構造化抄録
第Ⅰ章 白血病
Ⅰ 白血病
2 急性前骨髄球性白血病
分類 | APL |
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番号 | CQ3-1) |
文献ID | PMID:17241371 |
文献タイトル | Severe hemorrhagic complications during remission induction therapy for acute promyelocytic leukemia: incidence, risk factors, and influence on outcome. |
Evidence level | 3iiDi |
著書名 | Yanada M, et al. |
雑誌名,巻:出版年 | Eur J Haematol 2007;78:213-9. |
目的 | 未治療APL例におけるトレチノイン(ATRA)と化学療法による寛解導入療法における重篤な臓器出血の頻度とリスク因子を明らかにする。 |
研究デザイン | 後方視的解析 |
研究施設、組織 | JALSG |
研究期間 | 1997年5月〜2002年6月登録、2004年9月解析 |
対象患者 | 15〜70歳のt(15;17)陽性未治療APL 279例 |
介入 | ATRAと化学療法による寛解導入、化学療法3コースの地固め療法を施行し、6コースの強化維持療法の有無による比較試験を行なう。出血予防として血小板数30,000 /mL以上、フィブリノゲン150 mg/dL以上を保つように血小板輸血と凍結血漿補充を行なう。抗凝固療法の施行の有無は各施設に委ねる。 |
主要評価項目 | グレード3以上の頭蓋内出血あるいは肺出血を重篤な出血とし、その頻度、リスク因子および予後に与える影響を解析する。 |
結果 | 279例中重篤な出血を18例(6.5%)にday 0~21(中央値5日)に併発し、9例が早期死亡した。5年無イベント生存率は重篤出血がない261例は68.1%、出血例18例では31.1%であった(P<0.0001)。重篤な出血の高リスク因子は治療前フィブリノゲン100 mg/dL以下、白血球数20,000 /μL以上およびperformance status 2-3であった。 |
結論 | 重篤な出血の高リスク例では十分な出血対策を行なう必要がある。 |
作成者 | 麻生範雄 |
コメント | 出血発症時の血小板数が基準値以上の症例は71%、フィブリノゲンは40%であった。両者の十分な補充がとくに化学療法併用時には重要である。 |
分類 | APL |
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番号 | CQ3-2) |
文献ID | PMID:18195095 |
文献タイトル | Causes and prognostic factors of remission induction failure in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and idarubicin. |
Evidence level | 3iiDiv |
著書名 | de la Serna J, Montesinos P, Vellenga E, Rayón C, Parody R, León A, Esteve J, Bergua JM, Milone G, Debén G, Rivas C, González M, Tormo M, Díaz-Mediavilla J, González JD, Negri S, Amutio E, Brunet S, Lowenberg B, Sanz MA. |
雑誌名,巻:出版年 | Blood 2008;111:3395-402. |
目的 | トレチノイン(ATRA)とイダルビシン(IDR)による寛解導入失敗例の頻度と予後因子を明らかにする。 |
研究デザイン | 後方視的解析 |
研究施設、組織 | スペインを中心とするPETHEMAグループ |
研究期間 | 1996年11月〜2005年6月登録 |
対象患者 | 全年齢層(2〜78歳)のt(15;17)もしくはPML-RARA陽性の未治療APLでECOG PS 0~3でPETHEMAのLPA96およびLPA99試験へ登録の732例 |
介入 | 寛解導入療法はATRAとIDRの併用療法を行なう。血小板数を3万/mL以上、フィブリノゲンを150 mg/dL以上に保つように補充する。1999年11月より血小板5万以下あるいは凝固異常例に対してトラネキサム製剤の持続点滴を行なう。 |
主要評価項目 | 非寛解の頻度、原因およびその予後予測因子 |
結果 | 732例中666例(91%)に寛解が得られ、治療抵抗例はなく、非寛解の66例は全例早期死亡であった。早期死亡の原因は出血37例(5%)、感染症17例(2.3%)およびAPL分化症候群10例(1.4%)であった。出血の予測因子は治療前白血球数10,000 /μL以上、血清クレアチニン1.4 mg/dL以上および凝固異常例であった。感染の予測因子は60歳以上、男性および治療前感染症の存在であった。APL分化症候群の予測因子はECOG PS2~3、血清アルブミン3.5 g/dL未満であった。 |
結論 | ATRAとIDRによる未治療APLの非寛解の原因は出血、感染症およびAPL分化症候群による早期死亡であり、それぞれの予測因子を基に予防対策を行なう必要がある。 |
作成者 | 麻生範雄 |
コメント | 単一治療による大規模集団の寛解導入失敗例を解析した重要な知見である。ATRAによる寛解導入においても非寛解の主因は出血であり、その予防が重要であることを立証した。 |
