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新しい扉を開けた先に

更新日時:2023年11月17日

新しい扉を開けた先に

滝田 順子
京都大学大学院医学研究科 発達小児科

 もともと子どもの発達に興味があったので、小児科に進むこととしました。視野を広げたかったことと、研究に興味があったので、様々な難病の研究を行なっている東京大学小児科に入局させていただきました。東京大学と焼津市立総合病院での研修医時代に経験した死亡症例で一番多かったのが小児がんの患者さんであったことから、小児がんを治せる小児血液腫瘍医になることを決心しました。がんを克服するためには、分子病態を理解することが重要と考え、遺伝学的な研究を行うために卒後3年目から国立がん研究センター研究所(NCC)生物学部にリサーチレジデントとして赴任する機会を与えていただきました。
 そして、ゲノム解析の手法を用いて神経芽腫の標的遺伝子の研究を開始しました。その後は研究と臨床を両輪で進めるPhysician Scientistを志し、東京都立駒込病院で小児血液腫瘍の臨床に携わりつつ、NCCと東京大学小児科研究室で研究を続けました。2003年には東大小児科助手となり大学院生の指導にもあたるようになりました。またこの頃から東大血液内科の先生方とマイクロアレイを用いたゲノム解析に着手し、2005年からは東大無菌治療部の講師に就任しました。そして、造血細胞移植に携わる傍ら、2008年に神経芽腫の治療標的となりうるALK遺伝子の異常を発見し、Nature誌に発表することができました。Nature誌の論文は、中国、韓国からの女性の留学生の先生と一緒に行ったプロジェクトで、女性3人が第一著者という形で発表しました。女性3人が第一著者という論文はNature誌ではじめてだったようです。
 その後、国内においてようやく2018年に難治性小児固形腫瘍に対するALK阻害剤の第I/II相臨床試験が開始されました。10年かかりましたが、本邦の患者さんに私どもの研究成果が届けられたことをとてもうれしく思っています。2013年には東大小児科の准教授となり、教室の臨床、研究の指導を行う立場となりましたが、チーム医療を有効に活用して、女性医師も積極的に助教として指導的立場につくよう支援を行いました。カンファレンスの時間は日勤帯に行うようにする、タスクシフトを徹底するなどの工夫によって、子育て中の女性医師も助教として働ける環境づくりに注力しました。そして、思いもかけずに2018年より現職の京都大学小児科教授に就任することとなりました。京都に赴任して早くも5年目を迎えましたが、周りに助けられながら、毎日楽しく臨床と研究を進めています。思えば、井の中の蛙ではいけないと思い、視野を広げるために東大小児科の医局の扉を開けたことにはじまり、NCCの扉、そして京大小児科の扉、3つの新しい扉を開けて、世界を広げてきたことで、いろいろなチャンスや成果にたどり着くことができました。男女を問わず、勇気をもって新しい扉をこじ開けて進んだ先に、広がる未来があるものと確信しています。
 女性医師が活躍するためには、病児保育室や両立支援制度などのハード面での整備ももちろん重要ですが、何よりも肝要なのは新しい扉をこじ開ける勇気やモチベーションではないかと愚考します。日本血液学会の会員の中に、今後益々、新しい扉を開けて羽ばたく女性医師・研究者が増えることを祈念いたします。

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