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先輩たちからのメッセージ(渡邉 達郎 先生)

更新日時:2021年11月25日

血液学研究の面白さ

渡邉 達郎
(佐賀大学 創薬科学共同研究講座)

 この度、初期研修医や学生の皆様へ、血液学領域の面白さを紹介してください、とお声がけいただきました。初めに、私の研究歴について、ご紹介いたします。私は理学部の出身で、埼玉大学での卒業研究と大学院修士課程の3年間は光合成細菌のタンパク質を精製し、生化学の研究を行っておりました。その後、博士課程に進学するにあたり、がんの生物学に興味がありましたので、埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所にて、ヘリコバクター・ピロリ菌の発がん因子による胃発がん機構の研究を行いました。2014年に佐賀大学 医学部に異動する際に、外因性の発がん因子による発がん研究に継続して携わりたいと思い、九州・沖縄地方で多い、HTLV-1ウイルス感染により発症する成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の研究を開始いたしました。これが私の血液学研究のはじまりとなりました。最近では、ATLや様々な血液腫瘍におけるエピゲノム異常、特にDNAのメチル化異常に注目し、病態形成への関与を明らかにするとともに、有効な治療標的となりうるか研究しております。

 私が思う血液学研究の面白さの一つは、臨床に近い位置で研究が可能ということです。血液検体は他の組織に比べて、低侵襲に採取が可能であり、例えば、日常診療の血液検査の残余検体を用いることで、比較的容易に実際の患者由来細胞の解析が可能です。私は研究対象を決める上で、サンプル入手の容易さも重要にしております。良い研究成果を残すためには、やはり実験量を増やすことも重要と考えております。やる気・設備が整っていて、研究対象が手元に無い、足りない、という事態は非常にもったいないと思います。この点も血液検体は融通が利きやすいと思います。最近では、免疫不全マウスに白血病患者さんの腫瘍細胞を移植し、新しい薬の抗腫瘍効果を検討することもルーチンで行えるようになってきました。この背景には遺伝子組み換え技術の発達や、免疫反応機構の解明、それに基づく、より免疫反応を抑制した遺伝子組み換えマウスの作出など、多くの研究成果の積み重ねがあります。また、次世代シーケンサーを用いた遺伝子検査の導入が進められ、遺伝子情報をもとにした病態の理解、治療方針の決定に活用され始めております。血液学領域では新技術や新薬の導入がスピード感をもって進められており、常に新しい刺激に満ち溢れている分野かと思います。血液学は知的好奇心を満たすことのできる研究分野ですので、まずは覗いてみてはいかがでしょうか?

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2017年3月 コロラド州 Keystoneにて:筆者が米国留学から日本への帰国を決めた際に、当時のボスに「コロラドに来たけど、結局一度もスキーに行けませんでした・・・」と話したところ、送別会はKeystoneのスキーリゾートで開催してくれました。右端が筆者です。
 

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2021年9月 研究室にて:筆者の最近の写真です。

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