重要である。最近,初発APLの寛解導入および地固め療法におけるATRAとATOの併用療法の高い有効性が報告されている(CQ1)(国内保険適用外)。
 血液学的寛解が得られた後,2ないし3コースの化学療法からなる地固め療法(CQ5)を行い,RQ-PCR法を用いた骨髄細胞のPML-RARA陰性化による分子生物学的寛解への到達を目指す。地固め療法におけるATRAの併用やATOの導入が試みられている。
 維持療法(CQ6)としての多剤併用化学療法は予後を改善しない。ATRA単独療法やATRAにメトトレキサート(MTX)/メルカプトプリン(6MP)を併用した維持療法の有効性が報告されているが,その効果は地固め療法までの治療にも影響される。タミバロテン(Am80)とATRAによる維持療法の比較試験では高リスク群においてAm80が優れていた。
 再発時(CQ7)の第一選択はATO治療である。血液学的再発では出血やAPL分化症候群も合併しやすく,PML-RARAのみ陽性の分子生物学的再発のうちに治療を行うのがよい。再寛解後(CQ8),亜ヒ酸による地固め療法を行い,骨髄PML-RARAが陽性ならば同種造血幹細胞移植,陰性化すれば自家造血幹細胞移植が勧められる。移植の適応がない場合はATO治療後の再発例にも有効なゲムツヅマブ オゾガマイシン(GO)が勧められる。
 その他,高齢者(CQ9)のAPLの治療についても記述する。

 

CQ1 初発APLの治療開始前に行うべき検査と予後因子は何か

推奨グレード
カテゴリー2A

FISH法やRT-PCR法によるPML-RARAの早期診断が勧められる。

推奨グレード
カテゴリー2B

臓器出血による早期死亡の予防のために頻回の凝固検査が勧められる。

推奨グレード
カテゴリー1

予後因子である治療前白血球数とCD56により治療戦略を立てることが勧められる。

解説

 APLの治療において最も重要な点は,全トランス型レチノイン酸(ATRA)や亜ヒ酸(ATO)の有効性の有無である1)。細胞形態や細胞化学により APLと診断される症例の大半はt(15;17)陽性である。複雑核型などでマスクされる例も含めて,ATRA,ATOともに有効なPML-RARA陽性例は98%を占める。残るわずかな症例の多くは,ZBTB16などの特定の遺伝子が17番染色体上の RARAと転座する亜型である 2)。ATRAの有効性は染色体転座によって異なり,t(11;17)/PLZFZBTB16-RARAとt(17;17)/STAT5B-RARAには無効である。ATOは PMLを標的とするのでPML-RARA陽性例のみ有効である。したがって,APLにおいては,FISH法やRT-PCR法によりPML-RARAを早期に検出することが重要である。また,M3vは形態診断が困難な場合も多く,PML-RARAの検出は必須である。さらに,PML-RARAはその後の微少残存病変の検出に欠かせない。地固め療法後の有無は治療方針を左右するので診断時にその有無を確認する必要がある3)
 初発APLのATRAと化学療法による治療では治療抵抗例はほとんどなく,出血とAPL分化症候群(DS)による早期死亡が非寛解の主因である1)。DSを予測する指標はないが,早期発見に努めて早期治療を行う必要がある(CQ3)。また,頻回に凝固検査を行って出血の予防を行うことが重要である(CQ4)。
 APLの無病生存に対する予後因子は治療前白血球数である。ATRAと化学療法の併用における高リスク群は白血球数10,000/μL以上である4, 5)。治療前血小板数40,000/μL以上は低リスク,血小板数40,000/μL以下は中間リスクとする分類もあるが5),一般に高リスクと残りの標準リスクに分けて治療が行われる。初発例に対するATRAとATO併用療法における予後因子はまだ確立されていないが,白血球数によるリスク分類により層別化治療が行われている。また,白血球数と独立した再発の予後不良因子としてCD56陽性がある6, 7)。CD56陽性APLは11~15%に認め,ATRAと化学療法における累積再発率(cumulative incidence of relapse:CIR)はCD56陰性例と比較してCD56陽性例で有意に高かった。

