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JSH Travel Award for EHA Congress 参加レポート(綿貫慎太郎 先生)

更新日時:2021年7月5日

JSH Travel Award for EHA Congress(綿貫慎太郎 先生)

綿貫慎太郎 先生
慶應義塾大学医学部血液内科

 この度、EHA25 Virtualへの参加にあたって、JSH Travel Award for EHA Congressを賜ったことから本コーナーに寄稿する機会を頂戴しました。私自身、まだまだ臨床医としても、研究に携わる者としても未熟ではありますが、EHA25 Virtualに参加した感想を踏まえ、「初期研修医、学生の皆様へ」、私が今感じている血液内科や血液研究の面白さをお伝えします。

 2020年は未曽有のコロナ禍の影響で国内外を問わず対外活動が大幅に制限され、EHA Congressも初のVirtual開催となり、私はポスターをオンラインで発表させて頂きました。

 私は現在大学院博士課程4年次で、国立国際医療研究センターの田久保圭誉博士の研究室にて造血幹細胞の代謝制御の基礎研究をしています。造血幹細胞は生涯にわたって個体造血を行う、血液細胞社会のいわば頂点に位置する細胞です。したがって感染、抗がん剤、放射線照射などに対して高いストレス耐性を有します。この耐性の根幹は、骨髄低酸素環境における造血幹細胞の静止期性と、解糖系やミトコンドリアを柔軟に利用したATP産生と考えられていますが、その実態には不明な点が多い状況です。

 そこで私は、造血幹細胞に特異的な代謝制御メカニズムを新しい技術を用いて研究しています。生きた細胞内のATP濃度を解析可能なセンサーを搭載した骨髄細胞を解析することで、造血幹細胞がほかの血液細胞と異なるATP産生の可塑性を有していることを見出し、メカニズムも同定しました。造血幹細胞は重要な細胞でありながら全血球中に占める割合は極めて小さく、その代謝を解析するには膨大な細胞数が必要とされています。私の研究によって、生きた造血幹細胞の代謝動態やストレス応答を少ない細胞で解析可能となったため、今後同様の解析を疾患特異的な細胞に応用し新規治療法の開発にも役立てられると考えております。

 今回私がEHA25 Virtualに参加させて頂いて、2つ感想を持ちました。1つは、日本にいながらでも国際学会に参加できることで、国際学会参加への様々な敷居が低くなる効果があると感じました。これはコロナ禍がもたらした意外な副産物といえる良い点でした。もう1つは、オンライン開催によって国際学会の重要な機能である国際的な人脈構築の場、アピールの場が得難くなったことです。昨年はEHA以外の国際学会もVirtual化、あるいは延期となり、新たなネットワークやチャンスを作ることに以前より制限が増えています。しかしそんな時代でも、私はこれからも粘り強く自分をアピールし、研究者としてのキャリアを築いていきたいと考えています。期せずして以前よりもシビアになった道ですが、研究にはそれだけの価値があると実感しています。

 血液内科を志す医師には一定の割合で「悪性腫瘍の中で根治が目指せる分野であるから志望した」という人がいます。私が血液内科を志した理由にもそれが含まれています。また、血液疾患は治療効果が診察所見や血液データという形で現れやすいため、病棟主治医としても大きなやりがいを感じることができます。しかし、「根治しうる病気」であっても一定の割合で治療抵抗性の方がおり、治療の甲斐なく命を落とされる方は絶えないのが実情です。その事実を心に刻みながら、課題を科学的に克服する可能性を模索すること(=研究)が可能であることは、私にとって血液内科医という職業の魅力の一つです。

 かつて白血病と診断されればそれがイコール「死の宣告」であった時代と比較して、血液疾患の治療は今や目覚ましい発展を遂げています。しかし、私の様な若手血液内科医、あるいはこれから血液内科を志す医師にとってはあくまで諸先輩・先達が苦闘されて作り上げてこられた「今」の診療レベルは当たり前であり、さらにその先を目指すため自分たちに何が出来るかを常に考えていく必要があると思っています。

 色々と書かせて頂きましたが、実際の私の研究生活は、日夜様々な実験を試行錯誤しながら、次の一手を考えて思考・奮闘する日々です。それでも私は基礎研究をこれからも続けていきたいと思っています。「今」出来ることを反復するのみならず自分自身で「未来」を創っていけるかもしれない、そこに基礎研究の楽しさ、面白さを感じています。是非ともこれから血液内科を志す皆さんも、一度研究に触れ、出来ることなら一緒に切磋琢磨しながらより良い未来を創っていけたらと願う次第です。

 最後になりますが、今回EHA 25 Virtualにおける発表を後押しして下さった日本血液学会事務局および賞等委員会,国際委員会の先生方に改めて心より御礼申し上げます。また、ご指導頂いております慶應義塾大学医学部血液内科 岡本真一郎名誉教授,国立国際医療研究センター生体恒常性プロジェクト 田久保圭誉先生,ならびに多大なるご協力を頂きました共同研究者の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

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