日本血液学会

研修医・医学生のみなさま | For Young Doctors
関連ページ
第86回日本血液学会学術集会
The 14th JSH International Symposium 2024 in Hakodate

先輩たちからのメッセージ(水牧 裕希 先生)

更新日時:2021年7月5日

「血液内科は面白い!」

水牧 裕希
金沢大学医薬保健研究域医学系血液内科学・恵寿金沢病院内科

<血液内科に決めたきっかけ>

初めて血液内科に関心を持ったのは、高校生の時に読んだ「世界の中心で 愛をさけぶ」という小説がきっかけでした。小説の中で高校生だった主人公の恋人が白血病で亡くなるのですが、同世代の何の罪もない若者が白血病で命を奪われる理不尽さに漠然とこの病気を克服する助けになりたいという思いを持ちました。その後、大学生となり4年生の系統講義で白血病の治療として同種造血幹細胞移植という治療があることを知り、通常の抗がん剤治療のみでは助けられない患者さん達を助けることができる移植医療に強い魅力を感じました。5年生の病棟実習では実際に同種移植後の患者さんを担当しました。残念ながらその患者さんは私が担当している間に亡くなられましたが、血液疾患の患者さんの力になりたいとの思いをより強くし大学卒業までには血液内科に進むことを決めていました。

<血液内科医としてのスタート>

初期臨床研修は、大学の先輩の勧めもあり日本で最も同種造血幹細胞移植を施行している虎の門病院で行いました。血液内科には1年目の12月からの2か月間に初めてローテートしました。全国から厳しい病状の造血器腫瘍の患者さんがたくさん紹介されてきていることもあり、移植患者さんを中心に多くの患者さんを担当する機会がありました。当初は日々の業務をこなしていくことで一杯一杯になり、血液内科医としてやっていけるのか自信を持てなくなりましたが、1か月ほどして少しずつ病棟業務に慣れてからは血液内科のやりがいや面白さに引き込まれていきました。その後も後期研修医として虎の門病院に残り血液内科で移植治療の経験を積みました。初期研修医の時よりもさらに忙しい日々でしたが、谷口修一部長が先の造血細胞移植学会で掲げられていたテーマである「<生きたい>に応える責任」を全うすべく全身全霊で難治性血液疾患の患者さんと向き合う姿勢を諸先輩方から学べたのは、何物にも代えがたい財産となりました。

<血液内科と研究>

血液疾患の基礎研究は、他の領域と比較してもその成果が臨床現場に還元しやすく、臨床医としての視野も広がると先輩の先生方から聞いていたこともあり、いつかは基礎研究をしてみたいと思っていました。5年目に母校である金沢大学に戻り、大学病院と関連病院でさらに2年間臨床経験を積み、7年目より本格的に大学院生として研究生活に入りました。中尾教授が世界的に再生不良性貧血(AA)をはじめとした骨髄不全症領域でご高名であったこともあり、金沢大学ではAAの基礎研究が盛んにおこなわれていました。私は、「AAにおけるescape hematopoiesis」をテーマとして研究生活をスタートさせました。簡単に説明しますと、AAは造血幹・前駆細胞(HSPC)上に提示されている何らかの自己抗原を、自己の細胞障害性T細胞(CTL)が認識し攻撃する結果、HSPCの枯渇・汎血球減少を来す自己免疫疾患であると考えられています。一部のAA患者さんには自己抗原提示を行うHLAクラスⅠ分子を欠失しCTLからの攻撃を免れる「HLA欠失血球」が存在しており、このHLA欠失の機序やHLA欠失以外の機序でCTLの攻撃を免れている血液細胞がないかを明らかにする研究でした。最初の1年半は何一つ目新しいデータが出ず、果たしてこのまま続けていてよいのか自問自答の日々でした。研究を始めて2年目の夏、二人のAA患者さんのシークエンスデータを眺めていたところ偶然、HLAクラスⅠ遺伝子の全く同じ箇所に変異があるのを見つけました。まさかと思い別の患者さんたちのデータを確認しところ、やはり同じ共通変異を複数名で確認できました。この発見をきっかけに、この共通変異を簡便に検出するアッセイを新たに確立し、今まで診断に難渋していた骨髄不全症患者さんでも免疫病態によるAAを正確に診断できるようになりました。まさに”From bench to bedside”を体現できる研究を行うことができmさいた。本研究の内容で日本血液学会第24回ヨーロッパ血液学会Travel Awardに選出していただき、学会発表する機会を与えて頂きました。

<最後に>

血液疾患は生活習慣や遺伝的な要因がなく若くして発症する方も多く、患者さんにとってはまさに晴天の霹靂です。特に同世代の患者さんと向き合っていくのは医者として苦しいときもありますが、懸命に病気と向き合って乗り越えていく患者さんを傍らでサポートしながら共に病気を克服できた時の医者としての達成感は他の科でも味わえないのではないか思います。また、免疫不全患者さんが数多くいるため、日々感染症管理を中心とした全身管理を行う必要があり、内科全般の幅広い知識を求められます。この点も、一般内科医として自ずと力をつけることが出来る血液内科の魅力だと感じています。是非、まず血液内科診療に触れてみてください。一人でも多くの血液内科医の仲間ができるのを楽しみにしています。

To Top