参考文献

1)Sanz MA, et al. Management of acute promyelocytic leukemia : recommendations from an expert panel on behalf of the European LeukemiaNet. Blood. 2009 ; 113(9): 1875-91.(ガイドライン)
2)Grimwade D, et al. Characterization of acute promyelocytic leukemia cases lacking the classic(t 15;17): results of the European Working Party. Groupe Français de Cytogénétique Hématologique, Groupe de Français d’Hematologie Cellulaire, UK Cancer Cytogenetics Group and BIOMED 1 European Community-Concerted Action“ Molecular Cytogenetic Diagnosis in Haematological Malignancies”. Blood. 2000 ; 96(4): 1297-308.(3iiDiv)
3)Grimwade D, et al. Prospective minimal residual disease monitoring to predict relapse of acute promyelocytic leukemia and to direct pre-emptive arsenic trioxide therapy. J Clin Oncol. 2009 ; 27(22): 3650-8.(3iiDii)
4)Asou N, et al. Analysis of prognostic factors in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and chemotherapy. Japan Adult Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 1998 ; 16(1): 78-85.(3iiDii)
5)Sanz MA, et al. Definition of relapse risk and role of nonanthracycline drugs for consolidation in patients with acute promyelocytic leukemia : a joint study of the PETHEMA and GIMEMA cooperative groups. Blood. 2000 ; 96(4): 1247-53.(3iiDii)
6)Ferrara F, et al. CD56 expression is an indicator of poor clinical outcome in patients with acute promyelocytic leukemia treated with simultaneous all-trans-retinoic acid and chemotherapy. J Clin Oncol. 2000 ; 18(6): 1295-300.(3iiA)
7)Montesinos P, et al. Clinical significance of CD56 expression in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline-based regimens. Blood. 2011 ; 117(6): 1799-805.(3iiDii)

 

CQ2 初発APLの寛解導入療法として何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー1

初発APLの初回寛解導入療法として,ATRAとアントラサイクリン系を主体とした化学療法の併用が薦められる。

推奨グレード
カテゴリー1

初発APLの初回寛解導入療法において,ATRAと亜ヒ酸を併用した治療はATRAとアントラサイクリン系を主体とした化学療法に遜色はない(国内保険適用外)。

解説

 上海の研究グループがAPL例に対し全トランス型レチノイン酸(ATRA)単剤での高い完全寛解率を報告し1),ヨーロッパ,米国,本邦の研究グループが,大規模臨床試験でその優れた治療成績を確認して以来2-4),ATRAと化学療法の併用は初発APLの標準治療として定着している。初発APLの寛解導入療法として,ATRAにアントラサイクリン系薬剤を主体とした化学療法を併用した場合,CR率は90~95%に達する。
 ATRAとアントラサイクリン系薬剤に加えて,シタラビン(AraC)を追加する必要性についての結論は出ていない。ヨーロッパAPL2000研究では,治療前白血球数10,000/μL以下の初発APLを対象に,AraC追加の有無による比較試験を行い,CR率は同等であったものの,2年累積再発率(cumulative incidence of relapse:CIR),EFS,全生存割合(OS)いずれもAraC併用群が有意に優れていたと報告した5)。一方,このAPL2000研究とアントラサイクリン系のみをATRAに併用するPETHEMA研究(AIDA療法)との統合解析では,白血球数10,000/μL以下の症例ではPETHEMA治療の方が3年CIRは有意に低かった6)
 本邦JALSG(Japan Adult Leukemia Study Group)で行われたAPL204試験では,治療前白血球数と末梢血APL細胞数(骨髄芽球+前骨髄球数)に応じて併用する化学療法を層別化する寛解導入療法を行い,良好な治療成績を得た。本試験で用いられたプロトコールは本邦における現時点での初発APLに対する標準治療と考えられる。しかしながら,治療前白血球数10,000/μL以上の群の治療成績は十分なものでなく,この高リスク群への治療アプローチは今後の課題である7)
 近年,ATRA+ATO併用療法の有効性と安全性について検討した第Ⅲ相比較試験の結果が2つのグループから報告されている。GIMEMAを中心とするグループは,18~71歳の低~中間リスクの初発APLを対象に,AIDA療法に対するATRA+ATO併用療法の非劣性を検証し,CR率で有意差はみられなかったものの,2年EFSの非劣性のみならず,直接比較でも50カ月のEFS,OS,CIRともATRA+ATO併用療法の方が有意に良好な成績であった。有害事象の比較では,ATO併用群で血液毒性および感染症の発現率は低く,QTc延長・肝毒性の発現率は高かった8, 9)。英国MRCは,16~77歳のすべてのリスクの初発APLを対象に同様の比較試験を行い,CR率で有意差はみられなかったが,血液学的寛解後4年のCIRはATRA+ATO併用療法の方が有意に良好な治療成績であった10)。MDアンダーソンがんセンターからも初発APLに対して,ATRAとATO併用による良好な治療成績が報告されている11)。2020年8月現在,ATOは初発APLに対する保険適用はないが,ATRAとATOの併用療法は,ATRAとアントラサイクリン系を主体とした化学療法に遜色はないと考えられる。

