日本血液学会

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先輩たちからのメッセージ(嬉野 博志 先生)

更新日時:2021年7月5日

初期研修医・学生の皆様へ

嬉野 博志
佐賀大学 血液腫瘍内科

 私が、血液内科について面白いと感じるのは、臨床と研究が繋がりやすい点であると思います。臨床がメインであれ、基礎研究がメインであれ、医師をやっているとびっくりするくらい日々様々な疑問が出現し、なかなか解決に難渋し、現代医学の不完全さを味わうことと思います。学生時代・研修医時代はこの不完全な現代医学にさえついて行くことがやっとであることと思いますが、ある程度それが身についた後は、これらの新たな課題を見つけ克服することこそが現代に生きる我々の医師としての責務であり、それこそが医師としてのやり甲斐であると信じております(現在医学の常識も古来の人たちの様々な知恵の結集です)。どんなに小さな一歩でも一人一人の努力は後世に残る何らかの礎になると私は信じております。その点で私は血液内科を選んでよかったと思っておりますし、日々面白いです。

 研究の第一歩で行いやすいのは白血病などの細胞株を用いたin vitroの実験やマウスを用いたin vivoの実験になるかと思われます。ここから様々な知見が生まれますが、最終的には患者さんの検体を用いて、その知見を確認する作業が必要です。血液内科の研究では患者さんの検体である骨髄液や末梢血は比較的無理なく得ることができます(多大な患者さんのご協力の上です)。こうして得られた新たな知見は比較的スムーズに臨床の場面にフィードバックできており、タイムラグが比較的少なく、知見を臨床の場面でも実感しやすいかと思います。

 まだ大きいものはございませんが、私の研究をご紹介させていただきます。興味を持っていただければ幸いです。NK細胞の活性を司るKiller immunoglobulin-like receptor(KIR)多型が慢性骨髄性白血病の治療効果に影響を与えるかというものです。Next generation sequencingを行いアリルレベルでKIRアリル多型の解析を行い、いくつかの遺伝子多型(抑制の弱いアリル)がチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の治療効果に関連していることを突き止めました(Cancer Immunol Res. 2018)。さらにHLAのアリル多型にも注目しTreatment free remission (TFR)に注目するとまたいくつかのHLAアリルが良好なTFRに関与することが分かりました(Mol Cancer Ther. 2021)。ここから我々は初期治療からDeep molecular response(DMR)に至るまでは自然免疫であるNK細胞が主に作用し、TKI中止後の維持についてはT細胞による獲得免疫が重要なのではないかと仮説を立て更なる解析を行っております。初診から経時的・網羅的な免疫動態解析を行うことでこの疑問に答えられるかと思っております。
 新規DNAメチル化阻害剤の開発についても触れさせていただきます。ご存知の様に移植非適応の骨髄異形成症候群(MDS)の治療においてDNAメチル化阻害剤(アザシチジン)は非常に重要な役割を果たします。しかしながら1回/月サイクルで1週間毎日の注射剤の投与は負担が大きいと感じております。ここから我々は大原薬品工業(滋賀)と共同で新規経口DNAメチル化阻害剤の開発を行っております。DNAのメチル化異常がATLの発症・進行に関わっていること(BLOOD, 2020)やCML幹細胞維持にも関わっていることも分かってきておりMDS以外にもターゲットが広がればと思い日々研究を続けております。

 最後になりますが、色々な研究を行っていると様々な人との出会いやつながりが増え、それが非常に重要です。幸いこれまで、様々なよい出会いがあり、色々な人に助けてもらいました。手前味噌で申し訳ありませんが、血液分野の研究者は皆好意的で協力的な人ばかりと思っています。良い点ばかり(宣伝なので申し訳ありません)紹介しておりますが、ご興味持っていただけた学生さんや初期研修医の皆様は、自学・他学(当院もWelcomeです)どこでもいいので、一度血液教室の見学をしていただければ幸いです。

(中央が著者)

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