日本血液学会

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第84回日本血液学会学術集会

先輩たちからのメッセージ(藤野 赳至 先生)

更新日時:2022年1月18日

血液内科へようこそ!

藤野 赳至
(東京大学医科学研究所・細胞療法分野)

 学生、研修医の皆さん、このページをご覧いただきありがとうございます。私は現在、血液腫瘍の発症メカニズムについて研究していますが、この文章が皆さんの進路選択の参考になれば幸いです。

<血液内科に興味を持ったきっかけ>

 私はもともと理学部で生物学を専攻し、多能性幹細胞の筋肉や神経への分化誘導法を研究していました。ちょうど山中先生がiPS細胞を樹立された時期と重なっていたこともあり、自分の研究が病気の治療に役立つ可能性に胸が躍ったことを覚えています。その過程で、生物学と病気の関係を系統的に学びたいと考えるようになり、医学部に編入学しました。このような経緯から、医学部に入学した時点で既に病気の研究に携わることは心に決めていました。その後、学生の時に受けた講義で、血液内科と神経内科に興味を抱きました。その理由は、造血幹細胞から最終分化細胞に至るヒエラルキー構造や、大脳皮質から筋肉への運動ニューロンによる神経支配など、どちらも組織の制御機構が系統立っていて美しいと感じたことでした。

<血液内科の魅力>

 病院での実習や初期研修では、血液内科と神経内科を重点的に回りました。臨床での経験は、血液学という学問とは異なる観点から、血液内科についての多くのことを私に教えてくれました。以下、他科と比較した血液内科の特徴を、血液腫瘍を例として3つ挙げたいと思います。
 第一に、血液腫瘍は発症年齢が他の固形腫瘍と比較して若いため、患者さんがライフステージの重要な場面にあることが多い点です。その一方、骨髄移植による根治治療にも関わらず完治せず、若くして命を失うケースも少なくありません。このような患者さんの診療は責任が重いものですが、少しでも力になりたいという気持ちは日々のモチベーションにつながりますし、学問的な興味を超えた研究の意義がここから見えてきます。第二に、血液腫瘍は化学療法に対する感受性が強く、これが根治的治療となり得る点です。しばしば、外科医の「メス」に相当するものは血液内科医の「抗癌剤」に例えられ、血液内科では癌診療の診断から根治を目指した治療までを一括して担います。これは外科的切除が根治的治療である多くの固形腫瘍と異なるポイントであり、血液内科医の魅力の一つと言えるでしょう。最後に、血液サンプルは採取が容易であり、患者の病態の変化を時間軸として捉えることができることです。この点は生検をしなければ検体が得られない固形腫瘍と比較して、研究を行う上で大きなアドバンテージとなっています。また、健常者に対しても採血であれば侵襲性が比較的低く、その解析は病気の進展機序を発症前に遡って調べることを可能にします。例えば、健常者から採取した血液検体を用いた最近の研究で、正常組織においても遺伝子変異を有する細胞がクローン性に増殖し、腫瘍の発生母地になっていることが他の臓器に先駆けて明らかにされました。これは、基礎研究における血液分野の優位性を示す好例と言えるでしょう。
 以上のような血液内科の魅力に加え、印象深い患者さんや優れた指導医の先生との多くの出会いに恵まれ、私は最終的に血液腫瘍の研究に携わることに決めました。

<私と血液研究>

 研修後は東京大学医科学研究所の北村研究室に参加し、大学院生として研究生活をスタートしました。ここで、私が行なってきた研究について簡単に紹介します。近年のDNAシークエンス技術の急速な発展により、血液腫瘍の発症に関与する遺伝子変異が明らかになってきました。前述した通り、このような遺伝子変異は腫瘍を発症する前の健康な状態で既に見出され、変異を有する血球細胞は時間の経過とともに増えていきます。このような現象は「クローン性造血」と呼ばれ、血液腫瘍の発症リスクを高めるだけでなく、冠動脈疾患や脳血管障害の発症を促進することも明らかになっています。血液は全身を循環しているため、その異常が他の臓器の機能に影響を及ぼすことを示す興味深い知見です。私はクローン性造血で見出される遺伝子変異を有するマウスモデルを用い、クローン性造血が生じる機序を明らかにするとともに、腫瘍への進展を予防する方法を開発することを目指して研究を行ってきました。その成果は2021年に論文化され、現在も引き続き血液腫瘍の発症機構に関する研究を続けています。いつか自分の研究成果が臨床応用される日が来ることを目標に、今後も研究に邁進したいと考えています。

<終わりに>

 幼少時に読んだ新聞の記事に、「平成30年の未来予測」というものがありました。平成30年にはリニアモーターカーが開通し、癌が根治するようになると書かれていたことを記憶しています。前者は現実のものとなりつつありますが、後者は未だ実現が困難なことも多く、私たちはそれだけ難しい敵と戦っていることになります。血液学における腫瘍研究はそのフロントラインにあり、世界のレベルを肌で感じることができるエキサイティングな環境です。力のある皆さんが血液内科を志ざし、病気の克服にお力添えいただけることを願っています。
 最後となりますが、私が所属している東京大学医科学研究所の北村研究室は令和3年度をもって解散します。令和4年度から、東京大学薬学部の分子腫瘍薬学(北村研究室)として新たなスタートを切り、研究の一部は東京大学新領域創成科学研究科の先進分子腫瘍学分野(合山研究室)に引き継がれます。どちらの研究室も精力的に血液腫瘍の研究を行っていますので、積極的な参加をお待ちしています。


ラボリトリートの写真。一番右が北村先生、右から5番目が合山先生です。(筆者が写っている写真はなかなか見つかりませんでした、、、)

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