参考文献

1)Huang ME, et al. Use of all-trans retinoic acid in the treatment of acute promyelocytic leukemia. Blood. 1988 ; 72(2): 567-72.(3iiDiv)
2)Fenaux P, et al. Effect of all transretinoic acid in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Results of a multicenter randomized trial. European APL 91 Group. Blood. 1993 ; 82(11): 3241-9.(1iiDi)
3)Tallman MS, et al. All-trans-retinoic acid in acute promyelocytic leukemia. N Engl J Med. 1997 ; 337(15): 1021-8.(1iiA)
4)Kanamaru A, et al. All-trans retinoic acid for the treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Japan Adult Leukemia Study Group. Blood. 1995 ; 85(5): 1202-6.(2Di)
5)Adès L, et al. Is cytarabine useful in the treatment of acute promyelocytic leukemia? Results of a randomized trial from the European Acute Promyelocytic Leukemia Group. J Clin Oncol. 2006 ; 24(36): 5703-10.(1iiDii)
6)Adès L, et al. Treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia(APL): a comparison of French-Belgian-Swiss and PETHEMA results. Blood. 2008 ; 111(3): 1078-84.(3iiiDi)
7)Shinagawa K, et al. Tamibarotene as maintenance therapy for acute promyelocytic leukemia : results from a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2014 ; 32(33): 3729-35.(1iiDiv)
8)Lo-Coco F, et al. Retinoic acid and arsenic trioxide for acute promyelocytic leukemia. N Engl J Med. 2013 ; 369(2): 111-21.(1iiDi)
9)Platzbecker U, et al. Improved Outcomes With Retinoic Acid and Arsenic Trioxide Compared With Retinoic Acid and Chemotherapy in Non-High-Risk Acute Promyelocytic Leukemia : Final Results of the Randomized Italian-German APL0406 trial. J Clin Oncol. 2017 ; 35(6): 605-12.(1iiDi)
10)Burnett AK, et al. Arsenic trioxide and all-trans retinoic acid treatment for acute promyelocytic leukaemia in all risk groups(AML17): Results of a randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2015 ; 16(13): 1295-305.(1iiDi)
11)Abaza Y, et al. Long-term outcome of acute promyelocytic leukemia treated with all-trans-retinoic acid, arsenic trioxide, and gemtuzumab. Blood. 2017 ; 129(10): 1275-83.(3iiA)

 

CQ3 初発APLの寛解導入療法におけるDIC対策として何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

寛解導入療法中の出血予防には,血小板輸血により血小板数30,000~50,000/μL以上,凍結血漿によりフィブリノゲン150 mg/dL以上に保つ補充療法が勧められる。

推奨グレード
カテゴリー2A

ヘパリンによる抗凝固療法の効果は証明されていない。

推奨グレード
カテゴリー2A

ATRAとトラネキサム酸などによる抗線溶療法の併用は,血栓症の危険が増すため勧められない。

推奨グレード
カテゴリー3

遺伝子組換えトロンボモジュリンによる治療は検討に値する。

解説

 APLでは,その細胞中に含まれる組織因子やcancer procoagulantによる,外因系凝固の活性化とともに,細胞表面のannexinⅡ高発現による線溶系の活性化が同時に起こっており,主として出血傾向の強い線溶亢進型のDICが出現する。
 初発APLの寛解導入療法での非寛解の最大の原因はDICによる臓器出血である。JALSG APL97研究では非寛解例の半数以上が脳出血などの臓器出血による早期死亡であった1)。スウェーデンの疫学調査でも初発APLの多数例が臓器出血により早期死亡していると報告されている2)
 JALSG APL97研究の臓器出血に関するサブ解析では,臓器出血の高リスク因子は低フィブリノゲン血症(<100 mg/dL,)白血球数高値(>20,000/μL)および全身状態(performance status:PS)2~3であった1)。APLのDICに対しては,血小板輸血により血小板数をできれば50,000/μL以上,少なくとも30,000/μL以上,凍結血漿によりフィブリノゲン150 mg/dL以上を目標とする補充療法が推奨される。
 ATRAが登場する以前の化学療法時代に,臓器出血予防として,血小板およびフィブリノゲンの補充療法のみ,ヘパリンによる抗凝固療法,トラネキサム酸等による抗線溶療法の3群による後方視的比較解析が行われたが,寛解率,出血による早期死亡率に有意差を認めなかった3)。PETHEMA研究では,トラネキサム酸はATRAと併用することで血栓症のリスクが増大する傾向が示されている4)。低分子ヘパリン,ダナバロイドナトリウム,メシル酸ガベキサートやメシル酸ナファモスタットの合成蛋白分解酵素阻害薬による抗凝固療法については,大規模症例集積報告や比較試験の報告はない。
 遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)による治療は,実地診療下でのAPL由来DIC患者に広く使用されている。rTMは,APL細胞表面のannexinⅡの発現量を減少させるとともに,トロンビンの存在下でプロテインCを活性化し,凝固反応を抑制することから,APLに対するDICに投与することは理にかなっている。少数例での後方視的検討では,rTMによりDICからの早期離脱や輸血量の低減効果が報告されている5)
 ATRA自体もAPLの凝固異常を直接および間接的に改善することから,臨床的にAPLが疑われた場合にはPML-RARAの結果を待たずに早期にATRAを含む治療を開始することは出血予防につながる6)