分類 | APL |
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番号 | CQ3-3) |
文献ID | PMID:21502956 |
文献タイトル | Continuing high early death rate in acute promyelocytic leukemia: a population-based report from the Swedish Adult Acute Leukemia Registry. |
Evidence level | 3iiDiv |
著書名 | Lehmann S, Ravn A, Carlsson L, Antunovic P, Deneberg S, Möllgård L, Derolf AR, Stockelberg D, Tidefelt U, Wahlin A, Wennström L, Höglund M, Juliusson G. |
雑誌名,巻:出版年 | Leukemia 2011;25:1128-34. |
目的 | 人口動態調査に基づく未治療APL例の寛解と非寛解、生存率の実態調査を行なう。 |
研究デザイン | 後方視的解析 |
研究施設、組織 | Swedish Adult Acute Leukemia Registry |
研究期間 | 1997年〜2006年 |
対象患者 | 16歳以上の未治療APL105例 |
介入 | なし |
主要評価項目 | 寛解率、早期死亡の原因、全生存率 |
結果 | 30例(29%)が30日以内の早期死亡であった。12例(41%)は出血による死亡であった。早期死亡のうち10例(35%)はATRA治療を受けていないか、受ける |
結論 | 前であった。また、早期死亡は60歳以上の高齢者およびPS2~4 の症例に多かった。30日以内の早期死亡を除く97%に寛解が得られ、16%が再発した。65例(62%)が中央値6.4年の経過観察で生存中である。 |
作成者 | APL症例全体では依然早期死亡率は高い。 |
コメント | 麻生範雄 |
分類 | APL |
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番号 | CQ3-4) |
文献ID | PMID:2189506 |
文献タイトル | Early deaths and anti-hemorrhagic treatments in acute promyelocytic leukemia. A GIMEMA retrospective study in 268 consecutive patients. |
Evidence level | 3iiiB |
著書名 | Rodeghiero F, Avvisati G, Castaman G, Barbui T, Mandelli F. |
雑誌名,巻:出版年 | Blood 1990;75:2112-7. |
目的 | 未治療APLの化学療法による寛解導入中の抗凝固、抗線溶療法の意義を明らかにする。 |
研究デザイン | 後方視的解析 |
研究施設、組織 | イタリアのGIMEMAの29施設 |
研究期間 | 1984年1月〜1987年12月治療の268例 |
対象患者 | 7〜78歳の未治療APL(M3)例 |
介入 | ダウノルビシン単独治療を126例、シタラビンとの併用療法を142例に施行。血小板数は30,000 /μL以上、フィブリノゲンは100 mg/dL以上を保つ。出血に対して、補助療法のみの群107例、ヘパリン群94例、トラネキサム酸による抗線溶療法群67例の三群で解析する。 |
主要評価項目 | 寛解率、10日以内の早期死亡 |
結果 | 268例の寛解率は62%、10日以内の死亡例34例中25例(74%)は出血であった。補助療法群107例、ヘパリン群94例、抗線溶療法群67例の寛解率はそれぞれ62%、62%および64%、10日以内の早期死亡は10.3%、9.6%および7.5%と有意差を認めなかった。早期死亡は治療前芽球が10,000 /μL以上例と相関した。 |
結論 | ヘパリンによる抗凝固療法およびトラネキサム酸製剤による抗線溶療法はともに出血による早期死亡を改善しない。 |
作成者 | 麻生範雄 |
コメント | ATRA以前の化学療法のみの時代の後方視的解析ではあるが、凝固異常の治療に関する比較試験がないため有用な研究である。 |
分類 | APL |
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番号 | CQ3-5) |
文献ID | PMID:2189506 |
文献タイトル | All-trans retinoic acid (ATRA) and tranexamic acid: a potentially fatal combination in acute promyelocytic leukaemia. |
Evidence level | 3iiA |
著書名 | Brown JE, Olujohungbe A, Chang J, Ryder WD, Morganstern GR, Chopra R, Scarffe JH. |
雑誌名,巻:出版年 | Br J Haematol. 2000; 110(4): 1010-2. |
目的 | APL患者において、ATRAによる寛解導入時のトラネキサム酸の影響を検討する。 |
研究デザイン | ATRAによる標準的寛解導入療法施行時、トラネキサム酸使用の有無での予後解析。後方視的検討 |
研究施設、組織 | 英国Christie Hospital |
