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先輩たちからのメッセージ(酒井 和哉 先生)

更新日時:2022年4月4日

初期研修医、学生の皆様へ

酒井 和哉
(奈良県立医科大学輸血部)

「血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)は全身性の微小血管に血小板血栓が生じ、虚血性の臓器障害をきたす疾患です。血中の止血因子であるvon Willebrand因子の特異的酵素であるADAMTS13の活性が自己抗体産生もしくは遺伝子異常によって著減することで生じると考えられています。」

この文章を読むだけで、「なんでこんなに血液内科はわかりにくいんだ!」「国家試験ではTTPはどうせ出ても1問あるかないかだろう。」と思っておられる初期研修医、医学生の方は多いのではないでしょうか。私も学生の頃は化学療法の略語が羅列し、疾患が目に見えないためイメージしにくい血液内科は苦手でした。そんな私がなぜ現在、TTPの基礎研究のため、ベルギーのKU Leuven Campus Kulak Kortrijk, Laboratory for thrombosis researchに留学するに至ったのでしょうか。それは人と人のめぐり合わせ、そして血液疾患の面白さに魅せられたからなのだと思っています。

今から遡ること14年前になりますが、当時私は奈良県立医科大学の医学部3回生でした。偶然にも研究室配属という大学のカリキュラムにおいて、2か月間の研修を輸血部で受けることになりました。先代の藤村吉博名誉教授、松本雅則教授のご指導の下で希少疾患であるTTPの国内レジストリーのデータマネージメントやADAMTS13活性測定方法などを学びました。また、研修期間中には研究会や学会にも参加させていただき、卒後の研究報告の場を学生ながらに肌で感じることが出来ました。当時、松本教授から言われた「最低1つは質問しなければ懇親会で食事を食べてはいけない。」というルールはその後今日に至るまで守り続けていますが、この質問という行為も人脈を広げるために重要であると今では身に染みて感じています。

研修後も輸血部に出入りすることで、気づけば苦手だったはずの血液内科を志すようになりました。藤村名誉教授、松本教授の勧めもあり、卒後は共同研究施設である倉敷中央病院上田恭典先生のもとで血液内科の基礎を学びました。非常にハードな研修でしたが、責任をもって患者さんそしてその家族と向き合うことで、医師として重要な礎を築くことが出来たと感じています。200%の充実した研修を送らせていただいた上田先生には心より感謝しています。また、非常に優秀な先輩方にも恵まれ、いかにして学会報告をスマート行うかも学びました。臨床データをまとめて学会報告を繰り返す過程で、患者さんの治療方針に関わるような研究をしたいという気持ちが芽生えるようになりました。

5年の臨床研修を終え、2016年より奈良県立医科大学医学研究科の博士課程に進みました。奈良県立医科大学輸血部は血液製剤の管理を行う病院の中央部門でありながら、日本国内のTTPレファレンスセンターとして20年以上に渡って全国からのTTP疑い症例のADAMTS13検査を実施し、ADAMTS13およびvon Willebrand因子(VWF)についての研究を行うユニークな部署になります。2017年の秋頃にバイオベンチャーのタグシクスバイオ社よりVWF A1ドメインを阻害するDNAアプタマーの機能評価を行う共同研究の依頼があり、同研究に従事する機会を得ました。この研究を通して私は創薬のプロセスを学ぶという貴重な経験をしつつも、あまりにも薬剤開発の経緯を理解せず普段処方していることを痛感しました。また、同じ年に自己免疫性疾患である後天性TTPと疾患感受性HLAの関連を調べる研究を多施設共同研究で実施することになりました。初めての経験でしたが、研究責任者としてプロトコールの作成、参加施設のリクルート、参加施設でのIRB承認取得を始め、採取したサンプルの輸送方法確認、データの取り扱い方法まで多岐にわたる項目について経験することができました。残念ながらHLA解析結果を輸血部内で解釈しきることは不可能でしたが、思い切って専門家の先生方に頼み込んで研究に参加いただいた結果、実験結果は思わぬ形で発展することになりました。私達の日本人TTP患者を対象にしたHLA解析では、DRB1*08:03が疾患感受性HLAであることが示され、これは欧州系のDRB1*11:01とは異なるものでした。現在、これらのアリル由来のDR分子がどのようなADAMTS13ペプチドと結合し、抗原提示されうるかをin vitroの実験系で検討しているところです。そして、流れるように時は過ぎて、2020年3月に無事に博士(医学)を取得することができました。ここでもベンチャー企業や異なる分野の専門家の先生、レジストリーに協力頂いている主治医の先生方との繋がりが成功につながったのだと思っています。

学生の頃より「いつかは短期間でもいいから留学してみたいなあ。」という漠然とした希望はありましたが、学位取得後に実際に留学するチャンスが舞い降りてきました。TTP分野の基礎研究を精力的に行っているベルギーKU LeuvenのKaren Vanhoorelbeke先生より留学のOKがもらえたのです。大きくコロナ禍の影響を受けましたが、1年の準備期間を経て2020年7月よりPost-doctoral fellowとしてTTPの自己抗体のImmunoprofiling検討など新たな研究プロジェクトに取り組んでいます。冒頭にも述べましたが、人と人とのめぐり合わせ、面白いと思える疾患に出会えたことは私にとって非常にかけがえのない宝物です。学生の頃から面倒見てくださっている藤村先生、松本先生はじめお世話になっている先生方、そしていつもサポートしてくれている家族には感謝しても感謝しきれません。地方大学の中央部門からでも多くのことを学ぶことができました。きっと皆さんにも十分なチャンスは転がっているのだと思います。あとは飛び込んで行く勇気でしょうか。

最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった日本血液学会広報委員会の下田先生、保仙先生にこの場を借りて深くお礼申し上げます。


松本先生(左)と藤村先生(右)留学直前に


欧州血栓止血学会2021にてラボメンバーと、右手前がKaren Vanhoorelbeke先生

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