参考文献

1)Yanada M, et al. Severe hemorrhagic complications during remission induction therapy for acute promyelocytic leukemia : incidence, risk factors, and influence on outcome. Eur J Haematol. 2007 ; 78(3): 213-9.(3iiDi)
2)Lehmann S, et al. Continuing high early death rate in acute promyelocytic leukemia : a population-based report from the Swedish Adult Acute Leukemia Registry. Leukemia. 2011 ; 25(7): 1128-34.(3iiDiv)
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CQ4 APL分化症候群の治療は何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

APL分化症候群(differentiation syndrome:DS)は早期発見と,疑い段階からの副腎皮質ステロイドの早期開始が推奨される。

推奨グレード
カテゴリー2A

DSの重症例では,ATRA,ATOの投与を中止する。

解説

 APL分化症候群(differentiation syndrome:DS)は,ATRAやATO投与によりAPL細胞のインテグリンの発現が亢進し組織内に遊走しやすくなるとともに,分化誘導に伴って種々のケモカインが放出され,臓器障害をきたすことにより,発症すると考えられている。初発APLでのDSの発生率は2.5~26%であり,全症例に対する死亡率は0~3.4%である。DSの発現日(診断日)は,治療開始から中央値7~11日(0~47日)である。頻度の高い症候は,①頻呼吸,呼吸困難,低酸素血症(SpO2の低下),②不明熱,③体重増加,④浮腫,⑤血圧低下,⑥急性腎不全,うっ血性心不全,⑦肺浸潤影,胸水,心嚢水(胸部X線,CTなど)である1-3)
 寛解導入療法では初診時白血球数の少ない症例でATRA単独治療中の場合,白血球増加がみられれば速やかに化学療法を追加する。初診時白血球数とDSの発症率の相関については不明である。LPA96とLPA99の併合研究では,中等症のDSは初診時白血球数10,000/μL以上,重症DSは5,000/μL以上が有意な発症危険因子とされたが1),APL93研究2),Intergroup 0129研究3)では有意な因子とはなっていない。BMI高値は有意な発症危険因子である4)
 DSの治療では,できるだけ早期にデキサメタゾン(DEX)10 mgを1日2回経静脈的に投与開始することが重要である。呼吸器症状や画像所見の出現したDSやDEXの効果が見られなかった場合は,ATRAや亜ヒ酸(ATO)を休薬する5)。ATRAやATOの再開は症状が完全に消失してからとし,再開時は初回量の75%とし,3~5日間症状が再燃しないことを確認してから元の量に戻していく。
 APL2000研究では,ATRAによる寛解導入療法時に初診時白血球数10,000/μLを超える症例にDEX 10 mg×2/日を最低3日間併用したところ,DEXを併用していないAPL93研究に比べてDSによる死亡率が減少したことを報告した6)。またLPA99研究では,プレドニゾロン0.5 mg/kg/日をday1~15まで内服しDSの発症予防効果を検討し,過去のLPA96研究と比較して発症率が低い傾向がみられた1)。寛解導入療法時のDS発症予防には,副腎皮質ホルモン投与は有効であると考えられるが,易感染状態を惹起する可能性もあるため,一律の投与には慎重であるべきと考える。

参考文献

1)Montesinos P, et al. Differentiation syndrome in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline chemotherapy : characteristics, outcome, and prognostic factors. Blood. 2009 ; 113(4): 775-83.(3iiiDiv)
2)De Botton S, et al. Incidence, clinical features, and outcome of all trans-retinoic acid syndrome in 413 cases of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Blood. 1998 ; 92(8): 2712-8.(3iiiDiv)
3)Tallman MS, et al. Clinical description of 44 patients with acute promyelocytic leukemia who developed  the retinoic acid syndrome. Blood. 2000 ; 95(1): 90-5.(3iiiDiv)
4)Breccia M, et al. Increased BMI correlates with higher risk of disease relapse and differentiation syndrome in patients with acute promyelocytic leukemia treated with the AIDA protocols. Blood. 2012 ; 119(1): 49-54.(3iiiDiv)
5)Sanz MA, et al. How we prevent and treat differentiation syndrome in patients with acute promyelocytic leukemia. Blood. 2014 ; 123(18): 2777-82.(レビュー)
6)Sanz MA, et al. Risk-adapted treatment of acute promyelocytic leukemia with all-trans-retinoic acid and anthracycline monochemotherapy : a multicenter study by the PETHEMA group. Blood. 2004 ; 103(4): 1237-43.(3iiiDiv)


