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JSH Travel Award for EHA Congress 参加レポート(石尾 崇 先生)

更新日時:2021年7月5日

JSH Travel Award for EHA Congress(石尾 崇 先生)

石尾 崇 先生
北海道大学大学院医学研究院 血液内科学教室

この度は25th Congress of European Hematology Association (EHA)の発表にあたり、日本血液学会 EHA Travel Awardの受賞を賜り,誠にありがとうございました。本年度のEHAはドイツのフランクフルトで開催される予定でしたが、COVID-19の影響によりWeb開催に変更となりました。現在ドイツに留学されている先生に会うことが出来ず残念でしたが、初めてEHAに参加して欧州を中心とした各国の参加者の発表を拝見し、今後の研究を進めて行く上で多くの収穫があったと思います。

今回のEHAでは、CRISPR/Cas9を用いた成人T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATLL)の新規治療標的となる遺伝子の同定について発表を行いました。ATLLはhuman T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1)がCD4陽性T細胞へ感染しキャリアとして50年程度の長い潜伏期間を経過した後に発症する予後不良の疾患で、新規治療の開発が求められています。CRISPR/Cas9は高効率かつ高い特異性で目的遺伝子をノックアウトする先進的ゲノム編集技術で、2020年に生みの親であるEmmanuelle M. Charpentier博士とJennifer A. Doudna博士にノーベル化学賞が授与され脚光を浴びている分野です。本学会でもCRISPR/Cas9を用いた多くの研究結果が報告されておりました。

私たちはATLL細胞株にCRISPR/Cas9を用いて約20000の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ、細胞毒性に寄与する遺伝子のスクリーニングを行い、細胞周期のG1-S期移行に関わるCDK6 (Cyclin dependent kinase 6)がATLLの増殖および生存に必須であることを証明しました。この結果からATLL細胞株にCDK4/6阻害薬(palbociclib)を用いたところ、多くの細胞株でpalbociclibの有効性を確認しましたが、一部のATLL患者に認めるp53異常を有する細胞株がpalbociclibに抵抗性でした。CRISPR/Cas9を用いてp53をノックアウトしたATLL細胞株でmTOR pathwayが亢進することを鑑み、私たちはpalbociclibにmTOR阻害薬(everolimus)を併用することを試みました。その結果、Rbタンパクのリン酸化を著明に抑制できることが分かり、p53異常を有するATLL細胞株に対しても治療効果を認め、この併用療法が臨床応用となりうることを示しました。

血液内科では基礎研究の成果から得た新規治療が次々と臨床応用されています。また、実臨床では一人の患者さんに対して診断から治療までを自分たちで完遂することができます。今回のレポートを執筆する上で、改めて魅力のある科だと実感しました。本研究が将来的に臨床応用され、実臨床でお役立てできることを望んでおります。

最後になりますが、このような機会を与えて頂きました日本血液学会事務局および国際委員会の諸先生方、日頃よりご指導を頂いている中川雅夫先生、豊嶋崇徳教授、並びに本研究にご協力頂いた皆様に感謝申し上げます。そして、COVID-19が終息し以前のように学会が開催されることを心より願っております。

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