研究期間 | 1991年から1998年 |
対象患者 | 初発APL患者31例 |
介入 | |
主要評価項目 | 寛解導入療法中の早期死亡・血栓症イベント |
結果 | トラネキサム酸を投与された21例のうち、4例が42日以内に早期死亡をきたし、うち3例は広範な血栓症が死因となった。投与を受けていない10例では早期死亡例はなく、血栓症をきたした症例もなかった。 |
結論 | ATRAとトラネキサム酸の併用は致死的血栓症の発症リスクを高める可能性がある。 |
作成者 | 藤田浩之 |
コメント | 厳密な比較試験ではないが、本報告より、ATRAとトラネキサム酸の併用は避けるべきと考える。PETHEMAはLPA96(トラネキサム酸未使用)、LPA99(トラネキサム酸使用)の試験結果を比較しLPA99で血栓症発症頻度が高い傾向にあったと2006年のASHで報告しているが論文化はされていない。 |
分類 | APL |
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番号 | CQ3-6) |
文献ID | PMID:22917769 |
文献タイトル | Recombinant human soluble thrombomodulin safely and effectively rescues acute promyelocytic leukemia patients from disseminated intravascular coagulation. |
Evidence level | 3iiiDiv |
著書名 | Ikezoe T, Takeuchi A, Isaka M, Arakawa Y, Iwabu N, Kin T, Anabuki K, Sakai M, Taniguchi A, Togitani K, Yokoyama A. |
雑誌名,巻:出版年 | Leukemia Res. 2012; 36: 1398-1402. |
目的 | APLに合併したDICに対してrTMを投与した際の有効性と安全性を検討する |
研究デザイン | JALSGスタイル寛解導入療法施行下で、DICに対してrTM投与症例と非投与症例との間の後方視的比較検討。 |
研究施設、組織 | 高知大学 |
研究期間 | 2002年から2012年 |
対象患者 | 初発APL患者17例 |
介入 | |
主要評価項目 | APL寛解導入療法中の出血イベントとDICからの離脱 |
結果 | rTMを投与された9例は、非投与症例8例(輸血補充療法5例、低分子ヘパリン3例)に比べて、DICからの早期離脱、FFP使用量の有意な減少が見られた。rTM投与症例では出血イベントは見られなかった。 |
結論 | rTMは、APLに合併したDICに対して有効性と安全性に優れる。 |
作成者 | 藤田浩之 |
コメント | APLに合併したDICに対するrTMの有効性を示しているが、ヒストリカルコントロールとの比較であることと症例数の少なさのためエビデンスレベルは低い。 |
分類 | APL |
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番号 | CQ3-7) |
文献ID | PMID:10792270 |
文献タイトル | Early haemorrhagic morbidity and mortality during remission induction with or without all-trans retinoic acid in acute promyelocytic leukaemia. |
Evidence level | 2A |
著書名 | Di Bona E, Avvisati G, Castaman G, Luce Vegna M, De Sanctis V, Rodeghiero F, Mandelli F. |
雑誌名,巻:出版年 | Br J Haematol 2000;108:689-95. |
目的 | 未治療APLの寛解導入療法におけるトレチノイン(ATRA)の早期死亡に与える影響を明かにする。 |
研究デザイン | 後方視的解析 |
研究施設、組織 | イタリアのGIMEMAのグループ |
研究期間 | 1989年3月〜1993年9月(LPA0389試験)、1993年10月〜1997年10月(LPA0493試験) |
対象患者 | 未治療APL123例(LPA0389試験)と499例(LPA0493試験) |
介入 | イダルビシン(IDR)単独(LPA0389試験)とトレチノイン(ATRA)とIDR併用治療(AIDA療法、LPA0493試験)による寛解導入療法を行なう。両試験ともに血小板数は30,000 /mL以上、フィブリノゲンは100 mg/dL以上を保つ。 |
主要評価項目 | 10日以内の早期死亡率 |
結果 | 123例のIDR単独群とAIDA群の10日以内の早期死亡は7.3%と3.8%(P=0.09)、うち出血は4.1%と3%と有意差を認めなかった。しかし、血小板および赤血球輸血量は後者が有意に少なかった。10日〜40日の感染による死亡率のみ4.9%と1.4%と有意差を認めた(P=0.02)。寛解率はそれぞれ76%と92%と有意にAIDA療法が優れ、治療抵抗例が8%と0.2%と大きく異なったためと考えられた。 |
結論 | AIDA療法はIDR単独治療に比して出血や早期死亡率に有意差なかったが、寛解率は有意に優れていた。 |
作成者 | 麻生範雄 |
コメント | ヒストリカルコントロールとの後方視的比較試験であるが、補助療法は同一であり、年齢や白血球数で調整することで比較が可能と思われる。 |