 

CQ5 初発APLのATRAと化学療法による寛解後の至適な地固め療法は何か

推奨グレード
カテゴリー1

3サイクルのアントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用の地固め療法が推奨される。

推奨グレード
カテゴリー2B

APLの地固め療法にATRAやATOを組み込むことにより,EFSの改善を期待できる。(ATOは国内保険適用外)

解説

 JALSG臨床研究APL97,APL204では,寛解後療法として,3コースのアントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用の地固め療法が施行され高いOSを報告している1)
 近年,ATOを初発の寛解導入,地固め療法に組み入れることにより,EFSの改善が示された論文が発表されている。North American Leukemia Intergroup Study C9710の481例の初発APLの寛解後療法にATOを加えるか加えないかのランダム化比較試験において,ATO群,ATOなし群で,3年EFSは,80%と63%であり,EFSは有意に改善をしていた2)。中国,上海グループの同様の研究においても,109例に対して,ATOを加えた地固め療法と加えない地固め療法を比較している。5年のEFSは,94.4% vs 54.8%(p=0.0001)であった。OSにおいても,95.7% vs 64.1%(p=0.003)と有意の差を示している3, 4)
 また,Italian-German APL0406 Trialでは,低リスクの症例において,化学療法フリーにすることにより,より安全に,かつ有害事象を少なくして,治療を完遂できることが示唆されている5)。特に化学療法による有害事象の影響を受けやすい高齢者では福音となる。したがって,初発APLの寛解後療法において,併存疾患があって強力な化学療法を行うことができない場合にはATO+ATRA併用療法を行うことによる利点があると考えられる(2018年5月現在,わが国では初発APLの地固め療法にはATOは未承認である)。
 現状では,地固め療法として,アントラサイクリン系薬剤[イダルビシン(IDR),ダウノルビシン(DNR),ミトキサントロン(MIT)]が基本である6)が,これにシタラビン(AraC)またはATRAが併用されている。イタリアのAIDA2000研究では過去のAIDA0493研究を改訂し,全例でATRAの併用と高リスク群でのAraCの併用を行ったところ,高リスク群で再発率が有意に減少した7)

参考文献

1)Shinagawa K, et al. Tamibarotene as maintenance therapy for acute promyelocytic leukemia : results from a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2014 ; 32(33): 3729-35.(1iiDiv)
2)Powell BL, et al. Arsenic trioxide improves event-free and overall survival for adults with acute promyelocytic leukemia : North American Leukemia Intergroup Study C9710. Blood. 2010 ; 116(19): 3751-7.(1iiDi)
3)Shen ZX, et al. All-trans retinoic acid/As2O3 combination yields a high quality remission and survival in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 ; 101(15): 5328-35.(1iiDi)
4)Lou Y, et al. Long-term efficacy of low-dose all-trans retinoic acid plus minimal chemotherapy induction followed by the addition of intravenous arsenic trioxide post-remission therapy in newly diagnosed acute promyelocytic leukaemia. Hematol Oncol. 2014 ; 32(1): 40-6.(2Di)
5)Platzbecker U, et al. Improved Outcomes With Retinoic Acid and Arsenic Trioxide Compared With Retinoic Acid and Chemotherapy in Non-High-Risk Acute Promyelocytic Leukemia : Final Results of the Randomized Italian-German APL0406 Trial. J Clin Oncol. 2017 ; 35(6): 605-12.(1iiDi)
6)Adès L, et al. Treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia(APL): a comparison of French-Belgian-Swiss and PETHEMA results. Blood. 2008 ; 111(3): 1078-84.(3iiiDi)
7)Lo-Coco F, et al. Front-line treatment of acute promyelocytic leukemia with AIDA induction followed by risk-adapted consolidation for adults younger than 61 years : results of the AIDA-2000 trial of the GIMEMA Group. Blood. 2010 ; 116(17): 3171-9.(3iiiDii)

 

CQ6 初発APLの寛解例における至適な維持療法は何か

推奨グレード
カテゴリー2B

60地固め療法終了時にRT-PCR法によるPML-RARAが陰性化している高リスク群では,ATRAまたはタミバロテン(Am80)内服を中心とした維持療法が考慮される。

