日本血液学会 造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン2023年度版

表3:次世代シークエンサー (NGS)を用いたシークエンス法の比較

  WGS:
whole genome sequencing
WES:
whole exome sequencing
TS:
target sequencing
特徴 NGSを用いて、全ゲノム領域を解読する最も包括的な手法である。1塩基変異だけでなく、挿入・欠失、コピー数変化(減少、増幅、ヘテロ接合性の消失などを含む)、構造異常(転座、逆位、欠失、重複などを含む)、外来性ゲノム(EBVやHTLV-1ゲノムなど)などを検出可能である。非コード領域の遺伝子異常や構造異常の検出に有効である。 NGSを用いて、ほぼ全ての遺伝子のコーディングエクソン領域(タンパク質をコードするゲノム領域)を解読する方法である。コーディングエクソン領域に存在する遺伝子異常を検出可能であるが、非コード領域の遺伝子異常や一部の構造異常の検出は困難である。WESでは、コーディングエクソン領域以外の非翻訳領域やmicroRNAなどが対象に含まれる場合もある。 「がん遺伝子パネル検査」に用いられる遺伝子異常の検出法である。相補的核酸プローブを用いたハイブリダイゼーションやPCRによるアンプリコン増幅によって、標的とするゲノム領域を選択的に濃縮し、網羅的に解析する。また、mRNAから相補的DNAを合成し、TSをすることにより、一部の融合遺伝子・遺伝子再構成を検出することが可能である。臨床応用の観点からは、シークエンス費用、必要データ量、解析に要する時間などの点から、現状では最も現実的なシークエンス法である。
解析対象 ノンコーディング領域を含む全ゲノム ほぼすべてのコーディングエクソン 特定の遺伝子(通常500遺伝子程度まで)、SNPs、特定のノンコーディング領域など
解析検体 DNA DNA DNA、mRNAから合成したcDNA
シークエンス深度 通常30-50×程度 通常100×程度 通常300×以上
相対的コスト
データ量
MRD解析 適していない 適していない 可能だが、コスト、技術的な観点から確立していない。
臨床応用 現時点では、コスト面、実運用の観点から、現実的でない。シークエンス費用や解析手法、解析に要する時間の改善、取得データ量の最適化、得られたデータの解釈方法などが、臨床導入に向けた課題である。 コーディングエクソン領域の遺伝子異常の検出法として有用だが、コスト面ではTSと比較して高価であり、現時点で臨床導入は困難である。 現時点で最も現実的な網羅的遺伝子解析方法。本邦で2019年に保険収載された固形がんを対象としたがん遺伝子パネル検査もこの手法による。

注:がん細胞・組織由来のDNA解析と同時に、皮膚・爪・口腔粘膜等より抽出したDNAを同時解析し、生殖細胞系列の遺伝子異常の有無を鑑別することが望ましい。



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