解説

 維持療法は,寛解導入療法,地固め療法とセットで考えるべき治療である。イタリアのAIDA0493研究ではATRA,ATRA/メトトレキサート(MTX)/メルカプトプリン(6MP),MTX/6MP,維持療法なし,の4群の比較研究が行われたが,12年無病生存割合(DFS)は4群に有意差はなかった1)。フランスのAPL93研究では同じ4群での比較検討を行っているが,10年累積再発率はATRA/MTX/6MP群が最も低く,特に初診時白血球高値群(WBC>5,000/μL)において有効であった2)。また,維持療法なしに比べて,ATRA単独,MTX/6MPも有効であった。わが国のJALSG APL97研究では3),6コースの維持療法として点滴静注による多剤併用化学療法と無治療観察群の前方視的比較研究が実施されたが,両群に有意差はなく,むしろ化学療法群で不良な傾向にあった。この結果より,維持療法としての多剤併用化学療法は推奨できないことが示された。以上より,低リスク群(白血球≦10,000/μL,血小板>40,000/μL),および中リスク群(白血球≦10,000/μL,血小板≦40,000/μL)での最適な維持療法は今後の課題であるが,高リスク群(白血球>10,000/μL)ではATRA内服を中心とした維持療法を考慮する。
 JALSG APL204研究では,初発APLを対象として,寛解導入療法,3コースの地固め療法後にATRAまたはAm80の維持療法を比較された。4年間のRFSとして,ATRA群が84%,Am80群が91%であったが,高リスク群では,Am80群が有意にRFSを改善した4)

参考文献

1)Avvisati G, et al. AIDA 0493 protocol for newly diagnosed acute promyelocytic leukemia : very long-term results and role of maintenance. Blood. 2011 ; 117(18): 4716-25.(1iiDii)
2)Adès L, et al. Very long-term outcome of acute promyelocytic leukemia after treatment with all-trans retinoic acid and chemotherapy : the European APL Group experience. Blood. 2010 ; 115(9): 1690-6.(1iiDii)
3)Asou N, et al. A randomized study with or without intensified maintenance chemotherapy in patients with acute promyelocytic leukemia who have become negative for PML-RARalpha transcript after consolidation therapy : The Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG)APL97 study. Blood. 2007 ; 110(1): 59-66.(1iiDii)
4)Shinagawa K, et al. Tamibarotene as maintenance therapy for acute promyelocytic leukemia : results from a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2014 ; 32(33): 3729-35.(1iiDi)

 

CQ7 再発APLの至適な再寛解導入療法は何か

推奨グレード
カテゴリー1

再発APLの再寛解療法はATOを含むレジメンが第一選択となる。

推奨グレード
カテゴリー2B

ATOが有害事象で使用できないとき,ゲムツヅマブ オゾガマイシンまたはタミバロテンを含むレジメンの使用を考慮する。

解説

 ATRAと化学療法の併用により急性前骨髄球性白血病の初回治療は進歩したが,約15~20%の患者は再発している。再発時の治療レジメンを選択する場合に,その症例の初回治療レジメンを考慮しなければならない。最近では,ATRAとATOを初回治療にて併用するレジメンも発表されており,今後の再発症例の質も次第に変わってくると思われる。
 ATRAをベースとした寛解導入療法施行症例の再発では,ATOの投与により80~90%の症例で分子生物学的再寛解が得られる1-4)。再発APLに対してATOによる寛解導入後自家移植を行うJALSG APL205Rプロトコールは,CR率は,81%であり,5年のEFS,OSはそれぞれ,65%,77%であった5)
 ATOとATRAはin vitroで,APL細胞に対して相乗的に作用することが知られている。初回ATRA治療後の再発の小規模なランダム化比較試験において,ATOにATRAを追加した群に予後の改善がみられなかったことから,ATRA治療後の再発例ではATOにATRAを併用する意義は大きくないと考えられている6)
 ATOを使用できない場合,ゲムツヅマブ オゾガマイシン(GO)が第一選択となる。分子再発例に対するGO 単剤の投与では,2回投与で81.8%の症例に分子生物学的再寛解が得られたと報告されている7)。GOは移植後に類洞閉塞症候群をきたす可能性があり,移植予定例には使用を避けるか,移植までに一定期間をあける必要がある。合成レチノイン酸タミバロテン(Am80)については,ATRA治療後の再発例に対する第Ⅱ相試験で58%の再寛解導入率であったが8),現時点ではATO,GOに次ぐ治療と考えられる。
 再発症例の少なくとも5%にCNS浸潤がみられることから,治療計画を立てる際にはCNS予防のことを必ず考慮すべきである。CNS再発をきたしていても,頭痛などの症状はなく,髄液検査の際に気づかれる場合もある。CNS再発を起こしている場合,多くは,血液学的再発例であるが,分子学的再発のみであったとの報告もある。European APL Groupからの報告では,再発例の5.3%にCNS浸潤が認められたという。CNS再発を起こしやすい因子としては,初発時45歳以下,WBC 1万/μL以上が抽出された9)
 CNS再発ではメトトレキセート,シタラビン,ハイドロコルチゾンによる髄注を週に1~2回,髄液中の芽球が消失するまで実施し,地固めとして追加で6回程度続けて終了する。髄注で所見が改善しない場合には,全脳脊髄照射や大量シタラビン療法の施行を検討する。

参考文献

1)Shen ZX, et al. Use of arsenic trioxide(As2O3)in the treatment of acute promyelocytic leukemia(APL): II. Clinical efficacy and pharmacokinetics in relapsed patients. Blood. 1997 ; 89(9): 3354-60.(3iiDiv)
2)Soignet SL, et al. United States multicenter study of arsenic trioxide in relapsed acute promyelocytic leukemia. J Clin Oncol. 2001 ; 19(18): 3852-60.(3iiiA)
3)Niu C, et al. Studies on treatment of acute promyelocytic leukemia with arsenic trioxide : remission induction, follow-up, and molecular monitoring in 11 newly diagnosed and 47 relapsed acute promyelocytic leukemia patients. Blood. 1999 ; 94(10): 3315-24.(3iiiDii)
4)Shigeno K, et al. Arsenic trioxide therapy in relapsed or refractory Japanese patients with acute promyelocytic leukemia : updated outcomes of the phase Ⅱ study and postremission therapies. Int J Hematol. 2005 ; 82(3): 224-9.(3iiiA)
5)Yanada M, et al. Phase 2 study of arsenic trioxide followed by autologous hematopoietic cell transplantation for relapsed acute promyelocytic leukemia. Blood. 2013 ; 121(16): 3095-102.(2Di)
6)Raffoux E, et al. Combined treatment with arsenic trioxide and all-trans retinoic acid in patients with relapsed acute promyelocytic leukemia. J Clin Oncol. 2003 ; 21(12): 2326-34.(1iiDiv)
7)Lo-Coco F, et al. Gemtuzumab ozogamicin (Mylotarg) as a single agent for molecularly relapsed acute promyelocytic leukemia. Blood. 2004 ; 104(7): 1995-9.(3iiiDiv)
8)Tobita T, et al. Treatment with a new synthetic retinoid, Am80, of acute promyelocytic leukemia relapsed from complete remission induced by all-trans retinoic acid. Blood. 1997 ; 90(3): 967-73.(3iiDiv)
9)de Botton S, et al : Extramedullary relapse in acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and chemotherapy. Leukemia. 2006 : 20(1), 35-41.(3iDii)

 

CQ8 ATOによるAPL第二寛解例の寛解後治療として何が勧められるか

推奨グレード
カテゴリー2A

ATOによる再寛解APL症例ではATOによる地固め療法後,RQ-PCR法による骨髄PML-RARA陰性例には自家移植が勧められる。

推奨グレード
カテゴリー2A

寛解後も骨髄PML-RARA陽性で移植可能症例には同種移植が勧められる。

解説

 ATOによる再寛解後にATOベースの寛解後治療を行った場合,1.5年OS 66%,RFS 56%と一定の長期生存も得られるが,再発も比較的多い1)。ATOによる再寛解後,ATOのみによる地固め療法とATOと化学療法の併用による地固め療法のOSを比較した上海グループの研究では後者が有意に優れていた2)。寛解到達後の寛解後療法として移植による地固め療法は有効である。インドの研究で再発APLに対して,ATO,ATO+ATRAにて寛解導入を行い,その後自家移植を行った群と行わなかった群のevent-free survival(EFS)を比較すると,83.3%と34.5%と有意に自家移植群が良かった3)。ATOによる再寛解後に移植の適応がない症例には,ATO治療後の再発例にも有効なゲムツヅマブ オゾガマイシン(GO)が勧められる4)
 ATOの登場以前にはATRAと化学療法による再寛解導入療法が行われていた。その第二寛解期の自家移植と同種移植を比較したヨーロッパグループのAPL91とAPL93研究では7年全生存割合(OS)が自家移植群59.8%,同種移植群51.8%と自家移植が優れていた5)。無再発生存割合(RFS)は79.4% vs 92.3%と同種移植が良かったが,治療関連死亡(TRM)が6%と39%と同種移植に多かった。EBMTの625例を解析した結果ではCR2の5年無病生存割合(DFS)は,自家移植で51%,同種移植では59%であった6)
 以上より,寛解後の骨髄細胞のMRDを評価し,自家移植あるいは同種移植を実施するのがよいと考えられる。移植ソースの選択については,再発までの期間が1年以内,あるいはMRDが存在する場合は同種移植,再発までの期間が1年以上でMRDが存在しない場合は自家移植を行うことを推奨されている。移植に不耐容と思われる症例には,ATOの地固めを続けるケースが多い。
 現在の本邦における標準的な再発APLに対する治療は,JALSGAPL205Rプロトコール7)と考えられる。ATRAおよび化学療法による治療後に再発したAPLに対し,治癒を目指した治療として,ATOによる寛解導入療法,ATOの地固め療法,ハーベスト,自家移植を組み合わせた治療プロトコールである。ハーベストレジメンとして大量シタラビン療法を用い,治療開始18~22日の間で1回または2回で採取できており,安全に自家移植も施行できている。

参考文献

1)Soignet SL, et al. United States multicenter study of arsenic trioxide in relapsed acute promyelocytic leukemia. J Clin Oncol. 2001 ; 19(18): 3852-60.(3iiiA)
2)Niu C, et al. Studies on treatment of acute promyelocytic leukemia with arsenic trioxide : remission induction, follow-up, and molecular monitoring in 11 newly diagnosed and 47 relapsed acute promyelocytic leukemia patients. Blood. 1999 ; 94(10): 3315-24.(3iiiDii/2Dii
3)Thirugnanam R, et al. Comparison of clinical outcomes of patients with relapsed acute promyelocytic leukemia induced with arsenic trioxide and consolidated with either an autologous stem cell transplant or an arsenic trioxide-based regimen. Biol Blood Marrow Transplant. 2009 ; 15(11): 1479-84.(2Di)
4)Lo-Coco F, et al. Gemtuzumab ozogamicin(Mylotarg)as a single agent for molecularly relapsed acute promyelocytic leukemia. Blood. 2004 ; 104(7): 1995-9.(3iiiDiv)
5)de Botton S, et al. Autologous and allogeneic stem-cell transplantation as salvage treatment of acute promyelocytic leukemia initially treated with all-trans-retinoic acid : a retrospective analysis of the European acute promyelocytic leukemia group. J Clin Oncol. 2005 ; 23(1): 120-6.(3iiA)
6)Sanz MA, et al. Hematopoietic stem cell transplantation for adults with acute promyelocytic leukemia in the ATRA era : a survey of the European Cooperative Group for Blood and Marrow Transplantation. Bone Marrow Transplant. 2007 ; 39(8): 461-9.(3iiiDii)
7)Yanada M, et al. Phase 2 study of arsenic trioxide followed by autologous hematopoietic cell transplantation for relapsed acute promyelocytic leukemia. Blood. 2013 ; 121(16): 3095-102.(2Di)

 

CQ9 高齢者APLの至適な治療方法は何か

推奨グレード
カテゴリー2A

全身状態が比較的良好な高齢者に対しては若年者と同様に,治癒を目指した治療を行うが,その強度は若年者より弱めるべきである。

推奨グレード
カテゴリー2A

重篤な併存疾患を持ち,アントラサイクリン系抗がん剤の投与が困難な高齢者に対しては,亜ヒ酸をベースにした治療も妥当と考えられる(国内保険適用外)。

解説

 高齢者APLは,初発時白血球数が少ない低リスク例が多く,治療反応性は若年者と変わらないものの,感染症などの合併症によって死亡する患者が多い。そのため化学療法の強度を弱めることにより,高齢者APLの治療成績改善が期待される。
 PETHEMAグループはATRAとイダルビシン併用の寛解導入療法とアントラサイクリン系抗がん剤中心の地固め療法からなるLPA96とLPA99の併合研究を年齢制限なしで行った。60歳以上の寛解率は良好だったものの,感染症による早期死亡は高率であった1)。GIMEMAグループは地固め療法3コースからなるAIDA療法を,60歳以上では1コースに減らすことにより,治療関連有害事象を減らし,同等の治療成績を得た2)
 ATOは年齢依存の副作用が少なく,高齢者APLに対しても期待される。Intergroup C9710研究では,地固め療法でATOを単独で追加した群は61~79歳の高齢者群でも有意な予後の改善を認めた3)。MDアンダーソンがんセンターは,寛解導入・地固め療法にATOとATRAを併用投与した試験を行い,60歳以上でも良好な結果を報告している4)。高齢者には,通常の抗がん剤より致命的な有害事象をきたすことの少ないATOベースの治療を行うのも妥当と考えられるが,2020年8月現在保険適用外である。

参考文献

1)Sanz MA, et al. All-trans retinoic acid and anthracycline monochemotherapy for the treatment of elderly patients with acute promyelocytic leukemia. Blood. 2004 ; 104(12): 3490-3.(3iiDii)
2)Mandelli F, et al. Treatment of elderly patients(>or=60 years)with newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Results of the Italian multicenter group GIMEMA with ATRA and idarubicin(AIDA)protocols. Leukemia. 2003 ; 17(6): 1085-90.(1iiA)
3)Powell BL, et al. Arsenic trioxide improves event-free and overall survival for adults with acute promyelocytic leukemia : North American Leukemia Intergroup Study C9710. Blood. 2010 ; 116(19): 3751-7.(1iiDi)
4)Estey E, et al. Use of all-trans retinoic acid plus arsenic trioxide as an alternative to chemotherapy in untreated acute promyelocytic leukemia. Blood. 2006 ; 107(9): 3469-73.(3iiDiv)

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